万葉集その六百二十一 ( ノックが合図よ )

( 東国の村 6世紀中頃  国立歴史民俗博物館 )
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( 東国豪族の館   同上 )
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( 平城京庶民の住宅  同上 )
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( 房総の村  千葉県 )
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( 古い町並み:民家  五条  奈良 )
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(  酒屋  同上 )
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( 床屋  奈良 今井町 )
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( 酒屋   同上 )
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( 郵便局   同上 )
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( 薬屋   奈良町 )
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 昔、通い婚の時代、男は夜が更けてから月の光をたよりに女の許に行き
家族が寝静まった頃合いを見て家に忍び入りました。
勿論、女の家は用心の為入口には閂(かんぬき)が掛けられていたのでしょうが、
お互いに予め合図を決めておき本人を確認してから家に招きいれたのです
広い家ならまだしも1間しかない部屋で雑魚寝している時は
どうしていたのでしょうかね。
夏なら外でということもありましょうが、寒い冬は藁のある物置小屋へ
行ったかもしれません。

 それはともかく、次の歌は女が男を招き入れる時の合図の打ち合わせです。

「 奥山の 真木(まき)の板戸を とどと押(し)て
     我が開かむに 入り来て寝(な)さね 」 
                    巻14-3467 作者未詳

( 奥山に茂る真木で作った板戸、この板戸を私が軽くたたいて
  ごとごと押して開けたなら、さっと中に入ってきて、一緒に寝てね。)

「とどと」は翻訳不可能ですが、強いて言えば「トントン」か。

 男は「何日何時頃行くよと」予め連絡し、そのころ外で待機している。
 女は家族が寝静まったのを確認し、トントンと戸を叩いて合図しながら
 そっと戸を開け、招き入れる。

「真木の板戸」は立派な木で作られた板戸、恐らく檜や杉などで
作られていたのでしょうから、かなり大きな家だったのでしょう。
照明もなく真っ暗な家の中を、そろりそろりと通り、女の部屋へ。
あとは久しぶりの逢瀬を堪能し、家族が目覚める前に男は家を出て帰る。

このように上手くいかない場合もありました。

「 奥山の 真木の板戸を 押し開き
   しゑや出(い)で来(こ)ね 後(のち)は何せむ 」 
                               巻11-2519 作者未詳

( こんな奥山の真木の板戸なんか、どんと押し開けて、もういい加減に
 出てきてくれよ。 
 ええーい、あとはどうなったってかまうものか。)

どうやら合図が通じなかったみたいです。
いくら待っても戸が開きません。
とうとう「シエー」という言葉が出てきました。

1300年後、漫画家、赤塚不二夫が多用した「おそまつ君」の決まり文句。
調べて見たら、同氏は漫画「万葉集」を書いており、そこに「シエー」という言葉が
使われていました。
                    ( 赤塚不二夫の漫画古典入門  万葉集 学研 p121)

さて、呼べども門は開かれず。
男はとうとう諦めて外で寝てしまいました。

「 奥山の 真木の板戸を 音早み
    妹があたりの 霜の上に寝ぬ 」 
                     巻11-2616 作者未詳

( あの子の家の真木の板戸は 激しい音をたててきしむので、
 開けるに開けられず、とうとう近くの霜の上で寝てしまったよ。)

合図なしで戸を開けようとしたのか、約束の日を勘違いしたのか。
中から戸が開かないので、閂が掛かっていないのを幸い、戸を開けようとした。
ところが立てつけが悪かったのか、引けども動きません。
無理に開けようとしたら「ギシギシ」と大きな音が鳴る。
これ以上大きな音をたてると「家族が目を覚ます」 と躊躇する。
女がなんとか出てきてくれないかと、じっと外で立ち尽くす。
何時まで待っても、反応なし。

寒い中、諦めてさっさと帰ればよいものを、ひよっとしたらと思いつつ
とうとうウトウトしてしまった。
なんとも面白味とペーソスを感じさせる歌です。

「 こなた思へば 千里も1里 
    逢わず戻れば 1里が千里 」   (山城国歌)


「よばい」という言葉があり、「夜這い」即ち「夜、恋人のもとへ忍んで行く」
あるいは「寝とりたい相手の寝所へ忍び入る」という良からぬ連想をさせるものして
用いられています。
しかしながら、その原義は「相手を呼び続ける」という意の「呼ばふ」が
「呼ばひ」に変化したもので、万葉仮名では「よばひ」に「結婚」という字が
当てられている例があり「呼び続ける」意の中に「求婚する」という気持が
含まれていることが窺われます。

「 こもりくの 泊瀬(はつせ)の国に 
  さよばひに(左結婚丹)  我(わ)が来(きた)れば
  たな曇り 雪は降り来(く)  さ曇り 雨は降り来(く)
  野(の)つ鳥 雉(きぎし)は響(とよ)む   家つ鳥 鶏(かけ)も鳴く
  さ夜は明け この夜は明けぬ   
  入りてかつ寝む この戸開かせ 」
                     巻13-3310  作者未詳

( 山々の奥深いこの初瀬の国に 妻どいにやってくると
 急に曇って雪が降ってくるし さらに雨も降ってきた。
 野の鳥、雉は鳴き騒ぎ  家の鳥、鶏も鳴き立てる。
 夜は白みはじめ とうとう夜が明けてしまった。
 だけど中に入って寝るだけは寝よう。 
 さぁ、戸を開けてくだされ。 )

初瀬(奈良桜井市)は古来特別な聖地とされ国とよばれていました。
遠方から妻問いに来た男が途中悪天気に遭遇し、雪を避け雨がやむのを
待っているうちに空が白みはじめた。
妻問いは月が出ている夜に訪れ、明け方の暗いうちに帰るというのが
当時の暗黙のルール。
男はそのルールに反して強引に迫ったのです。

「 隣から 戸をたたかれる 新所帯 」 (江戸川柳 柳墫)

( 新婚早々、派手な夫婦の睦事。
 うるさいと隣の家から戸をたたく。
 長屋での生活だったのでしょう。)




       万葉集621(ノックが合図よ ) 完

      次回の更新は3月3日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2017-02-23 19:56 | 生活

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