万葉集その百四十二(鶴鳴きわたる)

                                                                     「鶴のこゑ天に集まりゆきにけり」  (勝又一透)                                   
クルル-クルル コロロ-。 
力強く、周辺の山野にまで響き渡る「鶴の一声」。 
                             
「ツル」の語源は「その鳴き声」あるいは「集団行動で列なるため」
といわれるようにやがて群れをなして優雅に飛び去ってゆきます。         
          
万葉集での「鶴」はすべて「たづ」と詠まれており「タズ」は歌語、
「ツル」は日常語であったと考えられています。

尤も、鳥類学上の厳密な区分がなかった時代のことですから、
コウノトリ、アオサギ、オオハクチョウ等の白い大形の足の長い鳥も
「タズ」とよばれていたかも知れません。

 「 若の浦に 潮満ちくれば潟をなみ
   葦辺をさして鶴(たづ)鳴き渡る」 
        巻6-919 山部赤人


( 若の浦に潮が満ちてきて干潟が見えなくなってしまいました。
 餌を漁っていた鶴は次の餌を求めて葦辺の方に向かって
 次々と飛んでいきます。しきりに高い声で鳴きながら -)

724年聖武天皇が紀伊に行幸され、お供した作者が和歌の浦の
情景を詠んだものです。
鶴の群れが餌を漁っている干潟。波が少しずつひたひたと満たし、
やがて満潮になると鶴は鳴きながら一羽また一羽と次の餌場に向かって
飛び立ってゆく。
まさに絵画的な叙景詩で万葉集中の名歌の一つとされております。

この歌の「潟をなみ」から「片男波(かたおなみ):高い波」という
言葉が生まれ大相撲の部屋名にもなりました。

 「夕なぎに あさりする鶴 潮満てば
       沖波高み己が妻呼ぶ 」 
              巻7-1165 作者未詳


(夕凪の時に餌を漁っている鶴、潮が満ちてきて波が高くなってきたので
そろそろ行こうかと妻に向かって盛んに鳴いているよ )

この歌は尾張で旅宿した折の宴の席でのものとされています。
作者は仲がよい鶴を眺め、その声を聞きながら都に残してきた
妻を思い出していたのでしょうか。

鶴は10月後半から12月にかけてシベリア、モンゴル、中国等から
渡来します。
当時は全国各地に渡来しており、そのことは万葉集での歌の多さ
(46例)や、「鶴」にちなむ地名が数多く残されていることからも窺われます。

数多かった渡来地も明治時代の乱獲がたたり現在では鹿児島県出水地方、
山口県八代、北海道釧路原野でしかお目にかかることが
出来なくなってしまいました。

特に釧路で土着繁殖中の丹頂鶴は最も日本的な鶴で春先に見られる
求愛のダンスはまさに幻想の世界を繰り広げてくれております。

 「 亀は万年 齡(よはひ)を経、鶴も千代をや重ぬらん
- 丹頂の鶴も一千年の齢を君に授け奉り 」 
                (謡曲:鶴亀)                  
     
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by uqrx74fd | 2009-03-08 12:01 | 動物

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