万葉集その六百二十 (月夜の梅)

( 月ヶ瀬梅林  奈良 )
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( 同上 )
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( 雪の梅  高千穂神社  佐倉市 )
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( 同上 )
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( 梅燈籠   春日大社  奈良 )
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(  月明り  福王寺 法林   奈良万葉文化館収蔵 )
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(  我が宿の梅   郷倉 和子  同上 )
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昔々、通い婚の時代、男は女の家族が寝静まった頃合いに訪れ、
夜明け前に帰るというのが習いでした。
しかも、月夜が原則。( 中には型破りな男もいましたが-。)
何故なら、漆黒の闇夜は魑魅魍魎の異界で妖怪が出現し危害を加える。
それを月の神様が守ってくれると信じられていたからです。

しかも山道は狭い上、熊や猪が出没し危険がいっぱい。
いくら恋しくてもひと月に僅かしか会うことができません。

女は待ちに待った日が来ると、まず天気を確かめ、今日は月夜だと確信したら
恋人の好きな料理や酒を用意して、今か今かと胸をわくわくさせながら
男の来訪を待っていたのです。

ましてや梅が満開、馥郁と香りを漂わせている季節は、ロマンティックなこと
この上もなし。
煌々と輝く月の光を浴びながら、心ゆくまで睦みあっていたことでしょう。

「 ひさかたの 月夜(つくよ)を清み 梅の花
     心開けて 我が思へる君 」 
                          巻8-1661 紀郎女(小鹿)

( 月夜が清らかなので 梅の花が開くように晴々とした気持ちで
  お慕いしているあなた様を、今か今かとお待ちしております。)
 
梅の初花開く月明かりの夜。
男は必ず来るとわくわくさせながら待つ作者。
待つことに喜びを感じている珍しい歌です。

「 闇ならば うべも来まさじ 梅の花
    咲ける月夜(つくよ)に 出(い)でまさじとや」 
                        巻8-1452 紀郎女(小鹿)

( 闇夜ならばお出でにならないのはごもっともですが、
 月が煌々と輝き、梅の花が満開だというのに お出ましにならないと
 おっしゃるのですか )

作者は大伴家持と親しかった かなり年上の人妻(夫は安貴王)です。

特別な関係ではなく歌のやり取りをして楽しむ知友?で、
戯れて遊びにいらっしゃいと誘っていますが、前の歌と共に
ひよっとしたら本気?と思わせるような詠いぶりです。

「 我がやどに 咲きたる梅を 月夜(つくよ)よみ
    宵々(よひよひ)見せむ  君をこそ待て 」 
                            巻10-2349 作者未詳

( 我が家の庭先に咲いている梅、この梅を月のよいこのごろなので
 夜毎にお見せしたいと思い、あなたをひたすらお待ちいたしておりますのに、
一向にお見えになりませんね。)

梅も良し、月も良し、酒も用意してお持ちしているのに。
待っても待ってもまだ来ない。
「一体どうしたの、あなた」 と気をもむ乙女。

「優しい情緒にあふれた温雅な作、歌品も低くない(佐佐木信綱)」一首。

月夜に梅、眼(まなこ)を閉じると幻想的な光景が浮かんでまいります。

「 誰(た)が園の 梅の花ぞも ひさかたの
        清き月夜(つくよ)に ここだ散りくる 」 
                          巻10-2325 作者未詳

( どこのどなたの園の梅の花だろうか。
清らかに澄みきった月夜に、こんなにもひらひらと散ってくるのは )

月に誘われて外へ出かけた。
煌々と輝く満月。
折から一陣の風が吹き、梅の花びらが、芳しい香りとともに舞い降りてくる。
暗闇の中の雪かと見まがうほどに美しい。
このような見事な花を散らせているのは、一体どなたのお宅なのだろうか?
ひよっとしたら麗人が住んでいるかもしれないなぁ。

次は、我国文藝史上画期的な一首、「雪月花」を詠ったものです。

「 雪の上に 照れる月夜(つくよ)に 梅の花
     折りて贈らむ はしき子もがも 」 
                            巻18-4134 大伴家持

( 雪の上に照り映えている月の美しいこんな夜に梅の花を手折って贈ってやれる
  可愛い娘でもいればなぁ ) 
 
はしき:「愛し」き

雪の白、これを照らす月光、さらに白梅とすべて白一色の美につつまれた
庭を眺めながら美しい女性を心に思い描いており、まさに夢の世界。
家持の美的感覚には驚くべきものがあります。

「 琴詩酒(きししゅ)の友 皆 我を抛(なげう)ち
  雪月花の時 最も君を憶(おも)ふ 」   
                             白居易( 白楽天)
                             (殷協律(いんきょうりつ)に寄す)より

( 琴や詩や酒を楽しんだ友はみな分散して消息も聞かなくなってしまった。
 雪の朝、月の夜、花の時になると君達のことが思い出されてならない)

「雪月花」という言葉は上記の中国の白楽天の詩に見えますが、家持は
 白楽天が生まれる前から「雪月花」に美を見出していたのです。

「 春の夜の 闇はあやなし 梅の花
                 色こそ見えね  香やは隠るる」 
                            詠み人知らず  (古今和歌集)

( 春の夜の闇はわけがわからないことをしているよ。
たしかに真っ暗闇で梅の花の色こそ見えなくなってしまうが、
その素晴らしい香りだけは隠れようもないじゃないか。 )

「夜の闇が意地悪して梅の花を見せまいとしているが、無駄なことだ。
だって香りまで隠しようがないではないか。」
と茶化しています。

因みに 有名な「とらや」の羊羹「夜の梅」はこの歌に由来するそうな。
店の説明書きによると
「 切り口の小豆を夜の闇に咲く梅に見立てて、この菓銘がつけられました。
とらやを代表する小倉羊羹です」とのこと。

       「 しらうめの 枯木に戻る 月夜哉(かな) 」   蕪村

以下は長谷川櫂氏の解説です。

「 花盛りの白梅が月の光を浴びている。
  その白い花がことごとく月光に消えうせ、花が咲く前の枯木に
  戻ってしまったかのように見えるというのだ。
  目の前にあるのは満開の白梅であるのに、月光の作用によって枯木に見える。
  その妖(あや)しさ、鋭利にして濃厚な凄味がある」

                                  (花の歳時記 ちくま新書)


                万葉集620 月夜の梅 完



                次回の更新は2月24日の予定です。
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by uqrx74fd | 2017-02-16 17:46 | 植物

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