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万葉集その二百(龍馬)

              
「 龍(たつ)の馬も 今も得てしか あをによし
      奈良の都に行(ゆ)きて来むため 」  巻5-806 大伴旅人
 

(  龍の馬というものを何とか手に入れたいものです。
   それさえあれば奈良の都まであっという間の一ッ飛び。
あなたにお会いして、たちまち戻ってくることもできましょう。 )

この歌の序文に「天の川を隔てた牽牛織姫にも似る嘆きを覚え、一日も早くお目に
かかれることを願う」(要約) とあり、大宰府長官、旅人が都の親しい女性
(丹生女王:伝未詳 ともいわれる)に贈ったものとされています。

では、「龍の馬」とは一体何でしょうか?

龍の起源説は東西にあり、東はインドと中国、西方はシュメールに発します。
インド産のものはナ-ガ即ちコブラから生まれた神です。
竜という字はコブラが獲物を狙っているようにみえますね。

中国産は龍(ロン)とよばれる鱗(うろこ)に覆われた蛇状の胴体で、2本の角と髭、
鋭い爪をもつ4本足の想像上の怪獣です。

仏伝によると釈迦が豪雨と洪水に遭遇した時に救ってくれたのがナ-ガと言われ
以来インドでは仏教の守護神に加えられました。

仏教がインドから中国に伝えられた時、中国人はナ-ガを中国土着の龍と理解して
寺院にその造形や絵を祀(まつ)り、さらに王権のシンボルとします。
一方、インドではナ-ガ即ちコブラのままの姿をとどめました。

西方の龍は有翼、2本足でドラゴンとよばれますが、キリスト教の敵とされ天使や
使徒に退治される悪魔の化身となります。

同じ龍でも東方は守護神、王権のシンボル、ヨーロッパでは悪魔で敵役と
善悪分かれているのは興味深いことです。

仏教守護神である龍は水の神である八大龍王をも兼ね、普段は水中に棲み、
翼がなくても天に駆け上がり、雨や雪なども司ります。
龍という字の右半分は躍動飛行するさまを示しているそうです。

「 時により すぐれば民のなげきなり
    八大龍王 雨やめたまえ 」         源実朝


「すぐれば」は「度がすぎると」


この歌は1211年7月、大雨で洪水が発生し土民達がひどく難儀している時、
仏像に向って真摯な祈りを捧げた折のものとされています。
民を守る為なら龍王をも叱咤する為政者のこの気迫。

我国では仏教と共に龍も伝来しましたが、固有の文化と一線を画したのでしょうか、
王権のシンボルにはなりませんでした。
その代わり、寺院などの天井裏、柱、壁、襖などいたるところに龍の絵が描かれたり、
彫り物がなされ守護神としての役割を果たすことになります。

さて、つぎは「馬」。
ギリシャ神話に太陽神を運ぶ天馬ペガサスが登場します。
この天馬が遠くシルクロードの西の端ギリシャ、ローマから遥々と砂漠を越え
高山をわたり中国にたどり着きました。
そして中国固有の龍と交わって生まれたのが龍馬です。

かくして冒頭の万葉歌は
東西文化融合のシンボルである「龍馬」がシルクロードの終着点である我国に
到着したことを教えてくれているのです。

「 金色の 龍の鱗か 笛の音の
   しみいる波に うきてはしずむ 」     森鴎外

by uqrx74fd | 2009-03-08 13:05 | 動物

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