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万葉集その九百九十二(美しき花々 スミレ カタクリ)

スミレ 自宅
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木のくぼみに咲いたスミレ 新宿御苑
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スミレ 新宿御苑

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スミレ 長岳寺 奈良
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カタクリ 弘前城 青森
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同上
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万葉集その九百九十二(美しき花々 スミレ カタクリ)


春到来、花の季節です。


野山にスミレやレンゲが咲き乱れ、まるで紫の絨毯のよう。

そのような美しい景色の中で昼寝しているうちに

夜が明けて目をさました万葉歌人がいます。


「 春の野に すみれ摘みにと 来し我れぞ
       野をなつかしみ 一夜寝にける 」 

        巻81424 山部赤人

( すみれ摘みにやってきたけれどなんと美しいこと
  つい見とれているうちにとうとう

一夜をあかしてしまいましたよ)

「野をなつかしみ」

「親愛のあまりそこから離れたくない」

という気持の意。


「春の野にすみれを摘みにやってきた。
 摘んでいるうちにすみれが綺麗なぁ、可愛いいなぁと夢中になり
 ふと気が付いてみたら日が暮れてしまっていたが、なお立ち去りがたく
 とうとう一晩すみれのもとで過ごしてしまった」

なんともロマンティックな歌人ですね。

「 片栗の 花の紫うすかりき 」 高濱虚子


冬が去り大地を覆っていた雪が消えるとカタクリの花が

いち早く地上に芽を出し可憐なオペラ色の花を咲かせます。


晴れた日に朝日を受けて開き、花片を極端に反り返らせ、

さながらイナバウァ-のよう。

夕暮れにはその花を閉じ、雨や曇りの日には

開かないお天気次第の気難し屋でもあります。


「 もののふの 

八十娘子(やそおとめ)らが 汲み乱(まが)

     寺井の上の 堅香子の花 」   

194143 大伴家持


  もののふの 

     宮中に仕える文武百官の人々

     多くの氏族がいたので八十(やそ 多くの意)に

     かかる枕詞とされている


堅香子(かたかご)

カタクリの古名。


汲み乱ふ

   入り乱れて


寺井の上

  寺の境内にある湧水の泉

  

( 泉のほとりへ美しい乙女たちが三々五々、

水桶を携えて集まってきます。

 そのかたわらにカタクリの花が咲き乱れて-- 

何と美しいことよ )


長い冬からようやく待望の春を迎え、

その喜びに溢れんばかり。

こんこんと湧く清泉、入り乱れる乙女、群生する美しい花。

今にも乙女たちの笑い声が聞こえてくるようです。

 

 「 日中を 風通りつつ 時折に

     むらさきそよぐ 堅香子の花 」 宮 柊ニ


万葉集992(美しき花々 スミレ カタクリ)完



# by uqrx74fd | 2024-03-25 08:50 | 植物

万葉集その九百九十一(霞 かすみ)

春霞 山の辺の道 奈良
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同上 二上山

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同上 金剛葛城山脈
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天の香具山 飛鳥 奈良

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お水取りのお松明 二月堂 奈良
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3月15日のお水取りが終わると奈良は春
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万葉集その九百九十一(霞)


万葉集で詠われた霞は79(うち春霞18)

炭火や薪などで暖を取り、衣類を何重にも着込んで厳しい寒さを

耐え忍んでいた人々は如何に春到来を待ち望んでいたことか。


まだ寒さが残る早朝、山々に紫色の霞が棚引いているのを見て、

思わず「おぁ!春だ、春が来た」と歓声をあげたことでしょう。


「 うち靡く 春を近みか ぬばたまの

    今夜(こよひ)の月夜(つくよ)霞みたるらむ)」


204489  伊香 真人(いかごの まひと)


( 暦の上の春も ま近にきているのでしょうか。

 今宵の月夜はこんなにもうすぼんやりと

 霞んでおります)


757年 大監物三形王(天武系の皇子)の邸宅で

宴を催された時の1首。


大監物とは、官庁の出納の鍵を監察する役所の長官です。


朧月夜を眺めながら、賑やかに杯を交わしている。


気象学上では霞も朧も存在せず、視界上1㎞以下のものを霧、

霧の薄いものを靄(もや)とよぶそうです。


ところが文学の世界では春は霞、秋は霧と区別し、

さらに春の夜の霞は朧(おぼろ)とよぶ入念さ。

霧といえば冷たく深く立ちこめるさまを思い浮かべますが、

霞と聞くと、ほのかに漂う暖かい気持ちになり、

誠に春に相応しい。


「 ひばり上がる 春へとさやに なりぬれば

    都も見えず  霞たなびく 」

          巻204434 大伴家持


( ひばり上がる春になりましたね。

  都あたりも霞でぼんやりとしていてよく見えません )


