万葉集その六百十 (結婚 しまーす)

( 朝の神事   橿原神宮  奈良 )
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( 同上  巫女の舞が美しい  同上 )
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( 同上 )
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( 古式豊かな結婚式   春日大社  奈良 )
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(  住吉大社  大阪 )
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( 嫁入り船  潮来  茨城 )
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(  八坂神社  京都 )
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( 新郎新婦のお練り   鶴岡八幡宮  鎌倉 )
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( 同上 )
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( 笙の演奏とともに  同上 )
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(  同上 )
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(  花嫁切手 )
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昔々、飛鳥に都があった頃、上流階級とおぼしき一組の結婚式が行われました。
結婚後も男が妻の元に通う習慣の時代ですが、ともかくも親や周囲の人たちに
認知されれば堂々と出入りでき、噂を気にすることもなくなります。

喜び勇んで式に臨んだ新郎新婦。
場所は飛鳥、橘寺南東に位置する聖なるミハ山の麓です。
いよいよ式が始まり、まずは主賓の挨拶。
神に奉げる祝詞(のりと)のような調べで厳かに詠みあげられていきます。

先ずは超訳から。(原文訓み下しは末尾ご参考をご覧ください)

「 多くの神々が天降られて崇められている瑞穂の国の聖なるミハ山は、
 神代の昔から高天原にいます天つ神を祀るこの上もなく尊き山。

 春が来ると霞が立ち 秋になると紅葉が照り輝くさまは
 賑々しく栄えているわが国土を象徴しているようである。

 この聖なる山の周囲を取り巻くように
 明日香の川の清き流れが国を潤している。

 流れが早いので、苔が付きにくいにもかかわらず悠久の時が経過すると
 石に苔生し、鮮やかに映えている。

 神様、どうかこの二人が苔生すほど幾久しく
 来る夜も来る夜も幸せに仲睦まじく過ごせるようお取り計らい下さい。
 そして、そのことを夢にお示し下さい。
 そのために我々は精進潔斎して一心不乱にお祈りさせて戴きます。
 我らの神よ。 」             (巻13-3227 作者未詳)

山川を対比させて国土豊穣を神に感謝した後、苔むすほどに何時いつまでもと
最終部の本題に導く挨拶歌です。

続いては新郎の誓いの言葉。

「 神なびの みもろの山に 斎(いは)ふ杉
     思ひ過ぎめや 苔むすまでに 」 
                            巻13-3228 作者未詳

( 神が住むというミハ山。
      私は身を慎んで境内の御神木である杉を崇め奉っています。
      その杉ではありませんが、これから先、苔がむすほどに長い時が経とうとも
      私の愛情が消え失せるなどということは絶対にありません。 神に誓って! )

「みもろ」は「神が籠るところ」で、奈良県櫻井市ミハ山。
「思ひ過ぎ」:思いが過ぎる→愛情が消え失せるの意で「過ぎ」に「杉」を掛ける 

神、山、杉、苔と祝宴にふさわしい言葉が並び、
厳粛な式の様子が偲ばれる歌です。

続いて一同和して声高らかに詠います。

「 斎串(いぐし)立て 御瓶(みわ)据(す)ゑ奉(まつ)る 祝部(はふりへ)が
     うずの玉かげ  見ればともしも 」 
                                巻13-3229 作者未詳

( 玉串を立て 神酒の甕(かめ)を据えてお供えしている
     神主たちの 髪飾りのひかげのかずら。
     そのかずらを見ると まことにゆかしく思われます。)

