万葉集その五百十二 (有馬)

( 有馬温泉中心部 )
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( 岩風呂遺構 )
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( 日本第一神霊泉の石碑 )
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( 幕湯 貸切の湯 )
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( 長く逗留する人は温泉の2階を借りて自炊、時々湯女を呼んで宴会 )
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( 有馬筆 )
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( 有馬温泉を訪れた著名人 )
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( 菅  笠の材料 )
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( 菅笠 通販カタログより )
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日本書記、「摂津国風土記」(逸文)によると有馬温泉は蘇我馬子の時代に発見され、
舒明天皇が2回、(631年、638年)、孝徳天皇が1回(647年) 行幸されたと
伝えられています。  
滞在期間は3~4ヵ月に及び、山奥の小さな村に仮宮を造営するなど大掛かりなもので、
現地の人々は突然現れた大勢の高位高官、女官のきらびやかな姿にさぞ仰天したこと
でしょう。     ( 注:逸文とは一部のみ残存する記録)

また、万葉集の左注にも大伴坂上郎女の実母、石川命婦(いしかわのみょうぶ)が
「餌薬(じやく)の事によりて有馬の湯に往(ゆ)き」と記されており(巻3-461)、
古くから格好の癒しの場として多くの都人に親しまれていたことが窺われます。

ただ、温泉を詠ったものは一首もなく有馬山の情景と有馬菅に掛けた恋歌しか
登場しないのは不思議なことです。
「いで湯」は歌の題材として馴染まなかったのでしょうか。

「 しなが鳥 猪名野(いなの)を来れば 有馬山
       夕霧立ちぬ 宿りはなくて 」
                         巻7-1140 作者未詳

( 猪名の野を はるばるやって来ると 有馬山に夕霧がたちこめてきた。
      宿をとるところもないのに )

しなが鳥は「かいつぶり(にほ鳥とも)」といわれ、雄雌相伴うので
「率(い)る」と同音の猪(い)に掛かる枕詞とされています。

猪名野(いなの)は伊丹市 猪名野川流域一帯の野で
有馬山は現在の六甲山か(伊藤博)

古代、この地で狩猟や牛馬の放牧などが行われていたようです。
広々とした原野を心地よく歩いているうちに次第に夕暮れになり、
しかも霧が立ってきた。
周りに民家も見当たらず、やれやれ野宿かと心細くなる作者。
六甲山の吹きおろしは凍えるような寒さであったことでしょう。


「 大君の 御笠(みかさ)に 縫へる有馬菅(ありますげ)
   ありつつ見れど 事なき我妹(わぎも) 」  
                            巻11-2757 作者未詳

( 「大君の御笠に」と縫っている有馬の菅。
  その名ではないが、ありつつ - ずっと見続けているあの子は
  わが伴侶として申し分ないなぁ。)


有馬菅は笠の原料で摂津(兵庫県東南部と大阪府北部)の名産。
この歌では素晴らしい女性に譬えられています。

「大君」は天皇、いささか大げさな表現ですが、帝に献上するほど立派な品と同様、
自分が選んだ女性は素晴らしいと言いたかったお惚気です。

「 人皆(ひとみな)の 笠に縫ふといふ 有馬菅
      ありて後にも 逢はむとぞ思ふ 」
                         巻12-3064 作者未詳

( 世間の人が皆、笠に作るという有馬菅
  その名のようにずっと在(あり)長らえて のちのちでもよいから
  きっと逢おうと思っているよ )

「ありま」「ありて」と「あ」を重ねた軽快なリズム。
貴賤を問わず、雨除け、日よけに利用される笠は必需品。
初句から有馬菅までは「在(あり)て」を引き出すための序詞です。

それにしても「後々でもよいから逢おうと思う」とはどういう気持ちか?
遠くへ旅立つ男が、
「お前は人が皆欲しがる有馬菅の笠のような魅力的な女。
 俺は何とか無事に生き長らえて戻るから待っていろよ。
 きっと再び逢おうな 」

と口説いているのでしょうか。

「 湯の匂ひ まとふ有馬の 門飾り 」  川野喜代子

今日の有馬温泉は外人客も多く大変な賑わいです。
門構えが立派な宿は敷居が高いような気もしますが、日帰り入浴歓迎のところも多く
観光客が次から次へと中に入っていきました。

古代からから多くの人々に愛された名湯。
来場者名を記した看板に天皇をはじめ和泉式部、藤原道長、在原業平、西行、
藤原定家、太閤秀吉、北政所、千利休、近松門左衛門、福沢諭吉、伊藤博文、竹久夢二、
谷崎潤一郎、吉川英治、孫文、グレースケリーモナコ王妃など著名人がずらりと並びます。

特産品の竹細工や有馬筆も興趣をそそり、坂の上の小奇麗なレストランの
三田肉ビーフシチューも美味しそうです。

古い伝統と近代的なものが混然と一体となった有馬温泉。
これからも関西の奥座敷として繁栄してゆくことでしょう。

「 山眠り 六甲颪(ろっこうおろし) ほしいまま 」 中野智子
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by uqrx74fd | 2015-01-23 06:43 | 万葉の旅

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