<   2016年 12月 ( 5 )   > この月の画像一覧

万葉集遊楽掲載作品項目別分類表

万葉集遊楽 掲載作品項目別分類表    
                  (番号は掲載番号)

①自然を詠う

   1.日本の美しさ  7.初夏の風と香り   8.天の海
   18.秋の風吹く   19.立てる白雲     29. 月の桂
   35.十二月(しはす)  39.富士       43.立春

   47.東風吹く    49.雪解け       53.国のはたてに
   67.鳴神       71. 夕立      72.虹

   73.潮騒       74. 秋風      75.仲秋の名月
   80.浜の真砂     81.豊旗雲      85.時雨
   100.雪月花     117.立山   121.よせる波 かえす波

   122.星の祭典    123.雲三態      126.風立ちぬ
   129.花野      133.後の月    136.木綿の山

   144.松風      146.安達太良山  149.氷から薄氷へ
   152.淡雪春の雪   157.花吹雪    161.みどり
   165.こだま、山彦  170.夏野     171.山清水

   172.夏山      174.夏影     199.冬籠り春さりくれば
   205.春雨   211.たたなづく青垣  217.泉、清水
   223.山川   224.海山は死にますか   226.弓張月

   228.瀧もとどろに  251.万葉の立山は剣岳か
   259.時は今・春   268.光いろいろ
   277.立つ波、騒く波   279.初秋風

   296.神風  302.冬野、冬木立  303.武蔵野
   310.象山:きさやま   344.夕影

   364. 川の音    392. 飛鳥川
   393. 春日山    405. 富士山

   417.うち靡く春    451.朝霧 山霧
   452.山粧う       468. 春霞

   493.月読み:つくよみ    499.白露
   501. 山 色づきぬ      505. 泊瀬川

   506.吉城川      508.松原
   515. 宇治川     545.草の露白し

   552.秋の夜半     559.光と影
   564. み雪降りたり   571.霞立つ春

   584.雲流れゆく     588. 浜辺の歌
   590. 青雲・白雲     594. 海神:わたつみ

   597.松籟、爽籟、秋の風    605. 雲によせて
   607. 十月時雨          608  朝露

   617.落葉道とカワセミ       618.三日月

② 植物 

   3.花のメドレー   14.さ百合にかける恋   22.秋の香
   25. 秋の七草   26.いちし   30. 薔薇:うまら
   31. もみじ   38.ゆずるは   40.芹:春の七草

   44. 翁草   45. 梅は母の木   46.つらつら椿
   48. 柳は緑   50. 桃李    51.さわらび

   52. 花は櫻木    55. すみれ摘み  56.馬酔木
   60.うつぎ:卯の花 62藤は日本酒がお好き 63.あじさい
   65. 合歓の花    68. 紅       69.浜木綿

   77. 撫子      83. 紅葉狩     90.ほよ:宿り木
   94. あをな     103. 梅から櫻へ  104.堅香子の花

   108. 菖蒲      109. つつじ    110. かきつばた
   111.麦の秋      113. 朴      115.カサブランカ
   116.じゅんさい    118. 蓮      119.麻

   120.つきくさ     131.花妻      135.韓藍
   153.川楊       155. 三枝      158.山吹の花

   162.黄楊の櫛     167.花橘      168. 苔
   169.ぬばたま     175.桃       176.荻(オギ)の風
   177.おみなへし   178.萩      181.葛 
      
   183.粟(あわ)   184.栗     185.葦       202.梅の香り 
   203.椿は照葉樹林の代表     208.馬酔木は神と聖女の花

   209.すみれの花さく頃  216. 棟(あふち)  218. 梅の実、梅干
   221.紅花    225.萓草:カンゾウ=忘れ草   227.桔梗(キキョウ)
   234.芋:うも   235.かえで  238.百代草は菊?
 
   240.杉のいろいろ    245.檜:ひのき     248.松と門松
   253.栲:たく=楮:こうぞ  255.つらつら椿つらつらに
   264.蓬(よもぎ)    267.エゴの花   269.橘の花


   281.かほばな=昼顔   283.粟は五穀の王
   284.むろの木=ネズ   287.木綿(ゆふ)
   290. 梨        291. ちちの木は銀杏

   294・葎:むぐら   298.竹のいろいろ  
   305.探梅     307.つぎね: ヒトリシズカ
   309.はねず:ニワウメ  313.つまま=タブの木

   314.茜(あかね)  315.紫草:ムラサキ
   317.竹の秋    321.槻:ツキ=ケヤキ

   323.若布:わかめ   326.なのりそ=ホンダワラ
   327.豆色々      330. かずらかげ=ヒカゲノカズラ

   334. さ百合      335.柘(つみ)=山桑
   339.橡: つるばみ    340. まゆみ

   343.思ひ草=ナンバンギセル  347.榛;はり=ハンノキ
   351.うけら=おけら     354.笹

   356.山橘=藪柑子    358.山菅=龍の髭
   360. 山たづ=ニワトコ   362.梅と蘭

   366.桜と蘭蕙     367.枳殻:カラタチ
   370.岩つつじ     371.白つつじ

   372.藤      373.藤波
   381、 山ぢさ=岩タバコ 389. なでしこ=常夏

   390.土針=メハジキ   396.藤袴
   397.秋萩          398.芒:ススキ

   402.葛いろいろ    406.杉の文化
   408.苔むす      414. 雪中梅

   415.梅を訪ねて:曽我梅林   420.カタクリの花
   422..馬酔木の花        423..山吹
   
   427.菖蒲と杜若     428. 蓴菜の花咲く
   429.あさざ        430.紅花栄う

   434.ねむの木      437.クソカズラ
   441. 露草        442. 秋の七草 2.

