万葉集その五百八十五 (東御苑花散歩)

( 紫陽花  皇居東御苑   )
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( 同上 )
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(  アサザ   同上 )
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(  同上 )
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( コウホネ  同上 )
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( ハナショウブ  同上 )
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( カワラナデシコ  同上 )
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( 萩   同上 )
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( 桔梗  同上 )
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(  萱草  同上 )
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(  山百合  大手町ビルの谷間で  )
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東京駅から徒歩10分足らずの皇居東御苑。
海外からの訪問客も多く、いつも賑わっていますが、何しろ広いので
解放感はたっぷり。
大手門から入場し巨大な石垣の間を通り抜けると、まず目に入るのは
緑濃い木々の下で色とりどりに咲く紫陽花です。
 
我国原産の紫陽花は古代から
「幾重にも重なって咲く花」(橘諸兄)
「色変わる花」(大伴家持) と
観察眼も的確に詠われていますが、残念ながら万葉集には2首しか見えません。

 「 あぢさゐの 八重咲くごとく 八つ代にを
     いませ我が背子 見つつ偲(しの)はむ 」
                巻20-4448  橘諸兄(既出)

( 紫陽花が次々と色どりを変えて新しく咲くように、あなたさまも
 幾年月のちまでお元気でありますよう。
 この紫陽花を見るたびにあなたを思い出し、ご健勝をお祈りしています )

755年旧暦の5月(現在の6月中旬)、官人、丹比真人(たぢひの まひと)宅での
宴の席上、客人として招かれた左大臣橘諸兄が主人を祝福したもの。
真人は諸兄のお気に入りの直属の部下。
親愛の情がこもります。

   「 笠を着て 邸(やしき) のうちの 茶を摘めり 」 野村泊月

紫陽花を愛でつつ散策する中、左手の段々茶畑が点描を添え、
梅の木の下には熟れた実がいたるところに落ちていています。
小鳥が美味しそうに啄んでいますが、酸っぱくないのかしら。
そうだ、そろそろ、梅干し、梅酒を仕込まなければ。

やがて日本庭園。
今が盛りと咲く花菖蒲、そして池面に「あさざ」や「こうほね」が。

「あさざ」はミツガシワ科の多年草で、地下茎が長く横に這い、
睡蓮に似た葉を水に浮かべます。

6月から8月にかけて鮮やかな黄色の花を咲かせますが、天気が良い日の
朝にしか開いてくれません。
花の形が蓴菜(じゅんさい)に似ているが食べられないので花蓴菜ともよばれるそうな。

万葉集では「あざさ」と云う名で長歌に1首登場。
恋人を自慢する息子と両親との楽しい会話の中で女性の髪飾りとして詠われています。

「 - 蜷(みな)の腸(わた) か黒き髪に  
真木綿(まゆふ)もち  あざさ結ひ垂れ 
大和の 黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)を
    押へ刺す うらぐはし子 それぞ我が妻 」 
                       巻13-3295 作者未詳(既出)
訳文
( - あの子の緑の黒髪に
 木綿(ゆふ)で「あざさ」を結わえて垂らし 
 大和の黄楊で作った小櫛を 
 髪の押さえに挿している 輝くような美しい娘
 それが私の妻なのですよ )

 蜷(みな)の腸とは食用にしていた田螺(たにし)と思われますが、
緑の黒髪の枕言葉に貝の腸とは面白い表現。
栄養たっぷりなので茹でたり黒焼きにして食べていたようです。

 「真木綿(まゆふ)」の「ま」は褒め言葉、
「木綿」は現在の「モメン」ではなく楮の繊維で結った紐。

髪飾りとして「あざさ」を結いつけて髪に垂らしているのです。

「うらぐはし」の「うら」は心、「くはし」は妙なるほどに。
心にしみるほど輝くばかりに美しいの意。

夜中に頻繁に家を抜け出す息子。
「どうやら恋をしたらしい」と親も薄々気づいていたのでしょう。
とんでもない相手ではあるまいかと心配する両親がある日、事情を聞いてくれた。
これは幸いとばかりに惚気まくる息子です。

「 紫に 裏表ある 桔梗かな 」  島田 左久夫

やがて秋の七草コーナへ。
葛の葉と薄の茎だけかなと思っていたら、何と! 
撫子、桔梗、女郎花(おみなえし)、そして、萩が数株咲いているではありませんか。
年々開花が早くなり、季節感が乏しくなってまいりますが、
目の前の花は初々しく美しい。

「 ひさかたの 雨は降りしく なでしこが
       いや初花に 恋しき我が背 」 
                      巻20-4443 大伴家


( ひさかたの雨は しとしとと降り続いています。
 しかし撫子は今咲いたように初々しく、その花さながらに
 心惹かれるあなたさまです。)

755年大伴家持宅で酒宴が催された折の歌。
主賓大原今城が挨拶で
「 あなたさまのお庭の撫子は毎日雨に降られておりますが
  色一つ変わりませんね 」
と主人、家持の健勝を祝したのに対する返歌。

6月下旬、梅雨の頃に詠われたものですが、当時の撫子も早咲きだった?
ご機嫌伺いのやり取りに美しい花を介する優雅な万葉人です。

東御苑花散策もこれにて終わり。
色々な花を少しづつ愛で、さながら幕の内弁当を食べたよう。
さらに帰り道の大手町ビルの一角の木陰で山百合が一輪。
デザートのおまけです。
何という幸運!
梅雨の晴れ間の清々しい一時(ひととき)でした。

 「 起(た)ち上がる 風の百合あり 草の中 」 松本たかし





     万葉集585 (東御苑花散歩)  完


    次回の更新は6月24日の予定です。
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by uqrx74fd | 2016-06-17 07:09 | 万葉の旅

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