万葉集その二百九十七「鵲(カササギ)の渡せる橋」

「 わが尖りたる矢よ 速やかに 翼を縫ふて 
  地の上(へ)に落とせ。
  恋の畑の 畝(うね)をひろげむ。

   わが放ちたる 音なき矢に
   翼 縫はれて地に落ちたる
   恋の使いは鵲なり。

   天の河原に星を渡す
   橋をつくりては何処に行く 
   御階(みはし)の下(もと)か 筑(ちく)の山か。

   わが矢は折らむ。
   飛び去るなかれ 鵲よ。」      
                  ( 河井酔茗 鵲より)


鵲は光沢がある瑠璃色を含んだ黒い体をしており、肩、腹、翼の一部が白い
カラス科の鳥です。
尾が長く、しわがれた声でカシャカシャと鳴き、それがカチカチと聞こえるため
勝カラスとも呼ばれ、また、朝鮮半島から持ち込まれた鳥とされているため、
高麗鴉(こうらいがらす)の異名もあります。

河井酔茗の詩で「筑の山か」と詠われているのは、北九州地方に多く
棲息していることによるものです。

 古く中国ではこの鳥を「烏鵲(うじゃく)」とよんで、悪賢い人にたとえ、
ヨーロッパではカラスと共に不吉な鳥、魔女の化身ともいわれましたが、
東アジア北部では逆に吉兆の鳥とされ、韓国では国鳥に指定されています。

 鵲が七夕の夜、天の川に翼を広げて橋を作り織姫を牽牛のもとに渡したという
「アジア東北発祥したとされる伝説(白川静)」は中国を経由して我が国にも伝わり、
多くの人達のロマンティックな想像をかきたててきました。

「 かささぎの 渡せる橋におく露の
   白きをみれば 夜ぞふけにける 」 
                    大伴家持 家持集 新古今和歌集、百人一首


大伴家持の歌ながら、なぜ万葉集に所収されなかったのかは定かではありません。
家持作ではない?という説もありますが、多くの人に好まれ選歌されたのでしょうか。

この歌は新古今和歌集では冬の歌に分類されており、「カササギの橋」を
天上の想像の橋とするか、地上の現実の橋とするかで解釈が大きく違ってきます。

以下は白州正子さんの解説です。

『 カササギの橋は牽牛、織姫のために天帝が鵲に命じて天の川に橋を
かけさせたという中国の伝承に起こった。
それより天の川のことを「かささぎの橋」と呼ぶようになったが、
日本に渡ってから織姫は神の衣を織る棚機女(たなばたつめ)に変身し
七夕の祭りと結びついた。
以来、鵲の橋は男女の仲をとりもつ橋、また神と人とのかけ橋ともみられる
ようになり、天上にかかる橋は次第に殿上へ登るきざはし(筆者註:階段)に
変わっていった。

この歌の場合も、夜更けて宮中に伺候した大伴家持が御所のきざはしに置く霜を見て、
夜が更けたことを知ったという賀茂真淵の説が有力になっている。
- - 歌はそこで終わったのではなく夜も更けたから女のもとへ通いたいという
そこはかとない願望が秘められているように見えなくともない。
私も最初のうちはそう考えた方が面白いと思っていたが、
やはり天の川と見た方が自然であり景色も大きく広がるような気がする。 』 
                            (私の百人一首: 新潮選書より要約)
 
「 ほのぼの明(あか)りて  流るる銀河
  オリオン舞い立ち   スバルはさざめく
  無窮(むきゅう)をゆびさす  北斗の針と
  きらめき揺れつつ    星座はめぐる 」

      ( 冬の星座、二番より  堀内敬三作詞 ヘイス作曲 )
 
澄み切った冬の夜空
無数の星屑は天の川の泡立つ波。
黒く、青い天空を じっと見つめると
それは、カササギの大きく広げた羽。

「 鵲の丸太の先にあまの川 」    其角
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by uqrx74fd | 2010-12-12 17:59 | 動物

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