   443. 韮(ニラ)      447. 曼珠沙華
   449. 水葱(なぎ)     459. 松は緑

   460. 結び松      461.梅の初花
   463. 寒梅        464. 恋の松

   469.三椏(みつまた)   471.すみれ
   479.卯の花         481. 紫陽花いろいろ

   482.茅:チガヤ    483.古代蓮
   489.檜扇:ひおうぎ    494.女郎花

   497. 野辺の秋萩      498.瓜:うり
   511. 橘いろいろ     513.茜(あかね)さす

   514.初梅      518.ネコヤナギ
   520. 春柳     525. 散る桜

   529.山吹いろいろ     532.豆の花咲く
   533.杜若。燕子花?    537.合歓の花咲く社

   539.河原撫子        540.檜扇 今盛りなり
   541.朝顔、昼顔、夕顔   542. 葵

   543.ノキシノブ     547.山藍:やまあい
   548. にこ草       551.芝草

   554  黄葉        555.尾花
   560. 十両:ヤブコウジ   562.玉箒(たまばはき)

   566.玉藻と海苔       568.梅いろいろ
   570. 春菜美味し      574. 虫麻呂の桜

   575.瀬戸の縄海苔     577.竹は木か草か?
   579.春の萩と藤       586.小楢:こなら

   592.麻いろいろ1      593. 麻いろいろ2
   596.姫押:をみなへし    603. さねかずら

   604. 真弓        606. アケビ
   609. 欅:けやき     612. 梓:あずさ

   615. 梅よ春よ      616.梅.椿.寒桜
   620. 月夜の梅      624.柳の道

   627. 桜の歌       628. あだ桜
   629. 八重桜

 ③ 動物 

   4.初夏の鳥      20.ひぐらし     21.河鹿
   23.虫のシンフォニー  27. 雁が音    28.やたがらす
   33.鹿鳴く       42.夜の鶴     54.櫻鯛

   57.飛燕        58.鵜飼      59.ホトトギス
   64.鮎子さ走る     66.磯の鮑の片思い 70.蝉時雨
   78.鱸(すずき)     79.蜻蛉      86.夕波千鳥

   88.都鳥        93.勇魚(鯨)    95.庭つ鳥
   97.初音        99.鷲と鷹     105.蜆
   106.蚕飼ひ      112.かほどり(貌鳥)    114.蛍

   130.天高く馬肥ゆる  134.こほろぎ    142.鶴鳴きわたる
   145.鴛鴦       147.荒熊      148.鮪(シビ)
   156.鮒        160.蜷(ミナ)     163. 雲雀

   189.鴫(シギ)   191.白鷺の力士舞  200.龍馬(想像上の動物)
   214.孤愁の鳥:ホトトギス    222. ムササビ  233.愛犬
   239.馬の涙    242.貝の色々   246.虎

   249.氷魚(ひを)  252. 鶯     258.鶚:みさご
   266.初鰹    276.鰻の祖先は深海魚
   295.鶉:うずら  297.鵲(カササギ)の渡せる橋

   299.兎   306.鷹    308.雉:きぎす
   324.しただみのレシピ    325.鮎
   352.鶴の舞     353.亀鳴く

   355.鴨      361. 猿
   368.谷ぐく=ヒキガエル   391.「べこ」は「ムゥ」と鳴く

   394. 恋する鹿     456.馬と駒
   457.新年 馬の歌     465. 鶯鳴くも

   476.桃、藤、ホトトギス   480.年魚:あゆ
   495.こほろぎ鳴くも      519. 狐

   622. 千鳥          623.ちんちん千鳥



④ 心象を詠う

   2.万葉老人乙女を口説く    6.万葉恋の面白歌 
   11.聖徳太子とマザーテレサ   15. 海ゆかば
   32.部下の恋狂い        34.好きなのはあなただけ

   84.後朝(きぬぎぬ)  87.モーツアルトのト短調は万葉のかなし
   91.王者の求婚         96.女が男を誘う時

   101.名を立てる        102.月は上がりぬ
   125.人妻           138. 玉響(たまゆら)
   139 巌            141. たまきはる

   151.源実朝          164. さらさら
   179.恋は秘密に        180.いさよふ

   193.強きものその名は-    194.ますらを
   197.万葉翡翠 1       198.万葉翡翠 2
   201 君が代のルーツ      204 空騒ぎ

   206.千の風になって      207 にほふ
   230.夢で逢いましょう      231.たわやめ
   254.荒ぶる    256.ふふむ

   263.面影  272.但馬皇女;不滅の恋
   286.天皇のよばひ  293.とかくに人の世は
   300.やまと、倭、日本  316.あかねさす紫野

   320.磐姫皇后の謎  322.浦島伝説
   331.きけ わだつみのこえ   332.夏の夜の夢

   337. 朝影    346. 筑波山に登る
   350. もののあはれ   369. つつじ花 にほえ乙女

   424.藤の恋歌     436.はまゆふ 人麻呂恋歌
   438.家持の百合と撫子   462.我が心焼く

   510.我が心は燃ゆる富士    522.恋桜
   549. 野の花 恋の花      550.稲によせる恋

   553. 秋の恋歌    557.君という言葉
   572. 春の恋歌:相聞   573.恋のおもしろ歌 2

   578.夏の恋歌1.    580.老いらくの恋 1
   581.. 老いらくの恋 2      583.常滑:とこなめ

   587. 飛鳥慕情      589.夏の恋歌2.
   595. 萩の恋歌      601. 秋の恋歌2.

