万葉集その五百三十 ( 大津皇子 1)

( 大津皇子像  薬師寺蔵 )
b0162728_1522067.jpg

(  皇室系図 天武天皇系 )
b0162728_152647.jpg

( 大津皇子が眠る 二上山  当麻寺付近から 奈良県 )
b0162728_1515161.jpg

( 同上  天香久山付近から )
b0162728_1512496.jpg

( 同上  檜原神社から )
b0162728_151669.jpg

 ( 山のしづく  高橋秀年   奈良万葉文化会館蔵  )
b0162728_1504241.jpg

( 万葉の春  上村松篁   松柏美術館蔵 )
b0162728_150542.jpg

斉明天皇の時代、661年頃のことです。
大海人皇子は兄、中大兄皇子の二人の娘を妃として迎えます。
娘の名は姉の大田皇女、妹、鸕野讃良皇女(うのの ささら ひめみこ)のちの持統天皇です。

大海人は二人の妃を寵愛し、大田皇女は大伯皇女(おおくのひめみこ:大来皇女とも) と大津皇子、
鸕野讃良皇女は草壁皇子を出産しました。

中大兄は後の天智、大海人は天武天皇。
大津と草壁は共に祖父と父が天皇という抜群の血統を誇る従兄弟です。

大田皇女は大伯、大津姉弟が幼い頃に早世しましたが(667年)、二人とも祖父や父に
可愛がられ、長じて姉は伊勢神宮の斎王に、弟、大津は文武両道に秀で、
器が大きく人望ある貴公子に成長したと伝えられています。

一方、鸕野讃良皇女は天武天皇即位と同時に皇后の地位に付きましたが、
草壁皇子は体が弱く、能力も普通であったようです。

当時、天皇の後継者は天皇皇后の子が皇太子になるとは決められておらず、
天皇の意思で決定されるので、大津、草壁共に有力な後継者と目されていました。
天武としても頭が痛いことだったでしょう。
皇后は何としても実子の草壁を皇太子に指名させるべく執念を燃やします。

そんな時に、女性をめぐるある事件が起きました。
大津皇子が禁断の女性に魅かれ「逢い引きしたい」と文を渡したのです。

  「 あしひきの 山のしづくに 妹待つと
         我れ立ち濡れぬ 山のしづくに 」  
                          巻2-107 大津皇子

( 山であなたを待ちながらずっと佇んでいて、とうとう雫にしっぽりと濡れて
      しまいましたよ )

文を出した相手が待てど暮らせど現れなかったので恨みごとの歌を送ったのです。
通い婚の時代、女性が男のもとを訪れるなど考えられません。
しかも相手は手を出してはならない女性、采女か人妻らしい?

ところが意外や、相手から艶なる返歌が届きました。

「 我(あ)を待つと 君が濡れけむ あしひきの
       山のしづくに ならましものを 」     
                           巻2-108 石川郎女

( 長い間私をお待ちになって雫に濡れてしまわれたとのこと。
  私はその雫になりたかったですわ )

この返事を受け取った皇子は欣喜雀躍。
そして、猛烈な求婚の末、とうとう結ばれました。

ところが、この秘め事を朝廷の占い師、津守連通(つもりのむらじとほる)という
男が暴露し噂が飛びかいました。
剛毅な大津は動ぜず次のような歌を詠います。

「 大船の 津守の占(うら)に 告(の)らむとは
     まさしに知りて  我がふたり寝し 」 
                              巻2-109 大津皇子

( 大船の停泊する津、その津の名をもつ津守め。
 そやつの占いによって暴かれるなど大したことはない。
 こちらはもっと確かな占いで公になることを承知の上で
 あの女性と寝たのだ )

なんとも大胆不敵な宣言です。
さて、秘密の女性、石川郎女とは一体どのような女性なのか?
次の歌で明らかになります。

「 大名児(おほなご) 彼方野辺 ( をちかた のへ)に 刈る草(かや)の
    束の間(あいだ)も 我れ忘れめや 」  
                                       巻2-110 草壁皇子


( 大名児よ 彼方の野辺で刈る萱(かや)の その一束(ひとつか)。
 その束の間も私はお前を忘れかねているんだよ )

大名児(おほなご)とは石川郎女の字(あざな)であると注にあります。
何と! 大津皇子はライバル草壁皇子が熱愛している女性を寝取ったのです。
草壁の恋歌は純情、一本気な若者を連想させますが、これでは女性は靡きますまい。
さぁ、大変、お坊ちゃまは母親の皇后に泣きついたのでしょうか?

伊藤博氏は
「石川郎女は草壁の妃の一人だったのではないか 」
と推定されていますが、もしそうなら朝廷中大騒ぎになったことで
ありましょう。

    「 龍の玉 大津皇子に 供へたる 」   辻 恵美子
[PR]

by uqrx74fd | 2015-05-30 15:12 | 生活

<< 万葉集その五百三十一 (大津皇...    万葉集その五百二十九 (山吹い... >>