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万葉集その五百四十二 ( 葵 )

( 冬葵 フユアオイ  春日大社神苑 万葉植物園 )
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(  同上    自宅近くの花壇で )
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(  立葵  タチアオイ  山辺の道  奈良 )
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( 同上 )
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( モミジアオイ   向島百花園   東京 )
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葵は古代「あふひ」とよばれ、万葉集に一首のみ詠われています。
他の食用の植物と共に詠われているので「冬葵」(フユアオイ)とされていますが
少数派ながら「立葵(タチアオイ)」説(牧野富太郎)もあります。

冬葵は中國原産、葵科の多年草で冬でも枯れないのでその名があり、
春から秋にかけて白や淡紅色の小花を次々と咲かせ若葉は食用に、
実は利尿に効ありとされている有用の植物です。

「 梨 棗(なつめ) 黍(きみ)に 粟(あは)つぎ 延(は)ふ葛の
      後(のち)も逢はむと 葵花(あふひはな)咲く 」
                                 巻16-3834  作者未詳


( 梨が生り棗(なつめ)や黍(きび)、さらに粟(あわ)も次々と実り、
 時節が移っているのに、あの方に逢えません。
 でも、延び続ける葛の先のように、
 「後々にでも逢うことが出来ますよ」
 と葵(あふひ)の花が咲いています。 )

言葉遊びの戯れ歌。
宴会で梨、棗(なつめ)、黍(きび)、粟(あわ)、葛、葵を詠みこめと囃されたものと
思われます。

すべて食用とされる植物ばかりで

「 季節を経て果物や作物が次から次へと収穫の日を迎えているのに、
  長い間愛しい人に逢えないでいる。
  でも葛の蔓先が長く這うように、長い日を経た後でも、きっと逢えるよと
  葵(あふひ)の花が咲いています。」

  つまり、「あふひ(葵)」を「逢う日」に掛けて見事な恋歌に仕立てたのです。

さらにこの歌は中国の艶物語「遊仙窟」の中の姉妹の次の会話をふまえているそうです。

「 相知不在棗 」 ( 相知ること棗(そう=早)にあらず) 
                ( あの方を愛しているなら早く決めなさい )

「 密不忍即分梨 」 ( 忍びずして すなわち分梨(ぶんり=離)す
                  ( あの方を愛していますが わざと離れているのです)

棗(なつめ)梨にそれぞれ「早、離」の意を含ませており、万葉歌は
この手法を応用したのかも知れません。
未詳の作者ながら相当な知識の持主。
これだけ多くの物の名を詠みこんだだけでも大した手腕です。

「 かくばかり 逢ふ日のまれに なる人を
    いかがつらしと 思はざるべき 」 
                       詠み人しらず  古今和歌集 


( これほどまでに 逢う日の稀になった人を 
  つれないと 思わずにいられましょうか )

逢う日に「あふひ(葵)」 「いかがつらし」の「がつら」に桂を掛け
葵と桂を詠みこんだ技巧歌。
愛する人に「つれなくされて辛い」と嘆く人は、男女どちらとでも解釈できそうです。

葵は京都の葵祭に欠かせないもので、ここでの葵はウマノスズクサ科の
フタバアオイ、徳川将軍家の紋所です。

「 忘れめや あふひを草に 引き結び
         かりねの野べの 露のあけぼの 」 
                      式子内親王(しょくしないしんおう) 新古今和歌集


( あの日のことを忘れることがありましょうか。
 葵を草枕として引き結んで仮寝した神域の野辺の露が
  しとどに置いたあけぼのを )

作者は後白河法皇の皇女。
若き頃、賀茂神社の神事に斎院として奉仕した頃の思い出。
詞に「神館(かんだち:修行場)で」とあるので野宿ではなく建物の中で
宿泊したもの。

「 夜がほのぼのと明けてゆく。
  ふと外を見やると霞んだ野辺に一面の葵。
  日がさしこんでくると、上に置かれた露がキラキラ光る。
  まるでダイヤモンドガ輝いているようだ。
  それは神々しい光、神の世界。 」

ここでの「あふひ」もフタバアオイです。

葵といえば立葵。
茎は直立して枝がなく2m以上にもなります。
ハート形の葉の付け根に5弁の花を付け、次々と咲き登ってゆき
紅、白、ピンク、紫など色とりどりです。

「 日につれて 咲き上りけり 立葵  」    闌更(らんこう 江戸中期)
















   

by uqrx74fd | 2015-08-20 18:15 | 植物

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