   602. 秋の恋歌3.

⑤ 人と生活 

5.万葉人はお酒がお好き    9.ぼやきの一つも言いたくなるさ
10.すまじきものは宮仕え   12.万葉人は掛け算がお得意
13.七夕祭り         16. 鰻めしませ

17.良寛の歌の手本は万葉集  24. 漱石の草枕
36.歌垣           37.駅伝

41.バックギャモン      61.時の記念日
76.天覧相撲         82.一夜妻
89.商売のはじまり「市」   92.野焼き山焼き

98.綿の衣          107. 田植
124.雨乞いの歌       127. 稲刈り

128.信濃路         132. 酒を醸む
137.新嘗祭         140. 鎌倉
143.新年の歌        150.現人神の登場

154.藻塩焼く        159.千曲川
166.絵を描く万葉人     173.古代の船

182.遊行女婦        186.対馬
187.埴生の宿        188.秋の夜長
190.嘆きの霧        192.百人一首の「これはこの」

195.雪が降る        196.若菜摘み
210.結ぶ           212.住吉の神様は現人神

213. お母さん        215. 隼人
219.  植樹          220.娘の結婚  

232.美女と僧侶    237.倭琴(やまとごと)
241.いい湯だなぁ!  243.高いなぁ!税金

247.若水    250.橘 曙覧
257. 天平のマリリン・モンロー  261.夜桜

270.とき   273.真珠は六月の誕生石
275.万葉仮名の謎(義之。大王)  278.天の川ロマンス

280.防人(さきもり)  285.平城遷都
288.澪標(みをつくし)  289.しがらみ   

292、山越え:生駒と龍田     301、大仏開眼   
311.鎮魂     312.関:せき

318.よき人よく見  319.桐の琴をお贈りします
333.薬の神様    338.花嫁の父

345.御蓋山 :みかさやま  348. 采女
349. 年内立春     357.乞食人(ほかひひと)の歌:鹿

359. 雪の梅    363. 祈りと供花    
365.春の夜の夢   386.大和三山妻争い

395. 白毫寺と志貴皇子   400.藤原鎌足
403.華麗なる送別の辞    404. 宇智の大野

407.東人の富士    410.早春の火祭り
412.孝謙女帝      416. 梅の里

425.藤衣    431.長屋王   432.長屋王2
433. 商い 返品あり    435. 天の川

448.大伴旅人の萩    450.万葉のオフィーリア
453.秋田刈る       454.秋山我れは

455.鏡王女       458.春菜摘む
467. 酒ほがひ     470. あをによし 奈良

472.桜、すみれ、乙女   474.恭仁京(くにきょう)
475. 荒れたる都      477.能登の国の歌:酒屋

478.能登の国の歌2    484.天の川伝説
485.月夜の船出       488. 憶良の天の川

490. 住吉  500.遣唐使と鑑真
502. 熟田津の船乗り   503.晩年の額田王

507.万葉イルミ      509.新しき年
517. 人麻呂歌塚     521. 花咲かば

526. 藤原広嗣の恋桜   528.湖上の藤見
530. 大津皇子 1       531. 大津皇子 2

534.ゆり祭り     535.紅の衣
536.雨に唄えば    544.滝のほとりで

546.故郷:ふるさと   558.万葉人のトイレ
561.新年の歌:申    563.鷹狩

565.おもてなし     567.光明皇后
569.梅愛づる人     576.常盤

591. 家持の百合と撫子   598. 萩の遊び
599. 実りの秋         600. 藤原京

610. 結婚しまーす      611.橘諸兄邸の宴
613. 新年の歌:酉      614. 春菜摘む乙女

619. 眉美人         621. ノックが合図よ
625. 剣太刀         630. 曲水の宴

⑥ 万葉の旅

229.敏馬(みぬめ:清き浜辺)   236.斑鳩(いかるが)散歩 
244.香椎潟(かしひがた)    260.佐保路、佐保姫   

262.弥彦山(やひこさん)   265.鞆の浦
271.吉備の国    274.六義園は紀の国の箱庭

282.明石海峡   304.国栖の里 
328.夏美=菜摘の里  329. 伊香保

336.高円山   341.歌姫街道 
342. 明日香:南淵山   374. こもりくの泊瀬
 
375. 明日香:橘の寺   376.山辺の道(海石榴市:つばいち)
377. 山の辺の道: 敷島の大和  378.山の辺の道:三輪山

379. 山の辺の道 檜原へ   380.山辺の道 :巻向、穴師
382. 室生の里          383.明日香:川原寺、飛鳥寺

384. 明日香:甘橿の丘から   385.明日香:剣池
387. 吉野紀行1:吉野山奥千本へ   388.吉野紀行2.

