2009年 03月 08日
万葉集その百四十四(松風)
巻3-257(長歌の一部) 鴨君足人 (かものきみたりひと)
松風は松籟、松涛、松の声ともよばれており、その爽やかな響きは古来から
琴の音色にも例えられてきました。
松籟の「籟」は風が物に吹きあたって出る音をいいます。
「 一つ松 幾代か経(へ)ぬる吹く風の
音の清きは年深みかも 」
巻6-1042 市原王
( 一本松よ おまえは幾代もの長い歳月を経てきたのだろうなぁ。
風が爽やかに吹き、こんなにも清らかな音を響かせているのは
お前が逞しく生き抜いてきたことを寿いでいるようだねぇ)
744年1月、貴族の子弟たちが 安積王(聖武天皇皇子)の宮近くで酒宴を開きました。
作者は、活道岡(いくじがおか;京都) とよばれる丘の上に立つ大樹の下で松籟を
聞きながら、新年を賀し、「老松にあやかり各々がた末永く長寿であれ」と祈ります。
主賓の安積王は病弱な体質であっただけにその思いは切実なものがあったようです。
悠久の時の流れの中での心地よい松籟。気品と透明感があふれ
「王朝時代の松風の美感を先取りした(山本健吉)」センスが感じられる名歌です。
「 琴の音に峰の松風かよふらし
いづれの緒よりしらべそめけん 」
斎宮女御 拾遺集雑上451
( 琴の音に峰の松風が弾きあわせて吹き渡ってくるようです。
いったいどの弦から一緒に奏ではじめたのでしょうか )
「松に調(しら)ぶる琴歌」の決定版とされている歌です。
作者は村上天皇の女御で琴の名手。源氏物語の六条御息所の
モデルともいわれ「賢木帖」にもこの歌が地の文に生かされております。
松風という言葉は余程日本人の感性に響くものがあったようです。
謡曲「松風」、茶道での「釜の湯がたぎる湯相の音」や和菓子の銘、等々。
「 ござるござると浮名をたてて
様(さま)は松風音ばかり」 播磨古歌
(おいでになる、おいでになるという噂ばっかりね。
あなた様の訪れ(音)もなくわたしは待つ(松)ばかり )
by uqrx74fd | 2009-03-08 12:03 | 自然