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万葉集その六十六(磯の鮑の片思い)

アワビは二枚の貝を持って生まれますが、生後十五日ほどで
透き通った片方の稚貝を捨ててしまうため「磯のあわびの片思い」と
いわれます。
水が澄み、潮の流れが良い海底の岩肌に居を定め、
海藻を食べながら成長します。

古くは朝廷への貢物、お祝いの食用として重宝され、
また干し鮑にして保存しました。

アワビといえば海女。 
輪島、伊勢鳥羽、房州白浜などが良く知られています。

「 伊勢の海女の 朝な夕なに 潜(かづ)くといふ
   鮑の貝の 片思(かたもひ)にして 」 
             巻11の2798 作者未詳


( 私の恋は伊勢の海女が朝に晩に水に潜って採るという
  あわび貝のように片思いなのです。
  あぁ- この恋心。一体どうしたらよいのでしょう)

万葉人は鮑貝から採れる真珠を「あわびだま」「あわびしらたま」と
よんで珍重しました。あこや貝より大きく紫緑色を帯びた美しい玉です。

「 沖つ島 い行(ゆ)き渡りて 潜(かづ)くちふ
    鮑玉もが 包みて遣(や)らむ 」 
           巻18の4103 大伴家持


( 沖の島まで渡って水に潜って採るという真珠が欲しいなぁ。
  何とか買求めて大切に包んで妻に送ってやろう)

室町時代、アワビの肉を叩いて薄い干し物にし、更に末広に切って
重ねたものが熨斗(のし)の起こりとされます。

現在でも格式ある贈答には包み紙の上に本物の熨斗アワビを
添えることがありますが一般には、紙で代用したものを用いて
その名残をとどめています。

アワビは11月が産卵期で旬は夏です。

その刺身は美味ですが、採りたてを薄く切り、塩を軽くふってさっと焼き、
「すだち」のしぼり汁をたらして食べるとこれはもう絶品で言う事なし。

「 逢えばすぐ酒になる友 鮑蒸し 」  小野 博 

by uqrx74fd | 2009-03-08 10:45 | 動物

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