399.聖林寺から多武峰へ     401.馬来田:まくた
409.巨椋池              411. 菅原の里

413.哭沢の杜      418.五條
418.天の香具山     421. 万葉花紀行

426.石上神宮       439.生駒山
440. 生駒山:暗峠    444. 葛城古道:高天原

445. 葛城古道:朝妻    446.葛城山春秋
466. 梅紀行:山の辺の道  473.雲梯の杜

486.真土山:まつちやま   487.雷丘:いかずちのおか
491. 夢のわだ         492.秋津

496.秋の明日香路     504.巨勢路
512. 有馬          516.墨坂

523.花紀行 (曽我川、藤原京跡 )   524. 奈良の飛鳥散歩
527. 長谷路            538. 鎌倉花散歩

556.我が心の佐保       582.風薫る道
585.東御苑花散歩       625. 早春の奈良
 










  
[PR]

by uqrx74fd | 2016-12-31 23:45 | 掲載作品項目別分類表

万葉集その六百十二 ( 梓:あずさ )

( 梓 現代名 水芽:ミズメ  赤塚植物園  東京 )
b0162728_1735864.jpg

( 同上 )
b0162728_17345329.jpg

( 梓の紅葉  同上 )
b0162728_1734375.jpg

( 梓弓複製  東京国立博物館 )
b0162728_17341193.jpg

(  古代の弓猟   橿原考古学研究所  奈良)
b0162728_1734093.jpg

(  埴輪 弓を持つ男   同上 )
b0162728_17334825.jpg

(  縄文晩期の弓  同上 )
b0162728_17333540.jpg

(  縄文晩期の矢のひじり  同上 )
b0162728_17332029.jpg

( 弥生前期の弓  同上 )
b0162728_1733315.jpg

(  同 復元された矢   同上 )
b0162728_1732424.jpg

梓(あずさ)はカバノキ科の落葉高木で本州岩手県以南、鹿児島県以北に
分布する我国固有の植物です。
山地に自生し高さ15~20m、幹の直径は30~70㎝、桜に似た横長の
皮目があります。
秋の葉の彩りが美しいため庭木でも栽培され、現代名は「水芽(ミズメ)」。
樹皮に傷を付けると樹液が水のように流れるのでその名があり、
枝を折るとサロメチールのような匂いがツンと鼻を刺激します。

古くは弓材、器具,家具などに用いられ、奈良時代の梓弓が正倉院に、
複製が東京国立博物館に収蔵されており素朴な面影を伝えてくれています。

万葉集での梓は50首。
植物そのものを詠ったものはなく、ほとんどが枕詞としての梓弓、
しかも恋歌です。

「 梓弓 末(すゑ)の はら野に 鳥狩(とがり)する
    君が弓弦の 絶えむと思へや 」 
                          巻11-2638 作者未詳

( 末の原野で鷹狩をする我が君の弓弦が切れることがないように
 わたしたち二人の仲が切れるなど、とても思えません )

末の原野の「末」は大阪府南部の和泉の陶邑(すえむら)とする説が
ありますが、詳細は不明。
鷹狩をする男は地方の豪族の若君でしょうか?
相思相愛と信じていても内心不安な女性です。

「 梓弓 引きてゆるさず あらませば
   かかる恋には あはざらましを 」 
                      巻11-2505 作者未詳

( 梓弓を引きしぼって緩めないように、心を許しさえしなかったら
 こんなに切ない恋に出くわさずにすんだのに )

相手は身分が違う、あるいは他に恋人がいる男か。
決して愛すまいと心に固く誓ったのに。
ついつい誘惑され体を許してしまい好きになってしまった。
どうしょう、私。

「 引きてゆるさず 」:「相手に気をゆるさない」(隙をみせない)

「 梓弓 引きて緩へぬ ますらをや
    恋といふものを 忍びかねてむ  」 
                       12-2987 作者未詳

( 梓弓を引き絞って緩めることがない、張りつめた心の堂々たる大丈夫。
 そんな男たるものでも恋と云うやつにかかっては
こらえきれないものなのか )

こちらは自ら「ますらを」と自負する男。

「恋など決してするものか」と広言したが、突如目の前に現れた美女にメロメロ。
 人様が何といおうがもう知るか! と見栄も外聞もかなぐり捨てた。

「 いまさらに 何をか思はむ 梓弓
    引きみ緩へみ 寄りにしものを 」 
                         巻12-2989 作者未詳

( 今さら何を思い悩もうか。
  梓弓を引いたり緩めたりするように、あれこれ思案した挙句に
  あの方に心を寄せてしまったの。)

こちらは女。
覚悟を決めた。
もう迷わない、あの人一筋に愛そう。

「 かくだにも 我(あ)れは恋ひなむ 玉梓(たまづさ)の
    君が使(つかひ)を 待ちやかねてむ 」 
                         巻11-2548 作者未詳

(これほどまでに切ない気持ち。
これからもずっと私はあの方を恋い慕っていくことでありましょう。
しかし、それにしても、あの方の言伝ての使いすら待ちかねて
我慢できないのです。 )

玉梓は美称の玉+梓。 
古代、男女の逢い引きの連絡は使い人が受け持っていました。
正式な使いの目印として梓の枝を折り、そこに文や歌を付けたのです。
そのようなことから玉梓(たまづさ)という言葉が生まれ、使いに掛かる
枕詞になっています。

玉梓は万葉で7例見え、平安時代になると消息、手紙の意味に変わります。

梓は古来、霊力や呪力がある木とされていました。
弓材に使われたのも、木の質が固いという事だけではなく、呪力があると
信じられていたためです。
信濃国が産地として知られ、続日本紀によると、文武天皇大宝2年、1020張が
大宰府の用に、さらに甲斐の国からも500張献上されたそうです。

梓はその後、版木としても用いられ、このことから、
書物の出版を「上梓(じょうし)」と云うようになったそうな。

「 おく山に 未だ残れる 一むらの
              梓の紅葉 雲に匂へり 」     伊藤左千夫


        万葉集612 (梓:あずさ) 完



       次回の更新は1月1日(日)の予定です
[PR]

by uqrx74fd | 2016-12-22 17:38 | 植物

万葉集その六百十一 (橘諸兄邸の宴)

