万葉集その五百九十四 (海神:わたつみ)

( わたつみ    ハワイ )
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(  城ケ島  神奈川県三浦半島 )
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(  同上 )
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(  稚内  後方 利尻富士 )
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(  千枚田と能登の海 )
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(  能登の海 )
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(   安房鴨川  )
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(  住吉神社  全国2300余ある住吉神社の総本社 )
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(  同上 本殿  折しも結婚式が行われていた )
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海神という言葉は「わた」「つ」「み」の三つから成るそうです。

新明解語源辞典によると

「わた」: 「渡る」の意で上古における海の彼方は他界と考えた
       あるいは他界、遠処を示す「ヲト(ヲチ)」が「ワタ」に転訛した。
「つ」は助詞、天つ空 山つ神と同様「の」と同じ
「み」は祇(み)で神霊を意味する

とあります。
つまり、海の果ては人間の住む世界ではなく、神がおわすところと
考えられており、次第に海そのものも意味するようになったのです。

万葉集での「海神」は、清音「わたつみ」と訓まれ、
「海の神」「海」両方の使い分けがなされています。


「 潮満たば いかにせむとか 海神(わたつみ)の
      神が手渡る 海人娘子(あまをとめ)ども 」 
                             巻7-1216 作者未詳

( 潮が満ちてきたら、いったいどうするつもりなのか。
 海神の支配する恐ろしい難所を泳いでいる海人の娘子らは )

和歌山市の南部、雑賀野(さいかの)というところから海を見下ろしながら
旅行中の官人が詠ったもの。

穏(おだや)かな海面。
海女達が海に潜って鮑や白玉(真珠)を採っている。
一度潜るとなかなか浮き上がってこない。
このような光景を初めて見る都人は、驚嘆しつつも海が荒れたら
どうするのだろうかと、他所ながら心配しています。

海女は巧みな者で30m以上も潜り、波間に顔を出したとき鋭く息をします。
その音が笛のように聞こえるので磯笛とよばれるそうな。

「 海神の いづれの神を 祈らばか
    行くさも来(く)さも 船の早けむ 」 
                      巻9-1784 作者未詳


( 海を支配する神のどの神様に祈りを捧げたならば
 行きも帰りも、御船がすいすいと海を渡れるのでしょうか )

遣唐使が出発するにあたって贈られた歌ですが、作者、年代不明。
当時の航海は海図も十分でなく、嵐に遭遇する危険も多い命懸けの渡航でした。
遣唐使は出発の際、海の神、住吉神社に祈願するのが当時の習いでしたが
作者はどの神様にお願いしたのでしょうか。

「行くさも来(く)さも」: 行き帰り
「さ」は移動の途中であることを示す接頭語

「 わたつみの 沖の玉藻の 靡き寝む
    早(はや)来ませ君 待たば苦しも 」 
                        巻12-3079 作者未詳

( 大海原の底にくねり靡く玉藻のように
 あなたに寄り添って寝たい。
 あなた、早く来て抱いて!
 これ以上待つのは苦しくって苦しくって。)

ここでの「わたつみ」は「海」の意。
「靡き寝む」は体をくねらせ髪を振り乱して抱き合う様を想像させ官能的。
「女子の歌にしては珍しくあらわだが、緊迫感が正直に出ていてよい」
とは粋な伊藤博氏の評です。(万葉集釋注6)

「 わたつみの わが身越す浪 立ち返り
     海人のすむてふ うらみつるかな 」
              古今和歌集 詠み人知らず

( 大海の波が私の身の丈を越すほどに、打ち寄せてきては返すように
 私も何度も何度も激しくあの方が住んでいるというあたりに
 思いやってお恨みしております。)

平安時代になると「わたつみ」は海の意が多くなり、「わたつうみ」とも
詠われています。

愛する人が訪れなくなった。
目の前の海は大波が立ち、寄せては返す。
恋人の住む方角を眺めながら

「 あなたどうしたの。こんなに私が恋焦がれているのに。
  もし心変わりしたのなら、お恨みいたしますことよ。」
と呟く女。
潮騒の音が聞こえてくるような恋歌です。

立ち返り  寄せては返す波 何度もの意を掛ける
海人    海辺の労働者と自分の男を掛ける
うらみつる  漁師が海を見る(浦見)と恨みを掛ける

「 年は今 立ちかへるらん わだつみの
           波のほの上に  日はいでにけり 」 太田水穂

              波のほ:波の穂  波がしら

         万葉集594 「 海神:わたつみ 」  完

         ご参照   万葉集331 「きけ わだつみのこえ」  

         次回の更新は8月26日です。
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by uqrx74fd | 2016-08-18 15:36 | 自然

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