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万葉集その五百五十一 (芝草)

( 芝草 現代名 力芝  山辺の道 奈良)
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(  野の花々   飛鳥 )
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(  同上  芝草は花の引立て役  同上 )
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(  同上  山辺の道 )
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( 同上    同上 )
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( 薊  同上 )
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( 鶏頭   飛鳥 )
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( 彼岸花 露草 吾亦紅  同上 )
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(  ススキ キバナコシモス  同上 )
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「芝草」は現在、力芝(チカラシバ)とよばれるイネ科の多年草で全国各地の
日当たりのよい草原や道端に生えます。
地面にしっかり根を張り、力一杯引っ張ってもなかなか抜けないのでその名があり、
秋に高さ50㎝内外の茎の先にブラシのような紫色の花穂を付けますが地味、
気を付けて観察しないと見過ごしてしまいそうな存在です。
それでも美しい花々の引き立て役、歌の世界では情緒を醸し出す主役となるのです。

万葉集では2首登場し、いずれも道端に生い茂っている雑草として
詠われています。

「 たち変(かは)り 古き都と なりぬれば
      道の芝草(しばくさ) 長く生ひにけり 」
                             巻6-1048 田辺福麻呂
 

( あの華やかな都の様子がすっかり変わり、今や古びた廃墟になってしまった。
 道の芝草も生茂り、伸び放題になっていることよ )

740年 大宰府で藤原広嗣が反乱を起こしたことに衝撃を受けた聖武天皇は
平城京から恭仁京(山背)へ都を遷します。
建物はすべて解体移設され、官人たちも新しい京に異動。
きらびやかな奈良の都は瞬く間に荒廃し、人も馬も通らない道は草茫々となって
しまいました。
最後の宮廷歌人といわれる作者は元正太上天皇が新都に移住する折に長歌とともに
この歌を詠い、去りゆく旧都の地霊を鎮めたものと思われます。

   「 畳薦(たたみこも) 隔て編む数 通はさば
          道の芝草 生ひずあらましを 」
                       巻11-2777 作者未詳


( 畳にする薦(こも)を 隔て隔てして編む、 その編み目の数ほど頻繁に
  通って下さったら 道の芝草も生い茂ったりしなかったでしょうに )

畳薦(たたみこも)はイネ科のマコモで編んだむしろのような敷物。
竹の小片で作った筬(おさ)という道具を用いて編みますが大変根気がいる仕事です。
「 私のもとに通ってくれなくなってからどれくらいになるのかしら。
  あまりにも間遠くなったので、通い道が草茫々になってしまった。
  はぁー。」
と、誠意なく遠のいた男を恨む女です。

いささか大げさな詠いぶりで、宴席での余興歌であったかもしれません。

「 訪(と)ふ人も あらし吹きそふ 秋は来て
      木の葉に埋(うづ)む  宿の道芝 」 
                      俊成卿女(藤原俊成の孫娘) 新古今和歌集


( もはやあの人は訪れてこないでしょう。
 ただでさえ淋しい上に嵐が吹く秋がやってきて、
あの方が踏み分けてきた私の家の道芝は、木の葉に埋もれてしまいました )

平安時代になると芝草は道芝と詠われ、道端に生える草の総称になります。
この歌では丈の短い芝。

「訪ふ人もあらじ」「あらし吹きそふ」と、「あらし」に「嵐」と「有らじ」を掛け、
王朝時代の洗練された恋歌となっています。

一見地味な存在である道端の雑草ですが、歌人の興趣を引くのか、
今もなお四季折々の情景や野焼きの芝まで広がりを見せて詠われており、
逞しい生命力の強さを誇っているようです。

  「 枯芝の 土手の日当たり をりをりに
           土の乾きの こぼるるけはい 」   島木赤彦


ある冬の一日。
ポカポカと暖かい日ざしをうけ、かすかに湯気でも立っているのでしょうか。

by uqrx74fd | 2015-10-22 19:42 | 植物

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