( 橘諸兄 前賢故実:江戸~明治時代に刊行された伝記集 菊池容斉筆 )
b0162728_5545063.jpg

(  赤塚不二夫の万葉集  学研 )   画面をクリックすると拡大できます
b0162728_5543541.jpg

( あたしたちの古典 万葉集  学校図書 )
b0162728_5541978.jpg

( 橘の花  山の辺の道  奈良 )
b0162728_554264.jpg

( 橘の小さな実  同上 )
b0162728_553407.jpg

( 右近の橘  興福寺南円堂前  奈良 )
b0162728_5532547.jpg

( 春日大社若宮   奈良 )
b0162728_553395.jpg

( 橘諸兄が愛した山吹  山辺の道 奈良 )
b0162728_5523952.jpg


天平の頃 左大臣 橘 諸兄(もろえ)は山城の国,井手の里、玉川のほとりに
山荘を営み、遣水した庭園を中心に山吹を植え、川の両岸を埋め尽くしたそうです。
740年、その見事さを耳にした聖武天皇がわざわざ行幸されたことにより、
天下に喧伝され「井手の玉川」は山吹の名所として詩歌に数えきれないほど
詠われるようになります。

それから12年後の752年、退位された聖武太上天皇は井手の橘諸兄宅へ
再び行幸され、肆宴(とよのあかり)を催されました。
肆宴とは天皇、上皇が催す酒宴のことですが、臣下の屋敷を訪問されて
一席を設けるというのは破格のこと。
長年の忠誠に対する労をねぎらわれたものと思われます。

出席者は上皇を入れて4人。
気心が知れた人ばかりの内々の酒席です。
時は12月中旬、まだ晩秋の気配が漂う時期。
美酒と松茸、桃、栗、梨、山海の珍味がふんだんに供され、
選りすぐりの美女が大勢侍(はべ)って座をとりもったことでしょう。
かた苦しい宮中では味わえない雰囲気、上機嫌の上皇はまず挨拶歌を
詠われます。

「 よそのみに 見ればありしを 今日(けふ)見ては
    年に忘れず 思ほえむかも 」  
                        巻19-4269 太上天皇(聖武)

( 外ながら見るだけであった以前ならともかく、今日こうして見たからには
 もう毎年忘れずに思いだされることであろうな )

12年前の行幸は山吹見物だけだったのでしょうか。
ようやく邸(やしき)を訪れることができたと詠われています。
続いて恐縮した橘諸兄のお迎えの歌。

「 葎(むぐら)延(は)ふ 賤(いや)しきやども 大君の
    座(ま)さむと知らば  玉敷かましを 」 
                                巻19-4270 橘諸兄

( 葎の生い茂るむさくるしい我家、こんなところに大君がお出ましいただけると
 存じておりましたら、前もって玉を敷きつめておくのでしたのに )

勿論、事前にお達しがあったでしょうが、謙遜しながらの感謝と歓迎の辞。

「 松陰の 清き浜辺(はまへ)に 玉敷かば
    君来まさむか  清き浜辺に 」 
                      巻19-4271 藤原八束

( このお庭の松の木陰の清らかな浜辺に、玉を敷いてお待ちしたなら
 大君はまたお出まし下さるでしょうか。
 この清き浜辺に )

庭の砂、松の木、借景の川を海に見たて、松に待つの意を響かせ、
再度の行幸を願っています。
作者と諸兄は伯父、甥の関係。
家持とも親しい間柄です

「 天地に 足(た)らはし照りて 我が大君
     敷きませばかも 楽しき小里(をさと) 」 
                    巻19-4272 大伴家持

( 天地にあまねく照り輝いておられるわが大君。
その大君が国をお治めになっておられますゆえ、
この里も楽しくてしかたがない所でございます。)

橘邸周囲全体が楽しく、賑わっていると太上天皇の治世をたたえたもの。
もっともこの歌は予め用意したが披露されなかったとの注記があります。
席が盛り上がっている最中の結びの歌だけに、出しそびれたのかもしれません。

さて、聖武天皇の寵臣、橘諸兄とはどういう人物だったのでしょうか?

諸兄は敏達天皇の後裔で父は大宰府帥、美努王(みぬのおほきみ)、母は縣犬養三千代。
三千代は後に藤原不比等に嫁し、光明皇后を生む。
従って光明皇后は諸兄の異父妹という間柄。
元々は王族で、葛城王と称していましたが自ら臣籍降下を請い、
許されて母の姓、橘を名のりました。

737年天然痘の流行によって朝廷の中枢、藤原4兄弟が病死したことにより
一躍、右大臣に任じられて国政の中心になり、吉備真備、玄昉をブレーンとして
聖武天皇を終生補佐し続けます。

然しながら孝謙天皇が即位すると、藤原仲麻呂の発言力が強大になり、
755年酒席で不敬の言ありと讒言され、756年、辞職を申し出て引退。
強力な支持者を失った大伴家は諸兄の政敵仲麻呂に疎まれ次第に衰退し、
遂に因幡、多賀城へ左遷されました。

この聖武太上天皇による宴の時期が、橘諸兄、大伴家持の絶頂期で
あったと言えましょう。

「 橘と 家持編(あ)みし よろづ葉の歌 」 筆者

特筆されることは、橘諸兄は万葉集1~2巻の編者とも推定され、
その後を家持に託したことです。
引き継がれた万葉集の編纂は、多くの人たちの超人的な努力、協力により、
遂に20巻4516首をもって完結します。
天皇から庶民、老若男女を網羅する歌集は世界でも類がなく、
我国文学界に燦然たる光を放ち、いまなお褪せることなく輝き続けているのです。

