万葉集その四百九十七(野辺の秋萩)

( 白毫寺への道の途中で   萩とざくろ   奈良市)
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(  ヤマハギ   飛鳥で )
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( 同上 )
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( 同上 )
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( 白萩   白毫寺で)
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( 同上 )
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(  宗林寺で    東京、谷中)
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( 白毫寺    奈良 )
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( 国営飛鳥歴史公園  石舞台地区 )
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いつの頃からでしょうか。
こんなにも萩に魅せられるようになったのは。
秋風と共に訪れる開花の便りを聞くや否や、近隣、遠出をものともせず
もう何もかも放り出して
「 秋風は涼しくなりぬ 馬並(な)めて
    いざ野に行かな 萩の花見に 」  巻10-2103 作者未詳(既出)

の馬ならぬ「列車にて いざ行かむ」の心境。
気もそぞろに新幹線に飛び乗り、まずは古都、奈良を目指します。
飛鳥、平城宮跡、藤原京跡、白毫寺。
そこには野性味豊かな萩と薄の群生地があり万葉人の面影が身近に感じられるのです。

「 秋の野に 咲ける秋萩 秋風に
   靡(なび)ける上に 秋の露置けり 」 巻8-1597 大伴家持


( 秋の野に咲いている秋萩、その萩が秋風に靡いているその上に
   秋の露が置いているよ )

咲き乱れた萩は風に靡き、枝もたわわにしなう。
優雅さをたたえた花や葉に乗る白玉はキラキラと光り今にもこぼれ落ちそう。
白露は萩の開花を促し、晩秋のそれは落花を早めるものと思っていた古(いにしへ)の人。
四つの秋を重ね、待望の季節到来を目いっぱいに表現する作者です。

「春されば 霞隠りて 見えずありし
    秋萩咲きぬ 折りてかざさむ 」 
                  10-2105 作者未詳


( 春には霞に隠れて見えなかった萩。
 秋になった今、見事に咲きはじめた。
 さぁ、手折ってかざしにしょう )

野原一面に霞が垂れこめて萩の若芽を覆っていた春から、紫の花をつけた枝が
大波のように靡く秋到来。
今までの時の経過を回顧し、待ちに待っていた開花の歓びを詠う。
「萩」は古くは「生芽」(はえぎ)といい、転じて「はぎ」になったそうです。
「生え芽」即ち、根元から絶えず新しい芽が出、折れたり切れたりしても次々と芽吹く。
古代の人はその旺盛な生命力にあやかろうと手折って頭や衣服に挿し、
長寿、繁栄を祈りました。
「萩」という字は平安時代に創られた国字、草冠に秋はいかにも日本らしい。

「 娘子(をとめ)らに 行(ゆ)き逢ひの早稲(わせ)を 刈る時に
    なりにけらしも 萩の花咲く 」 
                               巻10-2117  作者未詳

( 夏と秋が行き逢う季節は稲刈りする美しい乙女たちと出会う時。
  萩の花も美しく咲いているよ
 さぁさぁ、出かけましょう、萩と乙女との出逢いを求めて )

「行き逢い」に「乙女らに行き逢う」と「夏秋季節の行き会い」を掛けています。
歓び溢れ、わくわくしている作者。
首尾よく美しい乙女に出会えたでしょうか。

「 春日野の 萩は散りなば 朝東風(あさごち)の
     風にたぐひて ここに散り来(こ)ね 」
                         巻10-2125 作者未詳

( 春日野に 咲きにおう萩よ もし散るのなら 朝東風の風に乗って
 ここに散っておくれ )

東風(こち)は東の方から吹いてくる風。
「たぐひて」は「類(たぐい)て」で「仲間になって」、ここでは風に乗っての意。
作者は春日野の西、平城京で詠ったのでしょうか。

当時、平城京郊外の春日野や高円の野は、今では想像も出来ないような
萩の大群生地があり、野性の鹿も棲んでいた身近な行楽地でした。
宴なども盛んに行われていたことでしょう。

萩が散り敷く紫の絨毯。
そのかたわらで飲めや歌えやの楽しい酒宴。
いつの間にか現れた鹿が萩をかき分けながら遠ざかってゆく。
そのような雅やかな光景が目に浮かぶようです。

「 草深み こおろぎ多(さは)に 鳴くやどの
    萩見に君は  いつか来まさむ 」 
                  巻10- 2271 作者未詳(既出)

( 我家の庭は草深いので 蟋蟀(こおろぎ)がいたるところで鳴き、萩も満開ですよ。
 あなた様は一体いつおいでになるのですか!
 お会いしたいわ。 来て!早く!  )

「誰かこんな歌くれないかなぁ」と思わせるような優雅なお誘いです。

  「 萩に伏し 薄にみだれ 故里は 」  夏目漱石

しなやかに伸びる強靭な枝。
紅紫の花の奥に秘めた濃艶な色気。
楚々とした風情と品格。
着物姿の日本女性を感じさせる萩。
風に靡く薄とともに今年も日本の秋を美しく彩ってくれています。
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by uqrx74fd | 2014-10-10 07:15 | 植物

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