万葉集その五百七十九 (春の萩と藤)

( 季節はずれの萩 5月1日撮影 谷中 宋林寺 )
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( 野生の藤    春日大社境内  奈良 )
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( 白藤    万葉植物園:春日大社神苑  奈良 )  
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(  臥龍の藤  イチイガシの大木に絡みついた藤  同上 )
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(  奈良公園の藤の老木 )
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(  万葉植物園 :春日大社神苑 )
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( 向島百花園  東京 )
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(  同上 )
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( 亀戸天神  東京 )
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( 同上 )
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本年の5月1日のことです。
谷中の夕焼けだんだん坂を下って最初の曲がり角を左へ約100mほど歩くと、
宗林寺という古刹があり、美しい花々が咲き乱れていました。
ところが何と!
入口の躑躅の植え込みの前に萩の花が咲いていたのです。
「 エッ― なんで今ごろ!」と驚きながら境内に入っていくと数本の萩が
満開ではありませんか。
4月の終わり頃から咲きはじめたのでしょう。
狂い咲きかな?と思いましたが、最近では二度咲き、春咲きの品種もあるそうな。

昔、季節はずれのことを「不時」(ときじ)といい「その時ではない」あるいは
「思いがけない」という意味に使っていました。

次の歌は大伴家持が通常春に咲く藤が真夏に咲いたのを見て驚き、
妻、坂上大嬢 (さかのうえ おほいらつめ)に贈ったものです。

「 わがやどの 時じき藤の めづらしく
      今日も見てしか 妹が笑(ゑ)まひを 」
              巻8-1627 大伴家持(既出)


( 我家の庭の季節外れに咲いた藤の花、この花のように愛しい貴女の笑顔を
 久しぶりに今すぐにでも見たいものです)

当時は通い婚。
大嬢(おほいらつめ)は母と共に住み家持と離れて暮らしていました。
使者に花と歌を持たせた粋なラブレターです。

この歌の藤を萩と入れ替えてもそのまま通用します。

「 わがやどの 時じき萩の めづらしく
     今日も見てしか 妹が笑(ゑ)まひを 」 
                         巻8-1627の替え歌


家持さんも春咲く萩を見たら、このように詠ったことでしょう。

746年、都で青春を謳歌していた家持は越中国守に栄転することになりました。
弱冠29歳、意気揚々と赴任します。

着任してから1か月経ち、藤が満開になるのを見計らって、国守の館で
挨拶と歓迎を兼ねた宴が催されました。
爽やかな薫風、藤、牡丹、芍薬、菖蒲、杜若などが咲き匂ほふ庭園を眺めながら、
一同心地良く一献また一献。
宴もたけなわ、各々ほろ酔い加減の中、国分寺の僧が次のような古歌を披露します。

「 妹が家に 伊久里(いくり)の杜の 藤の花
   今来む春も 常かくし見む 」 
                 巻17-3952 古歌(僧 玄勝が伝誦)

( 愛しいあの子の家に行くという、ここ伊久里の森の藤の花。
 これからも巡ってくる春ごとに、この美しい花を愛でに
 参りましょう。 )

「伊久里(いくり)」と「行(い)く」を掛けた洒落。
「常かくし」:いつもこのように 「かくし」は「斯の如くし」の略

伊久里の所在は不明ですが富山県砺波郡井栗谷と平城京説あり、
ここでは、井栗谷説がふさわしく思われます。

藤は藤波と詠われることが多く「藤の花」は万葉集中この1首のみ。
わざわざ花としたのは女性を寓したものか?

伊藤博氏は
「 玄勝がこの歌を披露したのは、都の女性もよいが、
越中の女性(藤の花)もまた佳なりとして地名を詠みこんだものを
披露したのでは? 」と推測されています。(万葉集釋注7)

単身赴任の家持は大いに羽を伸ばしたかったことでしょうが、今は国守の身。
部下の目もあり、そうもいかなかったかも知れません。
逆に、浮気して大噂になっている部下を説教した面白い歌が残っています。
              ( 万葉集遊楽32 「部下の恋狂い」 ジャンル:心象 ご参照)

「 藤波の 花は盛りに なりにけり
     奈良の都を 思ほすや君 」  
             巻3-330 大伴四綱(既出)

( ここ大宰府では、藤の花が真っ盛りになりました。
あなたさまも、奈良の都を懐かしく思われていることでしょう。)

こちらは大宰府帥(そち:長官)、大伴旅人宅宴席での歌。
当時、旅人は65歳、生まれ育った奈良への望郷の念に駆られている日々でした。

「もう二度とあの懐かしい都や青春を過ごした飛鳥を見ることが出来ない
かもしれない」

そのような旅人の気持ちを察して、部下である作者が
「さぞお懐かしいことでしょう」と思いやったのです。

それから暫くして、朝廷から旅人に帰京の知らせが届きました。
長年の功が認められ大納言に昇進。
めでたし、めでたしです。
    
「 草臥(くたびれ)て 宿かる比(ころ)や 藤の花 」 芭蕉

( 大和路を1日歩き疲れ、宿を求める日暮れ。
 薄紫の藤の花が咲きこぼれているのを見かけた。
 懐旧の情と旅愁と春愁(しゅんしゅう)が渾然一体。) (芭蕉全句 小学館より)



    万葉集その579 (春の萩と藤) 完


   次回の更新は5月15日(日)の予定です。
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by uqrx74fd | 2016-05-06 06:27 | 植物

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