「 家橘(いえきつ)が 植えし万葉 年を経て
     日本(やまと)の大樹に なりにけるかも 」 筆者


        万葉集611 (橘諸兄邸の宴) 完



        次回の更新は12月23日(金)の予定です。
[PR]

by uqrx74fd | 2016-12-16 05:57 | 生活

万葉集その六百十 (結婚 しまーす)

( 朝の神事   橿原神宮  奈良 )
b0162728_1682594.jpg

( 同上  巫女の舞が美しい  同上 )
b0162728_1681193.jpg

( 同上 )
b0162728_1675627.jpg

( 古式豊かな結婚式   春日大社  奈良 )
b0162728_1674333.jpg

(  住吉大社  大阪 )
b0162728_1672726.jpg

( 嫁入り船  潮来  茨城 )
b0162728_1671055.jpg

(  八坂神社  京都 )
b0162728_1665088.jpg

( 新郎新婦のお練り   鶴岡八幡宮  鎌倉 )
b0162728_166345.jpg

( 同上 )
b0162728_1661585.jpg

( 笙の演奏とともに  同上 )
b0162728_1655675.jpg

(  同上 )
b0162728_1653960.jpg

(  花嫁切手 )
b0162728_1652317.jpg

昔々、飛鳥に都があった頃、上流階級とおぼしき一組の結婚式が行われました。
結婚後も男が妻の元に通う習慣の時代ですが、ともかくも親や周囲の人たちに
認知されれば堂々と出入りでき、噂を気にすることもなくなります。

喜び勇んで式に臨んだ新郎新婦。
場所は飛鳥、橘寺南東に位置する聖なるミハ山の麓です。
いよいよ式が始まり、まずは主賓の挨拶。
神に奉げる祝詞(のりと)のような調べで厳かに詠みあげられていきます。

先ずは超訳から。(原文訓み下しは末尾ご参考をご覧ください)

「 多くの神々が天降られて崇められている瑞穂の国の聖なるミハ山は、
 神代の昔から高天原にいます天つ神を祀るこの上もなく尊き山。

 春が来ると霞が立ち 秋になると紅葉が照り輝くさまは
 賑々しく栄えているわが国土を象徴しているようである。

 この聖なる山の周囲を取り巻くように
 明日香の川の清き流れが国を潤している。

 流れが早いので、苔が付きにくいにもかかわらず悠久の時が経過すると
 石に苔生し、鮮やかに映えている。

 神様、どうかこの二人が苔生すほど幾久しく
 来る夜も来る夜も幸せに仲睦まじく過ごせるようお取り計らい下さい。
 そして、そのことを夢にお示し下さい。
 そのために我々は精進潔斎して一心不乱にお祈りさせて戴きます。
 我らの神よ。 」             (巻13-3227 作者未詳)

山川を対比させて国土豊穣を神に感謝した後、苔むすほどに何時いつまでもと
最終部の本題に導く挨拶歌です。

続いては新郎の誓いの言葉。

「 神なびの みもろの山に 斎(いは)ふ杉
     思ひ過ぎめや 苔むすまでに 」 
                            巻13-3228 作者未詳

( 神が住むというミハ山。
      私は身を慎んで境内の御神木である杉を崇め奉っています。
      その杉ではありませんが、これから先、苔がむすほどに長い時が経とうとも
      私の愛情が消え失せるなどということは絶対にありません。 神に誓って! )

「みもろ」は「神が籠るところ」で、奈良県櫻井市ミハ山。
「思ひ過ぎ」:思いが過ぎる→愛情が消え失せるの意で「過ぎ」に「杉」を掛ける 

神、山、杉、苔と祝宴にふさわしい言葉が並び、
厳粛な式の様子が偲ばれる歌です。

続いて一同和して声高らかに詠います。

「 斎串(いぐし)立て 御瓶(みわ)据(す)ゑ奉(まつ)る 祝部(はふりへ)が
     うずの玉かげ  見ればともしも 」 
                                巻13-3229 作者未詳

( 玉串を立て 神酒の甕(かめ)を据えてお供えしている
     神主たちの 髪飾りのひかげのかずら。
     そのかずらを見ると まことにゆかしく思われます。)

「 斎串(いぐし)」
             神前に立てる聖なる串 串は木の枝や竹などで神を招き降ろすもの

「 御瓶(みわ)据(す)ゑ奉(まつ)る」

             酒甕をすえて供え祀る

「祝部(はふりへ)」    神主

「うずの玉かげ」
             うずは頭に挿して髪飾りにした木の枝や花
             玉かげは「ひかげのかずら」の美称

「見ればともしも」 
         ともし:ゆかしく心惹かれる

これにて式は無事終了。
あとは飲めや歌えやの祝宴。
万葉集でも珍しい祝婚の歌でした。

然しながら、このような仰々しい儀式は貴族など上流階級だけのもの。
では一般庶民はどうだったのでしょうか?
土屋正夫著「検証 万葉びとの暮し」(表現社)によると 

「 当時は母系母権の制で男はまず母親の許しを得る。
  許可が下りれば男は夜々女の家へ通って夫婦生活ができる。

  ところがその前に儀式が行われる。
  何と!
  男と女が睦み合っている現場を両親以下親戚一同踏みこみ、
  二人の仲を公にするというのです。
  これを「トコロアラワシ」と云うそうな。

  それから女の家の餅を食べさせる。
  これらの儀式は男を女の家の一人とみなす呪い(まじない)であって
  現今でいう世間への披露であり、固めの盃に相当するもの。

  このような状態になっても、男は普通、女の家には住まず、
  毎晩通ってきて、婿の世話は一切女の家でする。 」(要約)

