2009年 03月 08日
万葉集その八十一(豊旗雲:とよはたくも)
見られますが、分けてもただ一つみえる「豊旗雲」は屈指の
美しい言葉です。
「豊」はその立派さ、壮麗さを讃えた言葉、「旗雲」は幡(ばん)のような
横に靡いている吹流しのような雲をいいます。
「 海神(わたつみ)の 豊旗雲に 入日さし
今夜(こよひ)の 月夜(つくよ) さやけくありこそ 」
巻1の15 中大兄皇子(のちの天智天皇)
( 空を見上げると海神が棚引かせたまう豊旗雲、
何と素晴らしい光景だろう。
おぉ、夕陽が射しこんできて空はすっかり茜色に染まってきたぞ。
今宵の月夜はきっと清々しいことであろうなぁ。 )
この歌は661年、斉明天皇が征新羅のために九州行幸された途中、
播磨灘海岸辺りで詠まれたもので、額田王が天皇になり替って
作ったとも推定されています。
万葉集の最高傑作とされていますが、結句「さやけくありこそ」の
訓み方に十数説あり、いまだに定まっておりません。
天には茜色の巨大な豊旗雲、海上には軍船の、陸上には軍団の
無数の旌旗が靡き、実に雄大、荘厳な光景が想像されます。
作者は豊旗雲を神の旗と感じ、この船旅が海神に祝福されている
とも受取ったことでありましょう。
さらに美しい夕焼け雲をみて「今夜は月夜も素晴らしそうだ。
我々の未来もこのようなバラ色であって欲しい」という
祈りと期待をこめて詠ったものと思われます。
齊藤茂吉は「壮麗ともいうべき大きな自然とそれに参入した作者の
気迫と相融合して読者に迫ってくるのであるが、
是の如き壮大雄厳の歌詞というものは遂に後代には跡を絶った。
後代の歌人等は渾身をもって自然に参入して、その写生をするだけの
意力に乏しかった」と絶賛されています。
( 万葉秀歌より : 岩波新書 )
「 満天の 夕焼雲が 移動せり 」
加藤楸邨(しゅうそん)
by uqrx74fd | 2009-03-08 11:00 | 自然