人気ブログランキング | 話題のタグを見る

万葉集その五百三十四 (ゆり祭り)

(  三枝祭:さいぐさのまつり  奈良市内を練り歩く   ポスターから  )
万葉集その五百三十四 (ゆり祭り)_b0162728_1841457.jpg

( 率川神社:いさかわじんじゃ  奈良市  )
万葉集その五百三十四 (ゆり祭り)_b0162728_1844553.jpg

(  ササユリ  大神神社ササユリ園  奈良県 )
万葉集その五百三十四 (ゆり祭り)_b0162728_1845686.jpg

(  三枝祭の説明文   同上   画面をクリックすると拡大できます  )
万葉集その五百三十四 (ゆり祭り)_b0162728_1852677.jpg


毎年6月17日、奈良の率川神社(いさかわじんじゃ)で古式豊かな
三枝祭(さいぐさのまつり:通称、ゆり祭り)が行われます。
七世紀の大宝神祇令に国家の祭祀として規定され、罇(そん)、缶(かん)とよばれる酒樽を
ササユリで飾ってお供えし、四人の巫女が舞を奉納する由緒ある神事です。

御祭神は神武天皇の皇后 「 媛  蹈鞴  五十鈴 姫命」
(ひめ たたら  いすず ひめのみこと) 。

五十鈴姫は結婚前、三輪山の西の麓、ササユリが咲く狭井川(さいがわ)のほとりに
住んでおられ、古事記に

「 その川を佐韋川(さいかわ)という故は、その川の辺に山ユリ草 多(さわ)にあり。
  故(か)れ、その山ゆり草の名をとり、佐韋川と号(なづ)けき。
  山ゆり草の本(もと)の名は「さゐ」と云ひき 」
とあります。

東征を果たされた神武天皇は百合の花咲く川のほとりで美しい娘に巡り合い
一目惚れして一夜を共にされたのです。

星が輝く夏の夜、乙女と愛を語り、共寝をする。
清流の涼しげな音、川風と共に百合の香りが部屋に満ちみちる。
むせ返るような官能。

ロマンティックなお話ですねぇ。

三枝祭に用いられる百合の花は三輪山の麓から運ばれ、その数3,000本~5000本。
大神神社、狭井神社の花鎮め祭り(薬祭り 4月18日)と共に、民の無病息災、
疫病退散を祈り,五十鈴姫命の霊を慰めます。
 
卒川神社の歴史も古く、推古天皇の593年、三輪山周辺の豪族、大神氏奉斎で
創建されたと伝えられており、現在は大神神社と縁故が深い摂社の一つ。
三輪山から遠く離れた春日山の麓に社が設けられたのは、広く国民の
無病息災を願われたのでしょうか。
その昔、開花天皇の時代、この地で率川宮が営まれたという記録も残ります。

万葉集で率川が詠われているのは次の二首、百合の歌は見えません。

 「 はねかづら 今する妹を うら若み
     いざ 率川(いざかは)の 音のさやけさ 」
                  巻7-1112 作者未詳 


( はねかずらを 今付けたばかりの子の初々しいこと
  さぁ おいでと誘ってみたい。
  その、いざと云う名の率川の川音の何と清々しいことよ )

「はねかづら」は羽毛で作った髪飾りで女性が成人式につけたもの。

卒川は春日山に発し猿沢池の南を西流して佐保川に注ぐ川ですが、
今はほとんど暗渠になっており、猿沢池脇の小川にその面影を残すのみです。

「 この小川 霧ぞ結べる たぎちたる
    走井(はしりい)の上(へ)に 言挙(ことあ)げせねども 」
                                  巻7-1113 作者未詳

 ( この小川に 白い霧が一面に立ちこめている。
  たぎり落ちる走井のほとりで 言挙げしたわけでもないのだが )

古代、自分の思っていることを口に出して発声すると、霧がかかり
思いが成就しないと信じられていました。
本来、邪神を鎮めるための呪的発声儀礼でしたが、自己主張の見苦しさを
示す忌むべき行為ともされていたのです。

この歌は「 言挙げしていないのに霧が立ち上った。
あの子を誘ってみたいと心に思っただけで
神様に御見通しされたか 」と嘆いています。

走井は勢いよく噴出する泉の意ですが、ここでは勢いよく流れる川の水を
堰き止めて囲った水汲み場です。

万葉集で詠われたユリは11首。
そのうち「さ百合」が8首、「草深百合」が2首、「姫百合」が1首。
「さ百合」の「さ」は神聖なものをあらわす言葉です。

「 筑波嶺の さ百合(さゆる)の花の 夜床(ゆとこ)にも
      愛(かな)しけ) 妹そ  昼も愛しけ 」  
                     巻20の4369 大舎人部千人(おおとねりべのちふみ) 既出

(  筑波嶺に咲く美しいさ百合。
  我が妻は花のように美しく素晴らしい。
  夜、共寝している時は可愛いし、昼は昼でいとおしい。
  今ごろどうしているのだろう。
  あぁ、逢って抱きしめたい! )

防人として出発した男が旅先で新妻を思慕する歌です。
旅立ちの前に共寝した妻。
初夜だったのでしょうか。
「あぁ、いとおしい、可愛い」と昼も夜も思い出す。
寝室に飾られていた百合の花。

関東常陸筑波では百合を訛って(ユル)と発音していました。
朴訥な詠いぶりの中に、ほとばしるような純情が溢れ出ている一首。

「さ百合」は神武天皇以来、夜の寝床を飾る花だったのでしょうか。

「 うつむいて 何を思案の 百合の花 」 正岡子規

by uqrx74fd | 2015-06-25 18:20 | 生活

<< 万葉集その五百三十五 (紅の衣 )    万葉集その五百三十三 (杜若:... >>