何故同居しないのか?
それは、当時の女性は一家の重要な労働力。
男は防人などで何時徴集されるか分からないので、女性を簡単に外へ
出すことが出来なかったのです。

それにしても、お互い抱き合っている最中に親戚一同踏みこむとはねぇ。
いやはや驚きました。

 「 花嫁は こわく うれしく 恥ずかしく 」(江戸川柳 柳多留)



ご参考

冒頭、長歌(巻13-3227) 訳文の原文訓み下し。

「 葦原(あしはら)の 瑞穂の国に 
  手向けすと 天降(あも)りましけむ
  五百万(いほよろづ) 千万神(ちよろづかみ)の
  神代より 言ひ継ぎ来(きた)る

  神(かむ)なびの  みもろの山は
  春されば  春霞立ち  
  秋行けば  紅にほふ

  神なびの  みもろの神の
  帯(お)ばせる 明日香の川の
  水脈(みを)早み  生(む)しためかたき
  石枕 苔むすまでに

  新夜(あらたよ)の  幸く通はむ
  事計(ことはか)り  夢(いめ)に見せこそ
  剣太刀 斎(いは)ひ祭れる
  神にしいませば  」         巻13-3227  作者未詳

一行づつの訓み下し。

「葦原(あしはら)の 瑞穂の国に」
 
    日本国の神話的呼称。

   (天つ神の統治によって五穀が豊かに稔る国の)

「手向けすと 天降(あも)りましけむ」

   ( 手向けするために 天降られた )

「五百万(いほよろづ) 千万神(ちよろづかみ)の」

     ( たくさんの神々の )

  「神代より 言ひ継ぎ来(きた)る」

    ( 悠久の昔から 語り継がれてきた )

 「 神(かむ)なびの  みもろの山は」

    ( 神が降臨している御室(みむろ)の山 :明日香橘寺南東のミハ山)

 「春されば  春霞立ち 」

     (春になると 霞が立ち ) 

  「秋行けば  紅にほふ」

     ( 秋になると  紅葉が照り輝く )

  「神なびの  みもろの神の」

     ( 神々しい 御室の神が )

  「帯(お)ばせる 明日香の川の」

     ( 帯にしている 飛鳥川の :山を取り巻く様子を帯に喩えた)

  「水脈(みを)早み  生(む)しためかたき」

      ( 川の流れが早いので 苔がつきにくい )

  「石枕 苔むすまでに」

      ( ごろごろ並んでいる石に苔生すまで 末永く )

  「新夜(あらたよ)の  幸く通はむ」

      ( 毎日新たにめぐってくる夜を 幸せに通い続けられるような
        :当時は通い婚 )

  「事計(ことはか)り  夢(いめ)に見せこそ」

      ( 神様のお計らいを 夢に見せて下さい )

  「剣太刀 斎(いは)ひ祭れる」

      ( 神祭りの剣太刀を崇め祀るように 身を清めてお祭りしている)

 「 神にしいませば」

       (われらの 神でいらっしゃるからには)  」
    
                                巻13-3227  作者未詳


    万葉集610 (結婚しまーす) 完



       次回の更新は12月16日(金)の予定です。
[PR]

by uqrx74fd | 2016-12-08 16:18 | 生活

万葉集その六百九 (欅:けやき)

( 欅の新緑  日比谷公園  東京 )
b0162728_1514547.jpg

( 同    上野公園   同  )
b0162728_15134317.jpg

( 同    六義園   同  )
b0162728_15132081.jpg

( 同    赤塚植物園   同 )
b0162728_15125632.jpg

(  同   自然教育園   同 )
b0162728_15123348.jpg

(  同    鬼子母神参道欅並木  同 )
b0162728_15121047.jpg

(  秋    鬼子母神前の駄菓子屋  1781年創業 )
b0162728_15115011.jpg

(  中秋   赤塚植物園 )
b0162728_15112918.jpg

(  晩秋    日比谷公園  )
b0162728_15105818.jpg

(    同上   )
b0162728_15103314.jpg

「けやき」の語源は「ケヤケキ」即ち「秀でた木」の意とされています。
その風格、品格は松とならぶ樹木界の双璧とされ、古くから有用の木と
されてきました。
落葉高木(ニレ科)にもかかわらず、神木とされているのも立居姿の美しさ、
旺盛な生命力が崇められたのでしょう。

春、芽吹きのころ、一部の枝がおずおずと葉を開き、霜害がないことを
確かめたのち、一斉に美しい若緑の葉を開く用心深さ。
夏にかけ美しい青葉と茂らせ、木陰で休む人の憩いの場を提供し、
秋には紅葉で目を楽しませてくれる。
冬、風に吹かれて、はらはらと落葉するさまにも趣があり、
四季を通じて見る人の心を和ませてくれる樹木です。

万葉集では槻(つき)という名で9首、その多くは斎槻(ゆつき、いつき、いはひつき)、
百枝槻(ももえつき)、などと詠われ、古代から尊い木として崇められていたことを
窺わせています。

まずは長歌(巻13-3223)の訳文から

「雷が光って 曇り空がうち続く9月
 その晩秋、時雨が降るようになると
 雁が まだ来て鳴きもしないのに

 神なびの 清らかな御田屋の
 垣内の田んぼの池の堤
 その堤に生い立つ 神々しい槻の木には
 勢いよくさし延べた 枝いっぱいに
 秋の紅葉が輝く

 その色鮮やかな紅葉を
 手に巻きつけている ちっぽけな鈴もゆらゆらに
 鳴り響くほどに
 か弱い女の身の私ではあるけれど
 引きつかんで 槻の木の
 天辺(てっぺん)も 撓むばかりに
 どっさり折りとって私は持って行く

