万葉集その五百六十二 (玉箒:たまばはき)

( 玉箒:たまばはき  現代名 コウヤボウキ  この枝を束ねて箒を作る  奈良万葉植物園)
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( 同上 )
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( コウヤボウキの花  秋9~10月に咲く   かんな屑のような花穂が可愛い 同上)
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( 玉箒   正倉院、複製が東京国立博物館に収蔵されている )
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玉箒はキク科の落葉低木で、葉が落ちた後の枝を束ねて箒にし、ガラス玉の
飾りを付けたことからその名があります。
元々、蚕の床を払う用具とされていましたが、次第に華美になり装飾品になったようです。

現在名はコウヤボウキ。
その昔、高野山で竹を植えることを禁じていたので、この植物の枝を
箒にしたことから命名されたとか。
何故、竹を植えることが禁じられたかというと、竹は筍が育ち、色々な用具の
材料になることから、人間の欲望を生じさせるものとされ、戒律が厳しかった
空海の寺ならではのことです。

万葉集では2首登場し、一首は新春を寿ぐ下賜品、残りは単なる箒として
詠われています。

「 初春の 初子(はつね)の今日の 玉箒(たまばはき)
   手に取るからに  揺らく玉の緒 」 
                          巻20-4493 大伴家持 (既出)


( 初春の初子の今日、お上から玉箒を賜りました。
  手に取ると玉がゆらゆらと揺れ妙なる音を立てます。 
  何とめでたい佳き日でしょか )

玉の緒とは玉を通した紐。
古代、玉は命、魂とされ、緒に貫くことにより生命の永続を願ったのです。

華やかに「初春の」「初子(はつね)の」「今日の」と「の」で繋いだ
流れるようなリズムが快く響き、玉がかすかに触れ合う音、「たまゆら(玉響)」が
いまにも聞こえてきそうな新春にふさわしい名歌です。

この歌の詞書によると次のようなことが記されています。
『 758年正月3日の最初の子の日に宮中で孝謙天皇主催の農耕、養蚕を
勧奨する行事が催され、農耕の具である辛鋤(からすき:鋤)と
蚕の床を払う玉箒が神前に供えられ、その年の収穫の豊かならんことを祈られた。
その後、伺候している王族や官僚たちに「玉箒」を下賜され、
宴席で「自分たちの技量に応じそれぞれ自由に歌をつくって披露せよ」と命じられた。
しかしながら、(家持は行事を司る部署であったためか忙しく)、その折の歌を
手に入れることが出来なかった 』

なお、この日に使われた「玉箒」(子日 目利箒:ねのひの めとき の ほうき)は
東大寺から皇室に献上され現在、正倉院に、また、その複製品が
東京国立博物館に収められています。

根元を金糸で束ねた美麗なもので当時の華やかな宴会の様子が偲ばれますが、
色とりどりに飾られた瑠璃(ガラス)は、ほとんど脱落して2~3個の残すのみです。

「 玉掃(たまばはき) 刈り来(こ) 鎌麻呂 むろの木と
     棗(なつめ)が本(もと)と かき掃(は)かむため 」 巻16-3830 
                            長忌寸 意吉麻呂(ながのいむきの おきまろ)


( 鎌麻呂よ 箒にする玉掃を刈ってこい。
 むろの木と棗(なつめ)の木の根元を掃除するために )

「 玉掃 鎌、むろの木 棗(なつめ) 」を詠めといわれ、
  清掃を主題にまとめた宴席での歌。

「棗」は「そう」とも訓み「掃」「早」を懸け「掃除のために早く刈ってこい」
さらに、「刈り」(カリ)、「来」(コ) 、鎌麻呂(カママロ)と「カ」行を重ねた
機知ある一首です。

「むろの木」はヒノキ科ビャクシン属の針葉樹で「実が多くつく」
すなわち「実群(み むろ)」の意からその名があるといわれています。

葉は硬質。鋭く尖っていて、触ると痛いので、昔の人は鼠の通り穴に置いて
その出没を防いだことから「ネズミサシ」、「ネズ」の別名があり、
漢方ではその実を杜松子(としょうじつ)といい利尿、リュウマチに薬効ありと
されています。

更に棗(なつめ)の枝にも棘があり、そのような歌を即座に思い浮かべることが
出来る作者は大変な才能の持主。
宴席の人気者だったことでしょう。

「 玉ばはき 星を見るにも 君が代は
         ちりおさまりて  いやさかへなん 」 
                               権僧正公朝


( あなた様の代は これから 星のように輝き、
 玉箒で払いのけた塵が散りおさまるごとく
 大いに栄えることでございましょう。)

      新しい年が皆様にとって良い年でありますように
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by uqrx74fd | 2016-01-08 06:17 | 植物

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