万葉集その六百八 (朝露)

( 彼岸花に置かれた露  学友N.F さん提供 )
b0162728_1939284.jpg

( キス ミー ? いやいや サザンカの花びらでした  自宅 )
b0162728_1939678.jpg

( ヤマハゼ  室生寺  奈良 )
b0162728_19385022.jpg

(  南天   自宅 )
b0162728_19383513.jpg

(  柚子   同上 )
b0162728_1938196.jpg

(  薔薇   同上 )
b0162728_1938589.jpg

(  薔薇の露は甘い  棲みついたカエル君  同上 )
b0162728_19374924.jpg

(  露草  山辺の道  奈良 )
b0162728_1937312.jpg

「露」は「梅雨」「汁(つゆ)」などに関係する語で元々は「湿っている」ことに
由来するそうですが、歌の世界では秋の季語とされ様々な使い方がされています。

古歌では朝露、夕露、白露の表現が多く、露の消えやすさに人生のはかなさを譬え、
つのる思いの強さゆえにこぼれる涙を「思いの露」といい、
悲しみのためにあふれる涙は「心の露」、言葉の美しさを「言葉の露」、
情愛のうるおいは「情けの露」、縁のうすいことを「縁(ゆかり)の露」などと
言い慣わし、日本人好みの題材として数えきれないほど詠われています。

万葉集での露は115余首。
その中から早朝、草葉に降り置き、美しく輝く朝露を。

「 朝露に にほひそめたる 秋山に
    しぐれな降りそ ありわたるがね 」
                    巻10-2179 柿本人麻呂歌集

( 朝露に濡れて色づきはじめた秋の山に
      時雨よ降らないでおくれ。
      この見事な風情がいついつまで続くように )

「ありわたるがね」 長く続いて欲しい
「あり」 存続をしめす接頭語的用法 「がね」 希望的推測をしめす終助詞

当時、秋の露は紅葉を促すものと考えられていました。
折角美しく映えているのに、冷たい時雨を降らせて枯らすなと詠う作者です。

次の歌は
「白い露がどのようにして木の葉を様々な色に染め上げるのだろうか」
と戯れています。

「 白露の 色はひとつを いかにして
      秋の木(こ)の葉を ちぢにそむらむ 」
                            ( 藤原敏行 古今和歌集 )

( 白露の色は一色であるのに、どのようにして秋の木の葉を
 千々の色に染めるのだろうか )

「 朝露に 咲きすさびたる 月草の
    日(ひ)くたつなへに  消(け)ぬべく 思ほゆ 」 
                           巻10-2281 作者未詳(既出)

( 朝露をあびて咲き誇る露草が 日が傾くと共に萎むように
 日が暮れてゆくにつれて 私の心もしおれて消え入るばかりです )

咲きすさびたる : すさぶ: ほしいままに咲きほこっている
日くたつなへに :くたつ:最盛期を過ぎる 衰える

男が「今夜行くよ」と云っていたのに夜が更けても来ない。
期待に胸をふくらませていたのに、時間の経過と共に萎んでゆく。

月草は露草、朝咲き夕べに萎む儚い運命は露と同じ。

竹久夢二の「宵待草」

「 待てど 暮らせど 来ぬ人を
  宵待草の やるせなさ
  こよひは 月も 出ぬそうな 」   

を思い出させる一首です。

 「 朝露の 消(け)やすき我(あ)が身 老いぬとも
     またをちかへり  君をし待たむ 」 
                            巻11-2689 作者未詳

( 朝露のように今にも消え入りそうなこの身、そんな私の命だけれど
      どんなに老いさらばえようと、また若返ってあなたをお持ちしましょう。)

男から疎まれて振られた女、なにくそ、どんなに老いさらばえようと
必ず彼の気持ちを引き戻してみせると自ら励ましているような歌。
男にとって有りがた迷惑な話?

「 かにかくに 物は思はじ 朝露の
     我(あ)が身ひとつは 君がまにまに 」
                       巻11-2691 作者未詳

( あれやこれやと もう思い悩んだりいたしません。
  朝露のようなはかないこの身のすべては、あなたのお心のまま 。)

さまざまに悩んだ末、決心した女。
もうどうにでもして!
とは云ったものの相手の反応は鈍い?

「 かく恋ひむ ものと知りせば 夕(ゆふへ)置きて
    朝(あした)は消(け)ぬる 露にならましを 」 
                         巻12-3038 作者未詳

( これほど恋焦がれるものと知っていたら、いっそのこと
  夕方に置いて朝方に消えてしまう露であればよかった )

こんなに苦しむのであればいっそのこと露のように
消えてしまった方がましだ。
命を懸けた本気の恋とは楽しく、そして苦しいもの。
それでも諦めない万葉人。

露は晴天の風のない夜、急速に地面が冷えると多くなるそうです。
月の光を浴びながらキラキラ光る玉は正に月の雫。
日本語って美しいですね。

余談ながら「露払い」の由来を。
「露払い」とは「先触れや先導すること」をいいますが、
元々は宮中で蹴鞠(けまり)の会がある時、競技者が出る前に、道具を管理する者が
まず蹴って鞠(まり)にかかっている露を払い落したことに由来するそうです。

室町時代になると、遊芸など最初に演ずることに使われ、
さらに相撲で横綱土俵入りの前駆を勤める力士をいうようになったのは
御承知の通り。
相撲の露払いの起源は古代の蹴鞠にありです。

   「 朝露の ふるればこぼる 楽しさに 」    稲畑汀子




                万葉集608 (朝露)   完

               次回の更新は12月2日(金)の予定です。
[PR]

by uqrx74fd | 2016-11-24 19:40 | 自然

<< 万葉集その六百九 (欅:けやき)    万葉集その六百七 (十月時雨) >>