 わが君の髪飾りのために  」     

長歌全文  

「 かむとけの 日香る空の
  九月(ながつき)の しぐれの降れば
  雁がねも いまだ来鳴かね

  神(かむ)なびの  御田屋(みたや)の
  垣つ田の 池の堤の 
  百(もも)足らず 斎槻(いつき)の枝に 
  瑞枝さす  秋の黄葉(もみぢば) 

  まき持てる  小鈴もゆらに 
  たわや女に  我(わ)れはあれども 
  引き攀(よ)ぢて 峯も とををに 
  ふさ手折り   我(わ)は持ちて行く 

  君がかざしに 」 
                     巻13-3223 作者未詳

  一行ごとに訓み解いてまいりましょう。

「 かむとけの 日香る空の 」

      「かむとけの」: 日香る空の枕詞 かむとけは落雷 
      ヒカ(ピカ)の意で「ひ」を起こす
           
      「日香る」  :   ある気配が立ちこめるさま

        ( 雷が光って 曇り空が続く )

  「 九月(ながつき)の しぐれの降れば 

     (  長月の 時雨が降るようになると )

    「 雁がねも いまだ来鳴かね 」

     (  雁がまだ来鳴きもしないのに )

 
 「  神(かむ)なびの  御田屋(みたや)の 」

       「神なびの」:  神がこもる
       「御田屋(みたや)」 : 斎き浄めた田を守る小屋

            ( 神様に守られた 神聖な小屋 )

  「 垣つ田の 池の堤の 」

           「垣つ田」: 垣根に囲まれた田

          ( 垣根に囲まれた田の 池の堤 )
      

  「 百(もも)足らず 斎槻(いつき)の枝に 」

            「百(もも)足らず」: 斎槻(いつき)の枕詞 百に足りない五十(いつ)の意

         ( 神聖な槻の枝に )

  「 瑞枝さす  秋の黄葉(もみぢば) 」
   
             ( 瑞々しい枝をさしのべた 秋の黄葉 ) 
  
     「 まき持てる 小鈴もゆらに 」

            ( 手に巻いている 小さい鈴をゆらゆらと鳴り響かせて) 
   
    「 たわや女に  我(わ)れはあれども 」

             ( 私は かよわい女 ではありますが )

    「 引き攀(よ)ぢて  峯も とををに 」

            「引き攀(よ)じて」 引き掴んで
            「峯も とををに」  槻の木のてっぺんが撓むほどに

        ( 槻に木のてっぺんが撓むほど力いっぱい引き掴んで)

     「 ふさ手折り  我(わ)は持ちて行く 」

              「 ふさ手折り 」 いっぱい手折って

               ( いっぱい折りとって 持ってゆきます )

     「 君がかざしに 」

             (あなた様の髪飾りに )
 
             かざし :神を迎え幸福、繁栄を祈る呪的行為

反歌

「ひとりのみ 見れば恋しみ  神なびの
   山の黄葉(もみちば) 手折り来つ君 」 
                        巻13-3224 作者未詳

     ( ひとりきりで見ていると 見せたくてならないので
       二人一緒に見ようと
       神なびの この紅葉を折り取って持ってきましたよ、
       あなたさま。 )

 紅葉狩りに集った男女間での宴で歌われた寿ぎ歌です。
 瑞々しく紅葉した槻の枝を持って、小鈴を振るたわやめ。
 受け取る男。
 周囲を取りまく男女。
 それは豊穣の予祝の宴であったことでしょう。

 「欅並木 ここにはじまる 蝉時雨 」 富安風生

江戸時代、欅は橋桁や船材に使われ、その枝を海苔栽培の粗朶として
活用されたため幕府は大掛かりな植栽を奨励しました。
その結果、武蔵野には欅が多く残り、いたるところで並木が見られたそうです。

高濱虚子はエッセイ「欅並木」で

『 東京近郷に出ると必ず並木に出くわす。
  欅や楢や榛(はり)などが大空高く延びていて、その下に
  昔風の人家がなお残っているものを散見するのである。
  この欅並木もまた京洛地方に見ることが出来ぬ武蔵野特有のものである。
  中略 
  この並木は武蔵野の古い街道を象徴しているもので、この欅が大きければ
  大きいほど街道の古さを現わしている 』 

と述べています。

     「 落葉せる 大き欅の 幹のまへを
                 二人通りぬ 物云ひながら  」    島木赤彦


ご参考 : 欅の用途

 神社仏閣、大邸宅の門柱、門扉、土台、大黒柱,鴨居、床廻り、格子戸など。
 椅子、食卓、仏壇、戸棚、盆、車箪笥、盆、皿などの生活用具。
 太鼓の胴、バイオリンの外囲い,三弦などの楽器。
 鉄道枕木、杭、橋梁、電柱、の土木用材。
 船首、船尾、船室の内装など船舶用材。
 客車、汽車や電車の室内装飾用。
 荷馬車、人力車、馬車。
 寺や神社の柱や彫刻 (清水寺の舞台を支えている欅の柱、唐招提寺、
                 東西本願寺、 皇居桜田門は有名)。

 弓材としては真弓(マユミ)とならぶ材料、槻弓とよばれた。



 万葉集609 (欅:けやき) 完


         次回の更新は12月8日(金)の予定です。
[PR]

by uqrx74fd | 2016-12-01 15:28 | 植物