万葉集その六百六十八 (鴨の季節)

( カルガモ 東寺 京都 )
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( キンクロハジロ  六義園  東京 )
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( ホシハジロ  不忍池  上野 )
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( 鴨の浮寝   旧芝離宮  東京 )
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( マガモ  不忍池  上野 )
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(  マガモ  後方:オナガガモ )
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万葉集その六百六十八 (鴨の季節)

詩歌の世界で、晩秋北の国から渡ってくる鴨を「初鴨」、「鴨来る」、
春帰る鴨を「引鴨」(ひきがも)、帰らず残っている鴨を「残る鴨」、
留鳥である「カルガモ」は「夏鴨」とよばれ、単なる鴨という場合は
冬の季語とされています。

鴨類の種類は多く、世界で約170種、我国でも30余種といわれ、
比較的小形のものをひっくるめた総称が鴨。
中でも特に多いマガモ(別名アオクビ)をさすことが多いようです。

万葉集では29首。
美しい羽色、浮寝、鳴声など様々な情景が詠われています。

「 水鳥の 鴨の羽色の 春山の
     おほつかなくも 思ほゆるかも 」  
                        巻8-1451 笠 郎女

( 水鳥の鴨の羽色のような春山が、ぼんやりと霞んで見えるように、
 あなた様のお気持ちが はっきりわからず、 もどかしくてなりません。)

大伴家持に贈ったもの。
片思いの鬱々とした心情を述べ、鴨の羽色を霞かかった春山に譬えています。
色華やかな春の山、池に浮かぶ鴨の美しい姿、霞たなびく空。
様々な情景が目に浮かぶような秀歌です。

「 磯に立ち 沖辺(おきへ)を見れば 藻(め)刈り舟
    海人漕ぎ出(づ)らし  鴨翔(かけ)る見ゆ 」 
                             巻7-1227 作者未詳

( 岩の多い海岸に立ってはるか沖の方を見やると
  鴨が驚いて飛び立った
  海藻を刈る海人たちが舟を漕ぎだしたようだなぁ。)

作者は紀伊方面の旅の途中、沖の藻を刈る小舟を眺めていたようです。
ところが海人が突然舟を漕ぎ出したため、驚いた鴨が一斉に飛びたった。
今にも羽音が聞こえてくるような生き生きとした一首で、
「鴨翔ける」の躍動感が秀逸。

なお、鴨は夜明けから日中沖に浮かび漂い、夜になると川の葦辺や
池の水田で餌を漁ります。

「 我妹子(わぎもこ)に 恋ふれにかあらむ 沖に棲む
                   鴨の浮寝の  安けくもなき 」 
                       巻11-2806 作者未詳

( あの子に恋こがれているからであろうか。
 沖の波を寝ぐらとする浮き寝鴨のように 私の心はゆらゆらとして
 落ち着くことがありません )

「 恋ふれにか あらむ」: 「恋ふれば にかあらむ」の意で
                 恋してしまったからであろうか。

万葉人の素晴らしい造語、「鴨の浮寝」。
今なお使われている言葉です。

   「 日輪が ゆれて浮寝の  鴨まぶし 」   水原秋桜子

次の歌は防人が集合地、難波に向けて出立しょうとしている場面です。

「 葦の葉に 夕霧立ちて 鴨が音(ね)の 
      寒き夕(ゆふへ)し 汝をば偲はむ 」 
                    巻14-3570  作者未詳(防人歌)

( 葦の葉群れ一面に夕霧が立ちこめ、鴨の鳴き声が寒々と聞こえてくる夕べ。
 そんな夕暮れ時には、お前さんのことが ことさら偲ばれることよ。)

当時の難波は葦の名所、その夕景を思い浮かべながら
妻に別れの挨拶をしています。
作者は東国の人と思われますが、以前難波に行ったことがあるか
防人経験者に話を聞いていたので、このような情景を思い浮かべることが
出来たのでしょう。

しみじみとした哀感がにじみ出ている秀歌ですが、
鴨の雄は「グェッ グェツ」、メスは「グェー グェグェ」と鳴き、
美声には程遠い「だみ声」。
遠くから聞くと寂しげに聞こえたのでしょうか。

「 見るままに 冬はきにけり 鴨のいる
        入江のみぎは うすごほりつつ 」 
                     式子内親王 新古今和歌集

番外編 

   「 鴨喰ふや 湖(うみ)に生身の 鴨のこゑ 」 森澄雄

以下は「池波正太郎著 鬼平料理帳  佐藤隆介編 文春文庫」より

 『 鴨鍋、鴨汁、鴨雑炊、鴨雑煮、鴨のお狩場焼、鴨飯、そうそう
   鴨南蛮を忘れるわけにはいかない。
   江州、長浜に琵琶湖のうまい鴨を食べさせる有名な専門店のあることを
   知っていても、私なんぞ簡単に行けるわけではない。

   それで、せめて浜町の「藪」へでも駈けつけて
   「お酒を一本、それから鴨南蛮をおねがいします」ということになる。

   鴨の肉は脂のついたままを すき身にするのが定法で、これがびっしり並んだ
   熱々の鴨南蛮をすすりこむと、全身に活力がみなぎってくる、ような気がする。
   ちなみに鴨南蛮のナンバンとは葱の異名だそうな。

   「鴨が葱を背負ってきた」といわれるぐらい、鴨には葱がつきものである。
   しかし、料理の本では、鴨に最もよく合うものは芹と教えている。
   たっぷりと脂のついた鴨の肉は、どちらかといえばくどい感じになりやすいから、
   芹で味を中和させるのである。 』

筆者注:

 江戸時代、大阪の難波村は葱の大産地。
 その「ナンバ」が「ナンバン」に転訛したもの。

 「アイガモ」は「アヒル」と「マガモ」を交配させたもの。
 ほとんどの店の鴨南蛮はアイガモが使われ、
 野性のマガモを食べさせる店は少なくなっているそうな。

       「 寒入りは まず鍋焼きに 鴨南蛮 」  筆者


       万葉集668 (鴨の季節)完


     次回の更新は1月26日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2018-01-18 17:08 | 動物

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