万葉集その五百十八 (ネコヤナギ)

( ネコヤナギ 市川市万葉植物園 )
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( 赤い爪のよう  同上 )
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( 飛び出したものの寒そう  赤い帽子と襟巻みたい  同上)
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( ピンク色が映える  同上 )
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( 暖かそう、 猫の尾のよう  月ヶ瀬梅林  奈良県 )
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( 梅と一緒に咲きました  青梅市 )
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( 花芽が飛び出した  千葉県成東 )
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早春、水辺で光沢のある銀白色の絹毛が密生した花穂をふくらませるネコヤナギは
猫の尾に似ているところからその名があり、古くは川楊(かはやなぎ)とよばれていました。
「楊」は木の枝が立っていることを意味し「柳」と書くと枝が下へ垂れている「しだれ柳」。
この使い分けは厳密に区分されているわけではありませんが、共にヤナギ科の落葉低木です。

芽は赤く、暖かくなるにつれて先端が割れて白銀色の花穂が顔をだすと
まるで赤い帽子をかぶっているように見えて微笑ましく、
「ようやく春が来ました」と呟いているようです。

「 山の際(ま)の 雪は消(け)ずあるを みなぎらふ
    川の沿(そ)ひには 萌えにけるかも 」 
                                巻10-1849 作者未詳

( 山あいの雪はまだ消え残っているのに
     水があふれ流れている川のそばで 川楊が早々と芽を吹き出しましたよ)

この歌は「柳を詠む」と題されている4首のうちの1首。
「川の沿い」と詠まれているので川楊と確認できます。

「みなぎらふ」は「漲(みなぎる)の継続体で、山の雪が融けて水かさが満々と
なって流れている様子を詠っており
「 雪が融けて 川となって 山を下り 谷を走る」(おヽ牧場はみどり)を
口遊(くちづさ)みたくなるような早春の浮き浮きした雰囲気を醸し出している一首です。

「 霰(あられ)降り 遠江(とほつあふみ)の 吾跡川楊(あとかはやなぎ)
     刈れども またも生ふといふ 吾跡川楊 」
                            巻7-1293 柿本人麻呂歌集 (既出)

( 霰が降る中で吾跡川の川楊よ。
  刈っても刈ってもあとからすぐすぐ生えてくる吾跡川の楊よ )

この歌は旋頭歌といい五七七 五七七調の変則形。
楊の生長と再生力を詠いながら恋心がしきりに湧いて止められないことを
例えた歌ですが民謡のような明るい雰囲気を持っています。

「霰降り」はあられが板屋根などに打ちつけてトホトホと音を立てるというので
遠江に掛かる枕詞とされ、また、霰(あられ)の原文表示が「丸雪」、
これを「あられ」と訓ませる作者のユーモアセンスたっぷりの歌です。

なお、「遠江(とほつあふみ)」は都から遠い淡海(あはうみ)ということで浜名湖をさし、
逆に近い淡海、すなわち琵琶湖は近江と書き、あはうみ→あふみ→おうみ と
転訛しました。
吾跡川(あとかは)は浜名湖の北側を流れる現在の跡川です。

ネコヤナギの青々としていた枝は冬の厳しい寒さに耐えて鍛えられ、しなやかに、
そして、強靭になり臙脂色に変化します。
その樹皮を乾かしたものを煎じて飲むと扁桃炎や風邪、リウマチの発熱に効あるそうです。

柳はその旺盛な生命力から悪霊を追い払う植物とされ、昔から建物の外側に植えられて
きましたが、形を変えても人間を守ってくれているのですね。

新春を彩る活花としても欠くことが出来ないネコヤナギ。
これからも春告げ花として愛され詠い続けられることでしょう。

「 霧雨のこまかにかかる猫柳 
      つくづく見れば  春たけにけり 」 北原白秋

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by uqrx74fd | 2015-03-05 17:10 | 植物

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