万葉集その五百九十三(麻いろいろ2)

( 亜麻の花   学友M.I さん提供 )
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( 亜麻の原種   小石川植物園 )
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(  奈良の麻専門店 おかい: 以下の写真は同店のご厚意で撮影させていただきました)
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(  麻の繊維   おかい提供 )
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(  近世の織機   同 )
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(  麻布    同  )
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(  古代の手拭   同  )
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(   麻のスカーフ   同 )
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(   着物地     同  )
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(   同     奈良町センター )
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古代、麻にかかわる仕事はすべて女性の役割とされていました。
種蒔き、刈取りまたは抜き取り、皮むき、蒸し、晒し、糸にして布を織る。
根気がいる重労働です。
しかも、軽くて美しい上物は生活の糧として売り、自分たちは分厚な重い衣を着る。
そのような苦しい生活にもかかわらず、万葉の女性は恋をしながら、楽しく
作業の様子を詠うのです。

「 千(ちぢ)の名に 人は云ふとも 織り継がむ
     わが機物(はたもの)の 白き麻衣(あさごろも) 」 
                           巻7-1298 作者未詳

( あれこれと世間の人が噂を立てようとも、私は機にかけた白い衣を
 織り続けましょう。)

「白い麻衣」に「初々しい若者」を「織り継がむ」に「思い続けよう」の
意がこもり、世間が色々噂を立てようとも、私はあの人を一途に愛し続けようと
決心する乙女。

「千(ちぢ)の名」:「千にもおよぶ浮名が立てられようとも」
「白き麻衣」: 麻を晒して白くしたもの

「 娘子(をとめ)らが 績(う)み麻(を)の たたり 打ち麻(そ)懸け
    うむ時なしに 恋ひわたるかも 」 
                          巻12-2990 作者未詳

( 娘たちの麻紡ぎのたたり、そのたたりで打った麻を掛けて
  糸を績(う)み続ける私。
  それと同じようにあの方を倦(う)むことなく、焦がれ続けております。)

「たたり」: 糸紡ぎの緒を掛ける道具で、台付の柱を3本立て、その柱の
頭が三角形になるように置いて糸を巻きつける。

「績み麻」: 麻の繊維を紡いで作った糸。 績(うみ)と「倦み」を掛けている
「打ち麻(そ)」:木づちで打って柔らかくした麻の繊維

「 麻の葉の きりこみ深く 涼徹す 」  大野林火(りんか)

人々は麻で衣類のみならず掛布団や寝間着などの寝具も作りました。

「 庭に立つ 麻手小衾(あさでこむすま) 今夜(こよひ)だに
         夫(つま)寄(よ)しこそね 麻手小衾(あさでこぶすま) 」
                           巻14-3454 作者未詳

( 庭畑に茂り立つ麻 その麻で作った夜着よ、
 せめて今夜だけでも愛する夫をここに呼び寄せておくれ。
 麻の夜着よ )

当時、寝具に男の来訪を呼び寄せる力があったと信じられていました。
男は遠方を旅しているのでしょうか。
壁に掛かった男の夜着には夫の霊魂が宿っている。
その方に向かって熱心に祈る健気な女です。

「麻手小衾」(あさでこぶすま) 麻で作った寝具。
言葉を二度繰り返すことによって霊力を得たいとの心がこもります。 

「 今年行(ゆ)く 新島守(にひしまもり)が 麻衣(あさごろも)
    肩のまよひは 誰(たれ)か取り見む 」
                             巻7-1265  作者未詳

(  今年出かけてゆく新しい島守の 麻の衣
  その衣の肩のほつれは いったい誰が繕ってやるのであろうか)

島守は諸国の軍団の兵士から選ばれ、筑紫、壱岐、対馬の辺境の
守備にあたった防人。
愛しい人、または子供を防人に送りだす妻か母が気づかって詠んだもの。

「衣の肩のほつれを繕う人もいないのに、さぞ不便なことだろう。
 私が傍に居てあげられたらいいのに 」

「まよひ」生地が薄くなってほつれること

「 白露に 紫映える 亜麻の花 」  筆者

麻の歴史を画期的に変えたのは亜麻。
中東原産のアマ科の一年草で、我国には江戸時代、元禄の頃に渡来したと
いわれています。
当初、小石川御薬園で薬種として種子を採るために栽培されましたが、
中国から容易に輸入出来たので定着せず、本格的な栽培は明治の北海道開拓時代、
榎本武揚によってなされ、繊維用として第2次大戦頃にピークに達しました。

戦後、化学繊維の台頭で没落しましたが、近年、栽培適地の北海道で
多年草の園芸種の亜麻の花の美しさに人気が高まり、札幌市の麻生町、
苗穂、当別町では亜麻を生かした街づくりが行われ、
多彩な行事が開催されています。

なお、亜麻の茎の繊維は大麻、苧麻より上質かつ強靭で柔らかく、
リンネル(リネン:薄地織物)の製品ほか、高級衣料や女性の高級下着
(ランジェリ-)にも使われています。
また、成熟した種子から亜麻仁油が得られ、食用に供されるほか、
油絵具の材料としても用いられている有用の植物です。

因みに亜麻色とは「黄みを帯びた茶色」。
金髪とは少しイメージが違い、栗毛に近いそうな。

「 亜麻の花 ふるればもろく 散りにけり 」  角川照子

ご参考
 「本麻奈良晒 」
   近世奈良を中心として生産された麻織物。
  室町時代寺院の注文により生産されていたが、慶長16年(1611)徳川家康の
  上意により、大久保長安が奈良の具足師、岩井与左衛門に書状を与えて
  保護し、幕府の御用品と認めたので全国的に知られた。
  以後、享保年間まで30~40万疋の生産を続け、奈良隋一の産業となった。
  宝暦4年(1754)刊行の「日本山海名物図会 」には
  「 麻の最上は南都なり。 
    近国よりその品数々出れども、染めて色よく、着て身にまとわらず、
    汗をはじく故に世に奈良晒として重宝するなり 」
 と評価された。
現在、奈良晒を営む者は僅かになったが、旧来の伝統を守り伝えている。

  ( 本麻奈良晒織元 株式会社 岡井麻布商店
               麻布 おかい )  提供の説明書要約

     
           万葉集593 (麻いろいろ2 ) 完


           次回の更新は8月19日です。
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by uqrx74fd | 2016-08-12 07:12 | 植物

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