万葉集その六百九 (欅:けやき)

( 欅の新緑  日比谷公園  東京 )
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( 同    上野公園   同  )
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( 同    六義園   同  )
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( 同    赤塚植物園   同 )
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(  同   自然教育園   同 )
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(  同    鬼子母神参道欅並木  同 )
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(  秋    鬼子母神前の駄菓子屋  1781年創業 )
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(  中秋   赤塚植物園 )
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(  晩秋    日比谷公園  )
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(    同上   )
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「けやき」の語源は「ケヤケキ」即ち「秀でた木」の意とされています。
その風格、品格は松とならぶ樹木界の双璧とされ、古くから有用の木と
されてきました。
落葉高木(ニレ科)にもかかわらず、神木とされているのも立居姿の美しさ、
旺盛な生命力が崇められたのでしょう。

春、芽吹きのころ、一部の枝がおずおずと葉を開き、霜害がないことを
確かめたのち、一斉に美しい若緑の葉を開く用心深さ。
夏にかけ美しい青葉と茂らせ、木陰で休む人の憩いの場を提供し、
秋には紅葉で目を楽しませてくれる。
冬、風に吹かれて、はらはらと落葉するさまにも趣があり、
四季を通じて見る人の心を和ませてくれる樹木です。

万葉集では槻(つき)という名で9首、その多くは斎槻(ゆつき、いつき、いはひつき)、
百枝槻(ももえつき)、などと詠われ、古代から尊い木として崇められていたことを
窺わせています。

まずは長歌(巻13-3223)の訳文から

「雷が光って 曇り空がうち続く9月
 その晩秋、時雨が降るようになると
 雁が まだ来て鳴きもしないのに

 神なびの 清らかな御田屋の
 垣内の田んぼの池の堤
 その堤に生い立つ 神々しい槻の木には
 勢いよくさし延べた 枝いっぱいに
 秋の紅葉が輝く

 その色鮮やかな紅葉を
 手に巻きつけている ちっぽけな鈴もゆらゆらに
 鳴り響くほどに
 か弱い女の身の私ではあるけれど
 引きつかんで 槻の木の
 天辺(てっぺん)も 撓むばかりに
 どっさり折りとって私は持って行く

 わが君の髪飾りのために  」     

長歌全文  

「 かむとけの 日香る空の
  九月(ながつき)の しぐれの降れば
  雁がねも いまだ来鳴かね

  神(かむ)なびの  御田屋(みたや)の
  垣つ田の 池の堤の 
  百(もも)足らず 斎槻(いつき)の枝に 
  瑞枝さす  秋の黄葉(もみぢば) 

  まき持てる  小鈴もゆらに 
  たわや女に  我(わ)れはあれども 
  引き攀(よ)ぢて 峯も とををに 
  ふさ手折り   我(わ)は持ちて行く 

  君がかざしに 」 
                     巻13-3223 作者未詳

  一行ごとに訓み解いてまいりましょう。

「 かむとけの 日香る空の 」

      「かむとけの」: 日香る空の枕詞 かむとけは落雷 
      ヒカ(ピカ)の意で「ひ」を起こす
           
      「日香る」  :   ある気配が立ちこめるさま

        ( 雷が光って 曇り空が続く )

  「 九月(ながつき)の しぐれの降れば 

     (  長月の 時雨が降るようになると )

    「 雁がねも いまだ来鳴かね 」

     (  雁がまだ来鳴きもしないのに )

 
 「  神(かむ)なびの  御田屋(みたや)の 」

       「神なびの」:  神がこもる
       「御田屋(みたや)」 : 斎き浄めた田を守る小屋

            ( 神様に守られた 神聖な小屋 )

  「 垣つ田の 池の堤の 」

           「垣つ田」: 垣根に囲まれた田

          ( 垣根に囲まれた田の 池の堤 )
      

  「 百(もも)足らず 斎槻(いつき)の枝に 」

            「百(もも)足らず」: 斎槻(いつき)の枕詞 百に足りない五十(いつ)の意

         ( 神聖な槻の枝に )

  「 瑞枝さす  秋の黄葉(もみぢば) 」
   
             ( 瑞々しい枝をさしのべた 秋の黄葉 ) 
  
     「 まき持てる 小鈴もゆらに 」

            ( 手に巻いている 小さい鈴をゆらゆらと鳴り響かせて) 
   
    「 たわや女に  我(わ)れはあれども 」

             ( 私は かよわい女 ではありますが )

    「 引き攀(よ)ぢて  峯も とををに 」

            「引き攀(よ)じて」 引き掴んで
            「峯も とををに」  槻の木のてっぺんが撓むほどに

        ( 槻に木のてっぺんが撓むほど力いっぱい引き掴んで)

     「 ふさ手折り  我(わ)は持ちて行く 」

              「 ふさ手折り 」 いっぱい手折って

               ( いっぱい折りとって 持ってゆきます )

     「 君がかざしに 」

             (あなた様の髪飾りに )
 
             かざし :神を迎え幸福、繁栄を祈る呪的行為

反歌

「ひとりのみ 見れば恋しみ  神なびの
   山の黄葉(もみちば) 手折り来つ君 」 
                        巻13-3224 作者未詳

     ( ひとりきりで見ていると 見せたくてならないので
       二人一緒に見ようと
       神なびの この紅葉を折り取って持ってきましたよ、
       あなたさま。 )

 紅葉狩りに集った男女間での宴で歌われた寿ぎ歌です。
 瑞々しく紅葉した槻の枝を持って、小鈴を振るたわやめ。
 受け取る男。
 周囲を取りまく男女。
 それは豊穣の予祝の宴であったことでしょう。

 「欅並木 ここにはじまる 蝉時雨 」 富安風生

江戸時代、欅は橋桁や船材に使われ、その枝を海苔栽培の粗朶として
活用されたため幕府は大掛かりな植栽を奨励しました。
その結果、武蔵野には欅が多く残り、いたるところで並木が見られたそうです。

高濱虚子はエッセイ「欅並木」で

『 東京近郷に出ると必ず並木に出くわす。
  欅や楢や榛(はり)などが大空高く延びていて、その下に
  昔風の人家がなお残っているものを散見するのである。
  この欅並木もまた京洛地方に見ることが出来ぬ武蔵野特有のものである。
  中略 
  この並木は武蔵野の古い街道を象徴しているもので、この欅が大きければ
  大きいほど街道の古さを現わしている 』 

と述べています。

     「 落葉せる 大き欅の 幹のまへを
                 二人通りぬ 物云ひながら  」    島木赤彦


ご参考 : 欅の用途

 神社仏閣、大邸宅の門柱、門扉、土台、大黒柱,鴨居、床廻り、格子戸など。
 椅子、食卓、仏壇、戸棚、盆、車箪笥、盆、皿などの生活用具。
 太鼓の胴、バイオリンの外囲い,三弦などの楽器。
 鉄道枕木、杭、橋梁、電柱、の土木用材。
 船首、船尾、船室の内装など船舶用材。
 客車、汽車や電車の室内装飾用。
 荷馬車、人力車、馬車。
 寺や神社の柱や彫刻 (清水寺の舞台を支えている欅の柱、唐招提寺、
                 東西本願寺、 皇居桜田門は有名)。

 弓材としては真弓(マユミ)とならぶ材料、槻弓とよばれた。



 万葉集609 (欅:けやき) 完


         次回の更新は12月8日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2016-12-01 15:28 | 植物

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