万葉集その六百三 (さねかずら)

( サネカズラの花  国立科学館付属自然教育園 東京目黒区)
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(  同 拡大  )
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( 実がつきました   奈良万葉植物園 )
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( 徐々に大きくなり   同 )
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( 秋に色づきはじめます  同 )
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( 完熟    同 )
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( そろそろ終わりです   同 )
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サネカズラは関東以西に自生するモクレン科の常緑つる性植物で、
実(さね)が美しいので漢字で「実葛」「核葛」と書かれます。
夏から初秋にかけ黄白色の小さな花を下向きに咲かせ、秋深まる頃
円形に固まって垂れ下がる大きな実を熟成、それはそれは鮮やかな赤紫色。
まるで京菓子の鹿の子のようです。

葉や茎から粘り気がある粘液が出、昔、男の整髪料に用いられたので、
美男葛(ビナンカズラ)ともよばれ、実を乾燥させて煎じて飲むと、
胃腸、滋養強壮,咳き止めに効ある有用の木です。

   「 実となりて 美男かづらの 現れぬ 」  島田みつ子

万葉集では9首、サナカズラとも詠まれ、すべて恋の歌です。

「 あしひきの 山さな葛(かづら) もみつまで
     妹に逢はずや 我(あ)が恋ひ居らむ 」 
                        巻10-2296 作者未詳

( この山のさな葛が、色づくようになるまで
 いとしいあの子に逢えないまま、私はずっと恋い焦がれていなければ
 ならないのだろうか。 )

「もみつ」は通常、紅葉することをいいますが、常緑の葉が紅葉するはずがないので
「永久に逢えないのだという心がこもる」という意の説と、
熟して真っ赤に色づいた実-「燃えるような恋心」と解する説があり、
後者の方がこの歌にはふさわしいように思われます。

長い間逢えないと嘆く男は旅の途中なのか、あるいは相手の女性が
親から交際を禁じられているのか。

なお、9首あるサナカズラの中で植物を題材としているのはこの1首のみ。
残りは「後で逢おう」「必ず逢おう」の意をもつ枕詞として用いられています。
その理由は、サナカズラの蔓(つる)が長く延び、先端がどこかで絡み合うので、
「さ寝(ね)」つまり、男女の共寝を暗示しているそうな。

「 さね葛(かづら) 後(のち)も逢はむと 夢(いめ)のみに
     うけひわたりて 年は経(へ)につつ 」 
                      巻11-2479   柿本人麻呂歌集

( さね葛が伸び、あとで絡まり合うように、後にでも逢おうと
     夢の中ばかりで祈り続けているうちに、年はいたずらに過ぎて行きます。)

         「夢のみに うけひわたりて」
  
           「うけふ」 あることを心に誓って神に祈り神意をうかがうこと。
           寝る前にしかじかの夢をみたら後に逢えると誓い、
           その夢で一心不乱に祈っての意 

「 木綿畳(ゆふたたみ) 田上山(たなかみやま)の さな葛
     ありさりてしも 今にあらずとも 」 
                          巻12-3070  作者未詳

( 田上山のさね葛 その葛が伸び続けるように
      このままずっと生きながらえて あの子にいつか逢いたい。
      今でなくてもよいから。)

とはいうものの、今すぐにでも逢いたいと思い続ける男。
相手は高貴な高嶺の花の女性なのでしょうか。

       木綿畳: 木綿を折りたたんだ神祭りの幣帛(へいはく) 田上山の枕詞
             長い蔓にあやかり生命の長久や永遠を寿ぐものとされた。

       田上山: 滋賀県大津市南部の山 藤原京造営の丸太を伐り出した産地

       ありさりてしも: 「ありしありても」の約 「あり」は動作の継続を表す
                  「し」強意の助詞 ずっと生きながらえての意

サネカズラは花、実共に鑑賞価値が高いので蔓を垣根に這わせたり、
盆栽仕立てや生花の材料とされ、また、樹液は和紙を漉く時の
糊料(こりょう)に用いられているので「布海苔葛(ふのりかずら)」
「ところ葛」ともよばれています。
  
      「 葉がくれに 現れし実の さねかずら 」 高濱虚子



         万葉集603 (さねかずら)完

         次回の更新は10月28日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2016-10-20 17:29 | 植物

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