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万葉集その六百六 (アケビ)

( ミツバアケビの花  向島百花園  )
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(    同上:拡大  )
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( ミツバアケビの実    同上 )
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(  枯れた実  東京都薬用植物園 )
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(  アケビの花   同上 )
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(  アケビの実   同上 )
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( 通信販売カタログ  産地は山形が圧倒的なシエァを占める )
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 アケビは本州、四国、九州に分布するアケビ科つる性の落葉樹で4~5月、
薄紫色の花を咲かせ、秋には10㎝位の楕円形の実を付けます。
完熟すると紫色の果皮がパクッと割れて白く柔らかい美味な果肉が現れるので
「開け実」とよばれていたものが「アケビ」に転訛したそうな。

古くは「狭野方(さのかた)」とよばれていた(土居文明 万葉集私注)ようですが、
植物名ではあるが未詳、あるいは地名とする説(少数)もあります。

「さのかた」が「アケビ」とされる根拠は万葉集で「葛葉(くずは)がた」と
詠われている例があり、「かた」は「蔓(つる)」の意と推測されること(伊藤博)と
「さの」は「さね」つまり「実」と解釈されたと思われるので
本稿は土居説に従います。

万葉集の「さのかた」(アケビ)は二首のみ、共に恋の歌です。

「 さのかたは 実にならずとも 花のみに
         咲きて見えこそ 恋のなぐさに 」 
                    巻10-1928  作者未詳

( さのかたは、実にならなくてもせめて花だけ咲いて見せておくれ
 この苦しい思いのせめてもの慰めに )

  「咲きて見えこそ」:「こそ」は「~してほしい」で「咲いて見せてほしい」
  「恋のなぐさに」: 「恋心を慰めるよすがとして」

男が「さのかた」を女に譬えて、結婚する気はなくとも
せめて交際だけでもして欲しいと口説いています。

本心は体の関係も持ちたいと思っている?
ところが口説かれた女性は人妻。
不倫は厳禁の時代。
女は次のような歌を返します。


「 さのかたは 実になりにしを 今さらに
         春雨降りて  花咲かめやも 」 
                    巻10-1929  作者未詳

( さのかたは とっくに実になっておりますのに 今さら春雨が降って
  花が咲くなどということがありましょうか )

「 春雨降りで」: 当時、春雨は花の開花を促すものと考えられており、
           ここでは男から誘いを受けている状態を譬えています。

「 花咲かめやも」: 「めやも」は反語。
             「あなた様と関係をもつということなどありましょうか」の意

自らを「さのかた」に譬えて、すでに人妻である(実になりし)ことを匂わせながら
相手の求めをはぐらかしています。
取りようによっては靡いてもよいとも思われそうな返事です。
相手をからかっている?
あるいは内心、一時の浮気ならと思っているのか。


「 心ぐく なりて見て居り 藪のなか
        通草(あけび)の花を 掌(て)の上におきて 」  島木赤彦

アケビは漢字で「通草」「木通」と書かれます。
蔓を煎じて飲むと利尿に効ありとされるので「小水が通じる草、木」の意とか。

この歌の作者、島木赤彦は「万葉集の鑑賞及び其の批評」という歌論書を書き、
斎藤茂吉の「万葉秀歌」と常に比較されているアララギ派の巨匠です。

「心ぐく」は「気分が晴れない」の意で万葉集に精通していた作者は
大伴家持が多用していたのを知っていて用いたのでしょうか。

「 心ぐく 思ほゆるかも 春霞
    たなびくときに 言(こと)の通えば 」 
                     巻4-789 大伴家持

( 申し訳けなさに心が晴れずもやもやした気持ちです。
      春霞がたなびくこの季節に、しきりにお便りいただくものですから )

藤原久須麻呂という人物から、まだ3才になるかならないかの家持の娘と
婚約したいとの申し出があり、困惑し、婉曲に断ったにもかかわらず
再三催促してきたのに応えたもの。
昔とはいえ、えらい気の早い男がいたものです。

「 通草(あけび)の実 ふたつに割れて そのなかの
            乳色なすを われは惜しめり 」        斎藤茂吉

山の中で実もたわわに垂れ下がっている通草。
野趣があり美味。
季節になると店頭にも出回ります。
春の若菜はおひたしや、乾燥させてお茶にしてもよし。
また、蔓は椅子や寝台、鞄やバスケット,菓子器などに加工されています。

「 瀧風に 吹きあらわれし 通草(あけび)かな 」     増田手古奈


           万葉集606 (アケビ) 完


        次回の更新は11月20(日)の予定です

by uqrx74fd | 2016-11-10 19:16 | 植物

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