万葉集その五百二十九 (山吹いろいろ)

( 山吹と桜の競演   新宿御苑 )
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(  見事な山吹    同上 )
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( 柳、桜、山吹   同上 )
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(  北鎌倉 明月院 )
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( 東京大学小石川植物園 )
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( 白山吹  市川万葉植物園 )
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( 八重山吹   東大小石川植物園 )
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(  薬師寺花会式のポスター )
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(  同上 山吹、梅、椿、牡丹の造花   )
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754年の4月中旬、山野に山吹が咲き乱れている頃のことです。
置始長谷(おきそめの はつせ) という人物が、明日香の別宅に滞在していた
大伴家持を訪ねました。

長谷もこの近くに住んでおり、久しぶりの顔合わせ。
手土産に自宅の山吹を手折って壺に入れて持参したところ、家持大いに喜び、
「 これは これは 何よりのお心づかい 。
  かたじけのうございます 」
と一枝を取り出し頭に挿して見せました。

古代、山吹は神聖なものとされ、魔除け厄除けに効ありと信じられていたので
心からの感謝の意を示したのでしょう。

長谷は思わずにっこりと笑い、詠います。

「 山吹は 撫でつつ生(お)ほさむ ありつつも
     君来ましつつ かざしたりけり 」 
                    巻20-4302 置始連長谷(おきそめの むらじ はつせ)

( この山吹の花は これからも慈しんで育てましょう。
 このように変わらずに咲いているからこそ あなたがここにおいでになって
 髪飾りにして下さったのですから )

「つつ」を3回も重ね、決して上手とは言えない武骨な歌ですが、
精一杯の気持ちをこめて絞り出すように詠った?1首です。

「 撫でつつ生(お)ほさむ 」 大切に育てる
 「 ありつつも 」    そのままの状態で
「 君 来ましつつ 」   あなた様(家持)が例年おいで下さって

作者は伝未詳の人物ですが、皇后の前で維摩経を唱えたとの記録があります。

返す家持。

「 わが背子が やどの山吹 咲きてあらば
    やまず通はむ いや年のはに 」
                         巻20-4303 大伴家持


( あなたのお庭の山吹 その花がいつもこんなに美しく咲いているのなら
 これから先も しょっちゅう お訪ねいたしましよう。
 来る年も来る年も )

「わが背子」 置始長谷(おきそめのはせ)を親しみこめていったもの
「咲きてあらば」 咲いている限りずっと
「年のはに」 「年毎に」(としのはに) で毎年々々

万葉集で詠まれた山吹は17首ありますが、そのうち家持作が7首。
よほどこの花が好きだったのでしょう。

歌の挨拶が終わり、欅の大木の下で酒を酌み交わし旧交を温める二人。
一献また一献。
爽やかな風が通り過ぎてゆく五月晴の一日です。

山吹好きと言えば、左大臣 橘諸兄。
天平の頃 諸兄は山城の国(京都),井手の里、玉川のほとりに山荘を営み、
遣水した庭園を中心に山吹を植え、さらに川の両岸も花で埋め尽くし、
黄金の世界、極楽浄土を出現させました。
それを耳にした聖武天皇がわざわざ行幸され(740年)、天下に喧伝されて以来、
「井手の玉川」は山吹の名所として詩歌に数えきれないほど詠われるようになります。

「 駒とめて なほ水かはむ 山吹の
    花の露そふ  井手の玉川 」    
                         藤原俊成 (新古今和歌集)

( 馬を止めて水を飲ませよう。
 そして私はその間、心行くまで山吹を眺めよう。
 花に置く露が流れ落ちているこの井手の玉川で。)

露は玉川の玉と縁語、あたかも山吹が泣きぬれた女性であるかのような
艶なる趣を醸し出しており、美女と逢瀬を楽しんだのかもしれません。

流石に俊成、洗練された詠み口ですが、万葉集に本歌があります。

「 さ檜(ひ)の隈(くま) 檜(ひ)の隈川に 馬とどめ、
    馬に水飼(か)へ 我(わ)れ外(よそ)に見む 」 
                            巻12-3097 作者未詳


( さ檜隈を流れる檜隈川の岸に馬を止めて、馬に水を飲ませて下さい。
 その間にも私は脇からあなた様の姿をこっそりと見ましょう)

素朴な田舎の女性が詠んだ歌のようですが、男に憧れる乙女の純真な気持ちが
感じられ、うっとりとした表情が目に浮かぶ1首です。

「さ檜の隈 檜の隈川」は奈良県明日香村檜前(ひのくま)を流れる川

「 恋の山吹 情けの菖蒲(あやめ)
      秋の枯草 しをれ草 」  (山家鳥虫歌) 



  恋の山、情けのあや、秋の飽き、失恋のしおれ などを掛けて
  女心を詠ったもの

今年は山吹の開花が早かったせいか、桜との共演が随処でみられ
桃色と黄色の取り合わせは女性の艶やかな踊りを見るようでした。
特に新宿御苑の「 桜、柳、山吹をこきまぜた」風景は見事。
まさに万葉の世界にひたっているような気分でありました。



お知らせ :
次回の投稿は5月31日(日曜日)になります。

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by uqrx74fd | 2015-05-21 21:09 | 植物

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