当時、防人が難波を出航するにあたり、

朝廷から検校勅使とよばれる役人を派遣して

慰労の詔勅を下すのが習いでした。


上記の歌は兵部省難波駐在の役人あった作者が、

仕事を終えた役人を慰労する宴を催した席上のものです。


「 奈良の都も霞で見えませんね。

さぞ、早くお帰りになりたいことでございましょう」と

気遣いしたもの。


ひばりが天高く舞い、ピーチク、パーチクと囀る。

周りは霞におおわれ、妙なる声だけが響いている。

聴覚と視覚で春到来を詠った春らしい一首です。


「 春なれや 名もなき山の 薄霞 」 芭蕉


霞がかかり始めるのは3月で霞初月(かすみそめつき)

といいます。


早春の大和路を歩くと「たたなずく青垣」と詠まれた

四方の山なみがすべて霞にぼやけて、香具山、畝傍、耳成山、

三輪山などがうすい帳(とばり)に覆われて姿を隠し

まるで墨絵のようです。


「 耳成と 畝傍 濃淡 霞中 」 星野立子


万葉集991(霞 かすみ)完



# by uqrx74fd | 2024-03-17 09:32 | 自然

万葉集その九百九十(美しき花々 椿 三椏)

五色椿 白毫寺 奈良
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大椿 森野旧薬園 奈良
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椿 伝香院 奈良
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三椏(みつまた) 東慶寺 鎌倉

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三椏 青梅 東京

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同上 

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万葉集その九百九十(美しき花々 椿 ミツマタ)


「 揺らぎ見ゆ  百の椿が百に 」 高濱虚子


日本原産の「椿」はツバキ科の常緑高木で葉が厚く、

つややかなので「艶葉(つやば)の木」が転訛して

「つばき」になった、或いは連なって咲くところから

「つらつら椿」とよばれ「つらつら」が詰まって

「つらき」から「つばき」になったとも。


「椿」が北海道以外の全国各地に見られるのは、

古代から聖樹であるという信仰を広める人々が長い間、

携え歩き廻ったことや、椿の木から農具やお椀等が作られ、

その種子は椿油に、椿炭は漆工芸の研磨用に

椿灰は草木染めの媒染剤として

日常生活に欠くことが出来ない

有用の花木であることも理由の一つと

考えられています。


「 我が門(かど)の片山椿 まこと汝()

    我が手触れなな 地に落ちもかも 」 

      204418 物部広足 (防人)


( 我家の門口に咲いている片山椿。

  その美しい椿のようなお前さんよ。

俺が出征してしまうと留守の間に

椿のように地に落ちてしまうかな? 

手を触れないで清純無垢のままにしておきたいのだが、

どうしょう? )


片山椿


山の傾斜地や平地の一方が

盛り上がっているところに咲いている椿。

ここでは女に譬えている


まこと汝(な)れ


   椿すなわち女

   椿のように美しいお前の意

  

我が手触れなな


  我が手を触れないままに


地に落ちもかも


  他の男に身をまかせてしまうの意


作者は防人として武蔵国を出立するにあたり、

思いを寄せている女性が

「自分が手を触れないうちに

他人のものになってしまうのか?」

と懸念し

「それならいっそのこと手を出そうか」

と悩んでいます。


山の傾斜面は男の不安定な心情を、

また、椿は萎れていない瑞々しさを保ったまま

ポトリと落ちるので、

相手の女性の清純さを

イメージしているような一首です。


「三椏の 花は目立たず つつましく 」 

      松岡渓蝉郎(けいせんろう)


三椏(みつまた)は枝が三つに分かれていることから

万葉集では「さきくさ」(三枝)とよばれました。

十二月頃蜂の巣のような蕾を生じ、そのまま越冬し、

早春、薄い黄色の花をつけ

周囲にほのかな芳香を漂わせてくれます。


「 春されば まずさきくさの 幸(さき)くあらば

   後にも逢はむ な恋ひそ我妹(わぎも)」   

101895 柿本人麻呂歌集


( 春になるとまず咲くさきくさ。

その言葉のように幸く無事であったら

必ずまた会えるでしょう。

そんなに恋焦がれて苦しまないで下さい。

いとしい人よ)


な恋ひそ

  

 そんなに恋患うな

 なーそ 禁止を表す用語


作者はこれから長い旅に出かけるのでしょう。

当時の旅は野宿、食料持参が原則。


途中の山道で迷い狼や熊に襲われたり、

また食が尽きて行き倒れる人も多く、

無事生還の保証がありません。


「幸くあらば」に実感がこもる一首です。


三椏は古くから楮、雁皮と並んで重要な和紙の原料とされ、

丈夫で栽培しやすい上、

精巧な印刷や透かし入れが可能なため

現在では主として紙幣、証券、印紙などに

用いられています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            

「 枝ごとに三つまた成せる三椏の

    つぼみをみれば蜂の巣の如 」  長塚 節


   万葉集990(美しき花々 椿、三椏)完



# by uqrx74fd | 2024-03-10 08:58 | 植物

万葉集その九百八十九(春の声 鶯)

