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万葉集その六百七十 (雪の歌)

( 筑波山雪景色 )
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( 箱根 強羅 )
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( 高千穂神社  佐倉市 )
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( 雪の梅  皇居東御苑 )
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(  桜の蕾  同上 )
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(  木の枝が美しく映える 皇居東御苑 ) 
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   万葉集その六百七十 (雪の歌)

雪は古くから詩歌、文学の好材料とされ、万葉集で150余首も詠われています。
特に古代大和では冬の厳しい寒さにもかかわらず、積雪が少なく、
稀に大雪になると子供のようなはしゃぎよう。
加うるに白雪は白米とみなされ、豊穣のしるしとして為政者も寿ぎ喜んだのです。

「 大宮の 内にも外(と)にも めづらしく
       降れる大雪  な踏みそね惜し 」  
                 巻19-4285 大伴家持

( 大宮の内にも外にも一面に 珍しく降り積もっている大雪。
 この見事な雪を踏み荒らしてくれるな。勿体ない。)

753年、正月11日 都に大雪、新暦2月中旬の頃です。
佐保の自宅から出仕してきた作者は宮中の広場の足跡もない美しい景色を
目の当たりにして、心躍る思いだったのでしょう。
感動と喜びがあふれる一首です。

     「な踏みそね」:「な」-「そね」禁止を表現する語法


「 松陰の 浅茅が上の 白雪を
          消たずて置かむ ことは かもなき 」  
                    巻8-1654   大伴坂上郎女

( 松の木陰の上の白雪、
  この雪をそのまま消さないで残しておく手だてがないのが残念です。)

   ことは かもなき: 「こと」は「事」で「手段」 
               「かも」は疑問 

周囲の雪が消え、松陰にのみ わずかに消え残る雪に深い愛惜を述べたもの。
万葉人がいかに雪を珍しく、また、好ましく思っていたのか窺われます。


津軽の雪は「こな雪」「つぶ雪」「わた雪」「みず雪」「かた雪」「ざらめ雪」
「こおり雪」 (太宰治著 津軽 新潮文庫) とよばれているそうですが
万葉集では単なる「雪」と詠ったもの(105首)、淡雪(15)、み雪(14)、白雪(8)、
大雪、雪解,霜雪、はだれ、初雪など負けず劣らず多彩な表現がなされています。

いずれも「雪よ降り積もれ」と詠ったものが多い中、次の歌は恋人との逢瀬を前にして、
「雪よ降るな」と願った珍しい例です。

「 わが背子が 言(こと)うるはしみ 出(い)でて行(ゆ)かば
      裳引き(もびき)しるけむ  雪な降りそね 」 
                            巻10-2343  作者未詳

( あのお方の優しいお言葉に引かれて外に出て行ったら
  裳を引きずった跡がはっきり残ってしまいます。
  雪よ! そんなに降り積もらないでおくれ。)

   「 言(こと)うるはしみ 」: 「やさしさに心惹かれる」の意
   「 裳引きしるけむ 」 : 「裳の裾を引きずって歩いた跡」の意

今日は待望のデートの日。
男は「家の近くに来たら合図をするから出てこいよ」と約束してくれた。
ところが生憎、雪が降りしきっている。
スカートのような長い裳を引きずって行ったら跡が残ってまわりのものに
知られてしまう。
恋は秘密にというのが当時の定め、噂になったらどんな中傷があるか分からない。

「 どうしょう、雪よ積るな、消えておくれ。」

と天を仰ぎながら願う乙女です。

  「 大原の をか(丘)の お神が 降らす雪
            大和国はら(原)   道もなきかな 」   上田秋成

江戸時代後期、雨月物語で知られた作者は雪の秀歌を多く残しました。
上記の歌は万葉集から本歌取りしたものです。

「 わが岡の おかみに言ひて 降らしめし
                 雪の砕けし そこに散りけむ 」    
                        巻2-104 藤原夫人(ぶにん)

( 恐れながらこの雪は私が岡の水の神に言いつけて
      降らせたものでございますよ。
      その雪のかけらがそちらに散ったのでございましょう)

ある日、飛鳥、浄御原(きよみがはら)宮に大雪が降った。
喜んだ天武天皇は実家に帰っている側室、藤原夫人に次のような歌を届けた。
夫人がいる大原(明日香村小原)は、天皇の住居と500mも離れていないのに、
「お前の住む大原は古ぼけた田舎の里」と揶揄され、

「 わが里に 大雪降れり 大原の
    古りにし里に 降らまくは後(のち)」  
                        巻2-103 天武天皇

( オ-ィ わが里に大雪が降ったぞ! 
  そなたは今、大原に里帰りしているようだが
  その古ぼけた里に降るのはずっと後のことであろうなぁ。 )

藤原氏は先祖中臣氏以来、宮廷に伝わる聖なる水の信仰を管理する家柄で
夫人は「 雪をも司る水の神、竜神の本家はこちらでございますよ。
ご自慢なさるのはおかしいわ 」と やり返し、さらに

天皇の「里」に対して「岡」 「大雪」に対して「雪の砕けし」 
「降る」に対して「散る」と機知あふれる応対をされたもので、
二人の仲睦まじい様子が頬笑ましい一幕です。

「 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
          吉野の里に 降れる白雪 」 
                        坂上是則 古今和歌集 百人一首

「朝ぼらけ」: 夜がほのぼのと明けるころ。

大和の吉野で旅寝の朝、目をさましてみると外がぼうっと明るんでいる。
有明の月の光がさしこんでいるのかしら、といぶかって見ると
夜のあいだに一面薄雪が降り敷いていた。
明け方、まだ人の動きも見えない静まりかえった山里。
静寂、清々しさを感じさせる秀歌。
作者は征夷大将軍、坂上田村麻呂の四代の子孫と伝えられています。

「 竹ほどに 直(すぐ)なる物は  なけれども
                ゆきゆき積もれば  末はなびくに 」   隆達小歌

      ゆきゆき: 雪々と行々を掛けている

( いかに真っ直ぐ立っていようとも、雪が積もれば竹だとて
  しまいには枝を垂れなびかせる。
   あの子だって、この俺が行き行き、頻繁に通えばきっと靡くさ。 )


        万葉集670 雪の歌 完


         次回の更新は2月9日(金)の予定です。

by uqrx74fd | 2018-02-01 14:31 | 自然

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