万葉集その六百八十五  (みどり児)

( 筆者1歳のころ  むかしは3歳までをみどり児といった )
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( 奈良時代の中流官吏の子供  奈良万葉文化館 )
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( 左 甘えっ子 岩崎ひひろ風  右 叱られて  作 筆者 )
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( みんなで渡ろう   六義園 東京 )
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万葉集その六百八拾四 (みどり児)

「みどり児」(みどりこ)は生まれたばかりの赤ちゃんや3歳くらいまでの
幼児をいいます。
「みどり」という言葉は本来、
「木々の新芽のように瑞々しく生命力に溢れている」の意とされ、
「瑞々」の「みず」から「みどり」に転訛し、後に色名になったものです。

702年施行の大宝律令に「男女を問わず3歳以下を緑となす」また
戸籍帖にも「緑児」「緑女」とあり、1300年も前からの由緒ある「みどり児」。

現在は「嬰児」と書かれることが多く末尾は濁音で「みどりご」と訓みます。

「嬰」という字は「貝の首飾りをつけた女の子」とする会意文字説と
「えんえんと泣く赤ん坊の泣き声」をあらわす「嚶:えい:なき声」と
同系の擬声語(漢字源)とする説があり、どちらとも定まっておりません。

 万葉集では9首登場していますが、まずは面白歌から。

「 みどり子の ためこそ乳母(おも)は 求むと言え
             乳(ち)飲めや君が  乳母(おも)求むらむ 」 
                        巻12-2925 作者未詳

(  乳母は赤子のためにこそ探し求めるものと云います。
  それなのにあなたはいい年をして私の様な乳母を求めるのですか。)

女が年下の男から求婚され、はねつけた歌のようです。
「 いい年をして私のお乳が欲しいの? 赤子でもないのに。」
からかいながらやんわりと拒絶。
自身を婆さんに見立てて相手を思いやっているユーモアたっぷりの一首です。

「 我が背子に 恋ふとにあらし みどり子の
      夜泣きをしつつ  寐寝(いね)かてなくは 」
                               巻12-2942 作者未詳


( いとしいあなたに心から恋焦がれてしまったみたい。
 まるで赤子のように夜泣きしながら、眠ろうにも眠れずにいる私 。)

好きになってしまった男の面影を目に浮かべながら夜ごとに
忍び音をもらす可愛い女。
ところが相手は「口先ばかり」のいい加減な男だったようです。
「 あぁ、口惜しい、長生きをしてとっちめてやりたい」
と後の歌にありますが、それでも憎みきれないいじらしい女心。

「 時はしも いつもあらむを 心痛く 
      い行く我妹(わぎも)か  みどり子を置きて 」
                       巻3-467  大伴家持

( 死ぬときはいつだってあろうに、よりによって今の今、
 私の心を痛ませて なぜ逝ってしまうのか。
 可愛いい幼子をあとに残して。)

736年ころ16歳の家持は「妾(しよう)」のもとに通っており、
二人の間に3歳ばかりの女の子がいました。
「妾」とは正妻に次ぐ妻の一人で当時の社会では公に認められた慣習ですが
この女性がいかなる人かは不明。

それにしても家持さん16歳にして子持ちとは驚き。

なお、この「おさな児」は後に美しい女性に成長し藤原家に嫁しています。

「 銀(しろがね)も 金(くがね)も玉も 何せむに
       勝れる宝 子に及(しか)めやも 」 
                              巻5-803  山上憶良

子に対する愛情を詠い今なお多くの人の胸を打つ名歌ですが、
現代の歌人も負けず劣らず切々たる心情を述べています。

「 あるときは 寝入らむとする 乳呑児の
     眼ひき鼻ひき  たはむれあそぶ 」            若山牧水


「 神の恵み 深く尊く授かりし
             子ゆえに親は  いのちのぶらく 」     伊藤左千夫

             いのち のぶらく : 命がのびるのだろう

「 神の手を いまだ離れぬ 幼児(おさなご)は
          うべも尊く 世に染まずけり 」         伊藤左千夫

「 幼児が 母に甘ゆる 笑み面(おも)の
         吾(あ)をも笑まして 言(こと)忘らすも 」      島木赤彦

多くの子供を抱え生活も決して楽ではない歌人たち。
それでも愛情たっぷり、明るく詠っています。
    
     「 万緑の 中や吾子の歯 生え初むる 」  中村草田男

              緑と白い歯の対比が鮮やかな名句。

最後に思い出の名歌です。

「 こんにちは 赤ちゃん 」

「 こんにちは 赤ちゃん あなたの笑顔
  こんにちは 赤ちゃん  あなたの泣き声
  
  その小さな手 つぶらな瞳
  はじめまして  私がママよ

  こんにちは 赤ちゃん あなたの生命(いのち)
  こんにちは  赤ちゃん あなたの未来に
  
  この幸福(しあわせ)が  パパの希望(のぞみ)よ
  はじめまして  わたしがママよ

  二人だけの 愛のしるし
  健やかに 美しく 育てと祈る

  こんにちは赤ちゃん お願いがあるの
  こんにちは 赤ちゃん 時々はパパと

  ほら二人だけの 静かな夜を
  つくってほしいの おやすみなさい

  おねがい赤ちゃん  おやすみ赤ちゃん
  わたしが ママよ    」

 ( 作詞 永 六輔  作曲 中村八大  歌 梓 みちよ)



万葉集 685 (みどり児)  完





     次回の更新は6月25日(金) の予定です。
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by uqrx74fd | 2018-05-17 17:47 | 生活

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