万葉集その五百七十五 (瀬戸の縄海苔)

( 瀬戸内海の朝  小豆島で )
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( 干潮になると島々が陸続きになる 夜明けから渡るカップルも )
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( 陸続きになった海岸を歩く  ここはエンジェルロードとよぶそうな)
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( 浅瀬で靡く縄海苔  現在名はウミゾウメン)
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(  ウミゾウメン )
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( 同上 )
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(  海藻と貝  )
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( 海底で宝石のように輝く貝 )
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( ツルモ  牧野富太郎博士は縄海苔はツルモとされている   植物図鑑より )
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( 能登土産の海ぞうめん )
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縄海苔とは波の荒い磯に付く細長いひも状の海藻で、現在名はウミゾウメンが通説と
されていますが、砂や泥質の海底に立つ長い糸状のツルモとする説(牧野富太郎)もあります。

ウミゾウメンはベニモズク科の紅藻類で長さ10~20cm、
ツルモはツルモ科の褐藻類で90㎝~3,6mもあり海でゆらゆら揺れている姿は
長いロープが垂れ下がっているようです。

古代の人にとって海藻は食用として身近な存在だったと思われますが、
縄海苔はウミゾウメン、ツルモの区別なく、紐状の藻の総称だったかもしれません。

万葉集では4首登場しますが、すべて恋の歌。
どんな対象でも愛する人に結び付ける万葉人の恋の材料の豊かさ、
発想のユニークさには毎度のことながら驚かされます。

「 海原(うなはら)の 沖つ縄海苔 うち靡き
        心もしのに 思ほゆるかも」 
                             巻11-2779 作者未詳


( 青海原の水底に生えている縄海苔が揺れ靡いているように
  私は、ただただ、あの人に惚れぬいています。
  もう、心が折れて死んでしまいそう。)

海底から長く伸びている紐糸状の海藻がゆらゆら揺れている。
この縄海苔のように自身の気持ちもあなた様に靡いて一時も忘れることがありません。
このままでは焦がれ死にしそうですと詠う乙女。

「 わたつみの 沖に生ひたる 縄海苔の
     名はかって告(の)らじ 恋は死ぬとも 」 
                         巻12-3080 作者未詳


( 大海原の底深くに根生えている縄海苔の名のように
 あなたの名(な)は決して口に出して他人に洩らしません。
 たとえ焦がれ死ぬようなことがありましても。)

恋は秘密にというのが当時のしきたり。
相手の名前を口に出すと、想いは成就しないと信じられていました。
死んでもあの人のことは誰にも言うまいと必死に耐える純情な娘です。

「 わたつみの 沖つ縄海苔 来る時と
    妹が待つらむ  月は経(へ)につつ 」 
                      巻15-3663 作者未詳


( 海の神が統べ給う海底の縄海苔
 その縄海苔を手繰るように もう帰ってくる頃だと、あの子が待っているはずの
 約束の月日はどんどん過ぎ去ってしまった。)

736年遣新羅使が都を離れて筑紫に到着した時、月を遠くにみはるかし
故郷を思い慕った歌。

縄海苔はある時期になると着床から遊離して岸に流れついていたようです。
作者は妻に「縄海苔が流れ着く頃に家へ帰るからな」と云って出かけたのでしょう。
ところが途中で遭難し、新羅どころか、まだ博多湾。
何時帰ることが出来るか分からない状態でした。
「あぁ、今ごろ首を長くして待っているだろうなぁ」と
故郷の方角に向かいながら嘆く男です。

  「 海原に 靡く縄海苔  恋心  」 筆者

縄海苔はミネラル類( 鉄、カリウム、カルシユウム、ヨード)やビタミンAが多く
含まれ、万葉人の健康を支えていたと思われますが、現在でも輪島などで
名産品として販売されています。

 「 海藻の にほひ香し  波風に
        病と闘う  友をしぞ思ふ 」    筆者

( 60年来の学友の急病。
 栄養たっぷりの海藻を召して回復を。)

小豆島の土庄港(とのしょうこう)近くにエンジェルロード、天使の散歩道と
よばれている場所があります。
干潮になると今まで海を隔てて離れていた小さな島々が陸続きになるのです。
美しい砂浜を歩くと今まで海に沈んでいた海藻や貝が砂浜に現れ、
その中にウミゾウメンも混じっていました。
「 おぁ! 万葉の縄海苔見つけた、あったぞ! 」と小躍り。
まさに天使の贈り物でした。

海は底まで見えるほど澄み切っており、浅瀬で陽の光を受けた海藻が
ゆらゆら揺れる中、貝が宝石のように光り輝き、幻想的な雰囲気を
醸し出していました。
瀬戸内海の自然の美しさを目の当たりにし、万葉人もきっとこのような
風景の中で詠ったのだろうと思ったことでした。

  「 あらうれし 瀬戸で縄海苔  見つけたり 」 筆者


             万葉集575(瀬戸の縄海苔) 完

   
   次回の更新は4月15日です。

  
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by uqrx74fd | 2016-04-08 00:00 | 植物

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