万葉集その五百四十 (檜扇、今盛りなり)

( 檜扇の蕾  ねじれているのは花が終わったもの  春日大社神苑 万葉植物園)
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( 花が開いた瞬間は黄色です    同上 )
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(  徐々に赤くなってゆく    同上 )
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(  美しく咲きました   同上 )
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(  まだまだ咲きます   同上 )
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( 秋になると莢がふくらむ    同上)
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 ( はじけて黒い種が顔を出す 古代の人はこの玉を 「ぬばたま」とよびました  同上 )
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(  名前の由来となった葉   扇を広げたよう   同上 )
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檜扇(ヒオウギ)はアヤメ科の多年草で、根元から広がる葉が檜で作られた扇に
似ているところからその名があります。
夏になると斑点交じりの黄赤色の美しい花を咲かせますが、夕方に
ねじれた棒のようになって萎む一日花です。

「 よわよわと 咲き始めたる 射千(ひおうぎ)の
    いろかなしきは ただ一日のみ 」       斎藤茂吉

                                                                                        
檜扇は「射千(やかん)」とも書きます。
漢方に由来する名で、乾燥させた根茎を喉や咳の薬として用いています。

秋に莢が弾けて光沢がある黒い種が飛び出しますが、古代の人達はこれを
「ぬばたま」とよびました。
万葉集で「烏玉」「黒玉」と原文表記されているものがあるので
「ぬば」は「黒」を意味するものと思われます。

この黒真珠のような美しい玉に魅了された万葉人は何と!79首もの歌を残しました。
ところが、不思議なことに植物そのものを詠ったものは一首もなく、
すべて黒いものに掛かる枕詞として用いられているのです。
中でも多いのは夜(43首)、黒髪(16首) 他に夜床、黒馬、夜霧、夢、など。

照明がない時代、夜の闇は現代よりはるかに暗くて長い。
恋人と共に過ごす時間は何よりの楽しみであったことでしょう。

「 ぬばたまの 黒髪敷きて 長き夜を
    手枕(たまくら)の上に 妹待つらむか 」 
                            巻11-2631 作者未詳


( 黒髪をふさふさと敷き靡かせながら この長い夜を 手枕にむなしく身をまかせて
 あの子はしきりに待っていることであろうか )

「今夜は行くぞ」と約束したのに何らかの理由で果しえなかった男。
女が黒髪を靡かせて寝ている姿を瞼に浮かべながら一人侘びしく過ごしている。
長い長い夜。
この歌の「ぬばたま」は黒髪に掛かる枕詞ですが艶やかな光沢ある長髪を
靡かせている恋人の官能的な寝姿を想像しながら悶えている男を想起させています。

「 ぬばたまの 夜渡る月の さやけくは
     よく見てましを  君が姿を 」 
                       巻12-30007  作者未詳


( 夜空を渡って行く月が皓皓と輝いていたら
 あの方の顔や姿を心ゆくまで見ることができたのに )

明かりが乏しかった当時、月の光が一番の照明。
その月が雲に隠れていて、愛する男の顔姿が良く見えなかったと嘆く純情な乙女です。

「 ぬばたまの 夜渡る月を おもしろみ
     我が居る袖に 露ぞ置きにける 」 
                        巻7-1081 作者未詳

( 夜空を移りゆく月、 この月があまりにも爽やかなので
 寝ないで楽しんでいるうちに 着物の袖がいつの間にか濡れてしまった )

「おもしろみ」 面白いので

清らかな月の光に魅せられて時間が経つのも忘れてしまった男
ぬばたまの夜は漆黒の闇。
それだけに月の光が美しく感じられたのでしょう。
縁側で一献また一献重ねているうちに、いつのまにか夜が更けてゆく。

「 ぬばたまの 黒髪変わり 白(しら)けても
     痛き恋には 逢ふ時ありけり 」 
                          巻4-573 沙弥満誓(さみ まんぜい)

( 黒髪が真っ白に変わる年になっても
 こんなにも強く惹かれる恋心。
 そんなこともあるのですね。
 あなたが懐かしくって、懐かしくって。 )

筑紫在住の大伴旅人が都へ転任になったのち、作者が旅人に贈ったもの。
よほど心を許しあっていた友人同士だったのでしょう。
男が男に恋人仕立ての歌を贈るのは当時の流行だったらしく、この歌も
友情の強さを吐露したものです。

「 夏草の 野に咲く花の 日扇を 
                  狭庭に植つ 日々に見るかに 」  伊藤左千夫


ここ春日大社神苑 万葉植物園の檜扇は真っ盛り。
一日花ですが蕾が多く、次から次へと咲き続けています。
咲き終わった花はくるくる巻いた棒状に。
秋になれば莢が弾けて美しい玉が顔出すことでしょう。

「 九月になれば 日の光やはらかし
     射干(ひおうぎ)の実も 青くふくれて 」      斉藤茂吉

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by uqrx74fd | 2015-08-06 07:44 | 植物

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