2016年 02月 26日
万葉集その五百六十九 (梅愛づる人)
( 月ヶ瀬 奈良 )
( 曽我梅林の枝垂れ梅 小田原市 )
「 もっそりと 毘盧遮那仏(びるしゃなぼとけ)の 古りゐます
寺よぎり 梅の香につつまれぬ 」 大滝貞一
毘盧遮那仏 : 東大寺大仏
如月(きさらぎ)が終わり、まもなく弥生。
東大寺戒壇院の裏手に咲く白梅が馥郁とした香りを漂よわせ、
道行く人々を楽しませてくれる時期になりました。
「 おぉい! 古の都へ梅見に行こう 」
と声をかけると集まったのは仲間4人衆。
何しろ60年近い付き合い、気心が知れた友ばかりです。
あっという間に話がまとまり、たちまち奈良へ。
晴天に恵まれ、最高のお花見日和。
鑑真和尚が開基された東大寺戒壇院の四天王像(国宝)を拝観し、
大仏池に通じる裏側に廻ると今が盛りと咲き誇る白梅。
「 おぉ!今年も逢えたな 」と 声をかける。
「 春さらば 逢はむと思(も)ひし 梅の花
今日の遊びに 相見つるかも 」
巻5-835 高氏義通(かうじのよしみち)
( 春になったら是非出会いたいと思っていた梅の花。
念願かなって今日この宴で皆でめぐりあうことができたなぁ )
さぁ、さぁ花の下で酒盛りだ。
当節、梅の下での酒盛りはあまり見かけないが、まぁいいか。
「 梅の花 今盛りなり 思ふどち
かざしにしてな 今盛りなり 」
巻5-820 葛井大夫(ふじい まへつきみ)
( 梅の花は今が真っ盛り。
さぁ、気心知れた皆の髪飾りにしょう。
梅の花は今が真っ盛りだ )
昔の人は梅や桜の枝を頭や着物に挿してその生命力にあやかろうとしました。
勿論、現在は枝折厳禁。
一献また一献と盃を酌み交わしながら、花や香を愛づる紳士ばかりです。
突然一陣の風、花びらが空に舞い、ひらひらと流れ落ちてきました。
「 そうだ、大伴旅人がこんな歌を詠っているぞ」と披露する。
「 梅の花 夢に語らく みやびたる
花と我(あ)れ思(も)う 酒に浮かべこそ 」
巻5-852 大伴旅人(既出)
( 梅の花が夢でこう語った。
「 私は風雅な花だと自負しております。
どうか酒の上に浮かべて下さい 」 と)
念願通り、花を盃に浮かべてあげました。
「 そういえば履中天皇(438年)の盃に桜の花びらが舞い落ちたという
風雅な話もあったなぁ」
とふと思いだす。
宴はいよいよ佳境。
「 梅の花 折りてかざせる 諸人は
今日の間は 楽しくあるべし 」
巻5-832 荒氏稲布(くわうじの いなしき)
( 梅の花をかざしにしている各々方
今日は尽きない楽しみの一日を過ごしましょう )
時間が経つのも忘れ、数々の思い出を語り合う。
喧嘩したこともあったっけ。
それにしても皆年取ったなぁ。
それぞれ苦労もあっただろうに、微塵も感じさせない武士(もののふ)たち。
「 年のはに 春の来たらば かくしこそ
梅をかざして 楽しく飲まめ 」
巻5-833 野氏宿奈麻呂( やじの すくなまろ)
( これからも 春が巡ってくるたびに このようにして梅をかざしながら
楽しく飲もうではないか )
「そのためには、みんな体を鍛えて元気でいなきゃ」と口々に。
ふと気が付くと肌寒い。
まもなく黄昏、人影もまばらになってきた。
突然、東大寺の大鐘が鳴り響く。
余韻を残した美しい調べに聴き惚れながら、
「やっぱり奈良はいいな」と呟く。
名残惜しいがそろそろお開きにいたしましょう。
ではまた、来年までさようなら。
「 としひとつ 又もかさねつ 梅の花 」 鬼貫
( 本稿の歌はすべて730年大宰府長官大伴旅人主催の梅花の宴32首の
中から選び、現代風に並べ替えたものです。)
by uqrx74fd | 2016-02-26 06:31 | 生活