「 斎串(いぐし)」
             神前に立てる聖なる串 串は木の枝や竹などで神を招き降ろすもの

「 御瓶(みわ)据(す)ゑ奉(まつ)る」

             酒甕をすえて供え祀る

「祝部(はふりへ)」    神主

「うずの玉かげ」
             うずは頭に挿して髪飾りにした木の枝や花
             玉かげは「ひかげのかずら」の美称

「見ればともしも」 
         ともし:ゆかしく心惹かれる

これにて式は無事終了。
あとは飲めや歌えやの祝宴。
万葉集でも珍しい祝婚の歌でした。

然しながら、このような仰々しい儀式は貴族など上流階級だけのもの。
では一般庶民はどうだったのでしょうか?
土屋正夫著「検証 万葉びとの暮し」(表現社)によると 

「 当時は母系母権の制で男はまず母親の許しを得る。
  許可が下りれば男は夜々女の家へ通って夫婦生活ができる。

  ところがその前に儀式が行われる。
  何と!
  男と女が睦み合っている現場を両親以下親戚一同踏みこみ、
  二人の仲を公にするというのです。
  これを「トコロアラワシ」と云うそうな。

  それから女の家の餅を食べさせる。
  これらの儀式は男を女の家の一人とみなす呪い(まじない)であって
  現今でいう世間への披露であり、固めの盃に相当するもの。

  このような状態になっても、男は普通、女の家には住まず、
  毎晩通ってきて、婿の世話は一切女の家でする。 」(要約)

何故同居しないのか?
それは、当時の女性は一家の重要な労働力。
男は防人などで何時徴集されるか分からないので、女性を簡単に外へ
出すことが出来なかったのです。

それにしても、お互い抱き合っている最中に親戚一同踏みこむとはねぇ。
いやはや驚きました。

 「 花嫁は こわく うれしく 恥ずかしく 」(江戸川柳 柳多留)



ご参考

冒頭、長歌(巻13-3227) 訳文の原文訓み下し。

「 葦原(あしはら)の 瑞穂の国に 
  手向けすと 天降(あも)りましけむ
  五百万(いほよろづ) 千万神(ちよろづかみ)の
  神代より 言ひ継ぎ来(きた)る

  神(かむ)なびの  みもろの山は
  春されば  春霞立ち  
  秋行けば  紅にほふ

  神なびの  みもろの神の
  帯(お)ばせる 明日香の川の
  水脈(みを)早み  生(む)しためかたき
  石枕 苔むすまでに

  新夜(あらたよ)の  幸く通はむ
  事計(ことはか)り  夢(いめ)に見せこそ
  剣太刀 斎(いは)ひ祭れる
  神にしいませば  」         巻13-3227  作者未詳

一行づつの訓み下し。

「葦原(あしはら)の 瑞穂の国に」
 
    日本国の神話的呼称。

   (天つ神の統治によって五穀が豊かに稔る国の)

「手向けすと 天降(あも)りましけむ」

   ( 手向けするために 天降られた )

「五百万(いほよろづ) 千万神(ちよろづかみ)の」

     ( たくさんの神々の )

  「神代より 言ひ継ぎ来(きた)る」

    ( 悠久の昔から 語り継がれてきた )

 「 神(かむ)なびの  みもろの山は」

    ( 神が降臨している御室(みむろ)の山 :明日香橘寺南東のミハ山)

 「春されば  春霞立ち 」

     (春になると 霞が立ち ) 

  「秋行けば  紅にほふ」

     ( 秋になると  紅葉が照り輝く )

  「神なびの  みもろの神の」

     ( 神々しい 御室の神が )

  「帯(お)ばせる 明日香の川の」

     ( 帯にしている 飛鳥川の :山を取り巻く様子を帯に喩えた)

  「水脈(みを)早み  生(む)しためかたき」

      ( 川の流れが早いので 苔がつきにくい )

  「石枕 苔むすまでに」

      ( ごろごろ並んでいる石に苔生すまで 末永く )

  「新夜(あらたよ)の  幸く通はむ」

      ( 毎日新たにめぐってくる夜を 幸せに通い続けられるような
        :当時は通い婚 )

  「事計(ことはか)り  夢(いめ)に見せこそ」

      ( 神様のお計らいを 夢に見せて下さい )

  「剣太刀 斎(いは)ひ祭れる」

      ( 神祭りの剣太刀を崇め祀るように 身を清めてお祭りしている)

 「 神にしいませば」

       (われらの 神でいらっしゃるからには)  」
    
                                巻13-3227  作者未詳


    万葉集610 (結婚しまーす) 完



       次回の更新は12月16日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2016-12-08 16:18 | 生活

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