万葉集その四百九十四  (女郎花)

( オミナエシ  山辺の道で 奈良県 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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( 向島百花園で   東京都)
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( 神代植物公園で  東京都 )
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( 同上 )
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( 同上 )
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秋の気配が漂いはじめると全国各地の野に黄色の可憐な姿をあらわすオミナエシ。
万葉集の原文では「佳人部為」「美人部師」「姫部志」「娘部志」などと書かれ、
いずれも「オミナエシ」と訓みますが、古の人たちはこの花を見て優雅で奥ゆかしい
女性を想像したのでしょうか。

オミナエシの語源については2説あり、その一は
『 「をみなへし」はその黄色い小花が「蒸した粟飯(あわめし)」のように見える。
  古代の女性は粟を主食にしていたため粟飯を「をんなめし」とよんでいた。
  その「をんなめし」が花の名前に転訛した。
  つまり「をみな」=「をんな」 「へし」=「めし」 』

いま一つは
『 「へし」に「押し倒す、圧倒する」の意の、漢字「押」があてられていることから
  「美女も圧倒するほど美しい」 』 の意。

大言海では後者の説を採用しています。

「 我が里に 今咲く花の をみなへし
    堪(あ)へぬ心に なほ恋ひにけり 」
                       巻10-2279 作者未詳

( 我が里で今を盛りと咲くおみなえし、
 その女郎花に恋をしてしまった。
 所詮叶わぬ恋、諦めようと堪えていたが
 恋心はますます募るばかり
 あぁ、美しい女郎花よ )

美人で評判の乙女に恋した男
でも高根の花なのでしょうか。
とても無理、無理、
諦めようと思ったのに
ますます募るやるせなさ。

746年の9月上旬頃、大伴家持は越中国司に転任しました。
早速、歓迎の宴が催されることになり、客人の一人が手土産に女郎花を
持参したところ花好きな家持は大いに喜び、お礼の歌を詠いました。

「 秋の田の 穂向き見がてり 我が背子が
    ふさ手折り来(け)る をみなへしかも 」 
                     巻17-3943 大伴家持

( 秋の田の 垂穂(たりほ)の様子を見廻りかたがた あなたさまが
 どっさり手折ってきてくださったのですね。 この女郎花は。 )

「穂向き見てがり」 : 稲穂の靡き具合を見廻りながら、
「ふさ」(房) :     量が多いさま たくさん

女の立場で詠うことで恋人を待つような想いで客人を待ちかねていたという
強い気持ちを込めると共に、稲の出来栄えを見廻る官人の労をねぎらう心配りを
みせています。

主人が女の立場で詠ってきたので、客も「君」と応じ次のように返しました。

「 をみなへし 咲きたる野辺(のへ)を 行(ゆ)き廻(めぐ)り 
     君を思ひ出 た廻(もとほ)り来(き)ぬ 」
                                巻17-3944 大伴池主

( 女郎花の咲き乱れている野辺、その野辺を行きめぐっているうちに
 あなた様を思い出し、回り道をしてきてしまいました )

恋人同士のようなやり取り。
終生歌友として心許した二人です。
なお、「遠い道のりを廻り道しながら来ました」〈た廻(もとほ)り来ぬ〉というのは、
いささか変な表現ですが「どうしてもお会いしたかった」ことを示す挨拶の型だそうです。

「 花の色は 蒸せる粟(あは)のごとし
  俗(しょく)呼ばうて 女郎(じょろう)となす
  名を聞きて戯(たはぶ)れに 偕老を契らむとすれば
  恐るらくは 衰翁(すいをう)が首(かうべ)の  霜に似たるを悪(にく)まむことを 」

              ( 源 順:みなもとの したがふ  和漢朗詠集 秋 女郎花 )

( 花の色は 蒸した粟のようで 
 俗に女郎花とよんでいます
 わたしは女郎という名を聞いて 戯れに愛をささやき 
 夫婦の契りを交わしたいと思ってみたものの
 恐らく白髪頭の老衰した爺さんとではいやだと
 嫌われることでありましょうよ )

偕老(かいろう) 共に睦まじく一緒に暮らす意

万葉集で色々な漢字をあてられていたオミナエシは平安時代から「女郎花」に
統一されました。
源順の漢詩の女郎は芸妓の意味に使われていますが、女郎はもともと
大伴家持と交渉があった笠女郎(いらつめ),紀女郎、中臣女郎などにみられる如く
由緒ある家柄、身分の高い女性の尊称とされていました。

女郎花のイメージが変わったのは次の歌からです。

「 名にめでて 折れるばかりぞ 女郎花
     われ落ちにきと 人に語るな 」 
                          僧正遍照 (古今和歌集秋上)

( 女郎花という名前に引かれて花を折り取っただけのことですよ。
  女犯戒を破ったなんて噂を立てないで下さい。
  おみなへしさん )

女郎花を採ろうとして落馬したとお思いきや、女郎をものにしようとした堕落を
掛けた洒落。
万葉時代の楚々としたイメージの「をみなへし」は僧をも堕落させる妖しくも
美しい女に変化してしまいました。

慎ましやかで優しく、しっとりした美しさの中に秋草らしく一抹の寂しさを
たたえている女郎花は、晩秋、地上に出ている部分が枯れても、
地中の根元の太い茎で冬を越す強靭な生命力の持主。
美しさ、たおやかさの中に強い芯を秘めた我国の女性を象徴する花なのです。

    「 女の香 放ちてその名 をみなへし」 稲垣きくの
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by uqrx74fd | 2014-09-19 06:24 | 植物

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