鶯 N.F 君 提供
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鶯 山の辺の道 奈良

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[ 鶯の春になるらし 春日山
霞たなびく 夜目に見れども 」 
    10-1845 作者未詳
日本橋 人形町で
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メジロ 皇居東御苑
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同上
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2匹のメジロ 垂仁天皇陵付近
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万葉集その九百八十九(春の声 鶯)


梅の花が咲き始める頃になると、

今まで山奥にひっそり棲んでいた鶯が

野や里に降りてきて「もう春が来たよ」と

美しい声で触れまわります。


「ホーホケキョ」( 法 法華経 )と

有難いお経を唱えているかと思えば、

時として玉をころがすように「ケキョケキョ」と

続けざまに鳴く「鶯の谷渡り」、


浮き立つような春の調べです。


「 うち靡く 春立ちぬらし 我が門(かど)の

   柳の末(うれ)に うぐひす鳴きつ 」

        巻101819  作者未詳


( 草木の靡く春がいよいよやってきたらしい。

  我が家の門の柳の枝先に 鶯が鳴きはじめた )

  

うち靡く 

春の枕詞 草木も元気に靡くようなの意

我が門

   我家の庭の

   

柳の末(うれ)

  柳の枝先


春 柳 鶯を組み合わせ、いかにも春到来の喜びあふれる1首。


鶯は梅よりも笹や竹藪など低木の林を好んで棲みます。

梅に来る時は、木に付着した害虫(蛾の幼虫)

食べにくるからとされ普段梅と戯れているのはメジロが多く、

鶯は滅多に見かけません。


「 梅の花 咲ける岡辺(おかへ)に 家居れば

   乏(とも)しくもあらず うぐひすの声 」 

101820 作者未詳


(梅の花が咲く岡のほとりに家があるので

 鶯の声が本当によく聞こえてくるよ。

 格別にめづらしいことでもないが

 鶯の声はのどかで、うっとりするなぁ )


岡辺(おかへ)

岡のほとり

  

  家居れば

    家を構えて住むの意


  乏しくもあらず

    珍しくもないが


「雀より 鶯多き 根岸哉(かな) 」正岡子規


その昔、

「鶯の産地は奈良が第一、関東産の鶯は鳴き声が濁っている」

といわれており、

元禄のころ、上野の公弁法親王という人物が

京都から3500羽の鶯を取り寄せて根岸の里に放したところ

大いに繁殖し、後に江戸を代表する鶯の名所となり

「初音の里」とも称されるようになったそうです。


 

根岸の里は江戸時代、粋人の別宅が多かったところで、

JR山手線「鶯谷」の駅名はその名残。

当時の根岸は上野の北東、日暮里、根津、千駄木一帯を含む

広範囲な地域だったそうな。


「 鶯や 文字も知らずに 歌心 」 高濱虚子


    万葉集989(春の声 鶯) 完



# by uqrx74fd | 2024-03-03 10:54 | 動物

万葉集その九百八十八(東歌 国土不明7)

北アルプス ご来光
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北アルプス
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飛騨高山 岐阜県

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飛騨高山祭
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房総の村 千葉県
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花嫁舟 潮来 茨城県
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万葉集その九百八十八(東歌 国土不明7)


地名不明歌第7弾です。


 「 しまらくは 寝つつもあらむを 夢(いめ)のみに

    もとな見えつつ 我(あ)を音(ね)し泣くる」

     巻143471 作者未詳

  

    しまらくは 


      しばらくの間は


     寐つつも あらむを


      ゆっくり寝ていたいのに


    もとな見えつつ


        わけもなく見えては


( しばらくの間 ぐっすり眠っていたいのに

  あなたは夢の中にやたらと現れて、

  私を声高に泣かせるばかり。)


「 夢だけでしか逢えない、そんな事ならいっそのこと

   夢など見ないで ぐっすり寝たほうがましだ」と

 現(うつつ)には逢えない男の嘆き


「 左努山(さのやま)に 

打つや斧音(をのと)遠かども

     寝もとか 子ろが 面(おも)に見えつつ 」

       巻14- 3473 作者未詳


  左努山(さのやま)


    上野国(かみつけのくに)

上州ともいい現在の群馬県


  遠かども

  

     遠くに離れているけれども


  寐もとか


    俺と一緒に寝たいというのか


( 左努山(さのやま)で打つ斧の音

その音が遥か彼方から聞こえてくるように

互いに遠く隔たっているけど、

 あの子は俺と一緒に寝たいというのか

夢の中に現れてくるよ。 )


心の中で相手を思えば、相手の夢に現れると

信じられていた時代、


「 夢を見たらあの子が現れた。

  きっと、俺のことを想ってくれているのだ。

  「うれしいなぁ」と


にやついている男です。


 万葉集988(東歌7)完



# by uqrx74fd | 2024-02-26 08:48 | 万葉の旅