万葉集その五百九十六( 姫押:をみなへし)

( 秋空に咲き誇るオミナエシ  市川万葉植物園 )
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( 万葉人はこの花を美女も圧倒する美しさと称えた  山辺の道 奈良 )
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(  オミナエシとオニユリ  同上 )
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(  オミナエシとススキ   同上 )
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(  オミナエシと蝶   同上 )
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(   同上  )
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「女郎花」という字がまだ使われていなかった万葉時代、
「姫押」「姫部志」「美人部志」「佳人部為」「娘子部四」などという字を当て、
すべて「をみなへし」と訓みなしていました。
いずれも美しい女性を思い起こさせ、万葉人のこの花にかける憧れや想いが
伝わってくるものばかりです。

「姫押」は「美人(姫)」を「圧倒する(押))ばかりに美しい花の意で、
この字を「をみな(姫)へし(押)」の語源とする説もあります。

「 をみなへし(姫押) 佐紀沢の辺(へ)の 真葛原(まくずはら)
     いつかも繰(く)りて  我が衣(きぬ)に着む 」
                           巻7-1346 作者未詳

( おみなえしが咲き、葛が生い茂る野原。
 あの葛は何時になったら糸に繰って私の着物として
 着ることができるのであろうか。 )

古代、葛の根は食用、茎は衣料に用いられていました。
作者は葛を少女に譬え、その少女の早い成長を待って結婚したいと
願っています。

「繰りて我が衣に着る」は妻にしたいの意で、余程美しい少女だったのでしょう。
佐紀沢は現在の奈良市佐紀町、平城京に近いところです。

「 をみなへし 秋萩しのぎ さを鹿の
     露別け鳴かむ 高円(たかまと)の野ぞ 」
                    巻20-4297  大伴家持(既出)

( ここ高円の野は一面のおみなえしや秋萩。
     そのような中を、雄鹿が白露をいっぱい置いた花々を踏み分け、
     やがて鳴きたてることであろう )

753年作者は2~3人の官人と連れだって高円山麓の小高い丘に登り
酒宴を催しました。
野辺一面におみなえしと萩が咲き乱れ、秋真っ盛り。
そのような中を雄鹿が萩の白露を散らしながら悠然と通ってゆきました。
なんと優雅な光景でしょうか。
眼を閉じるとそのさまが思い浮かんでまいります。

高円山麓は聖武天皇の離宮や志貴皇子(天智天皇の子)の宮があった
ところで、萩の寺で知られる白毫寺周辺。

「秋萩しのぎ」 「しのぐ」は押し伏せる
「露別け」 おみなえしや萩に置く露を胸で押しのけての意

「 高円の 宮の裾(すそ)みの 野づかさに
    今咲けるらむ をみなへしはも 」 
                         巻20-4316  大伴家持

( 高円の宮の裾野のあちらこちらの高みで、今ごろ盛んに咲いているだろうな。
 おみなえしの花は )

作者は難波で防人を九州へ送りだす仕事に携わっており、多忙を極めていました。
高円での楽しかった酒宴を懐かしみ、その光景を思い浮かべながら、
今は亡き聖武天皇を追悼していたものと思われます。

「野づかさ」 小高いところ

「おみなえし」は全国いたるところに原生するオミナエシ科の多年草で
秋の七草の一つとされていますが、気の早いものは夏の盛りから黄色い小花を
密集させて咲かせます。
そのさまは「蒸した粟飯(あわめし)」(今のものでいえばブロッコリ-) のようです。

古代の女性は粟(あわ)を主食にしていたため粟飯を「をんなめし」とよんでおり、
その「をんなめし」が花の名前に転訛したとの説もあります。
つまり「をんな」→「をみな」「めし」→「へし」。

      「 面影の 幾日変らで 女郎花 」 几董(きとう:江戸中期)

「女郎花」という字が見えるのは平安時代からで万葉の「姫」「美人」「佳人」
「娘子」などを一括したものと考えられています。
「女郎」は元々「いらつめ」と訓み、主として「上流階級の女性」の名前として
使われ、次第に「若い女」あるいは「広く女性をいう」言葉になりました。
「遊女(傾城:けいせい)」をさすようになったのは後々のことです。

          「女郎花には こまやかな 黄を賜ひ 」 田畑美穂女



            万葉集596(姫押:をみなへし ) 完



            次回の更新は9月9日の予定です。
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by uqrx74fd | 2016-09-01 17:27 | 植物

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