万葉集その六百八十七 (花かつみ)

( 花かつみ  現代名 ノハナショウブ  奈良万葉植物園 )
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( 花ショウブ   潮来 )
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(  同上 )
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(  花ショウブの別名は早乙女花  花言葉は 優雅  潮来 )
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    万葉集その六百八十七(花かつみ)

花かつみはアヤメ科の多年草、ノハナショウブの古名で、
現在いたるところでみられる花ショウブの原種とされています。(諸説あり)

日当たりの良い草原や湿原に生え、紫の花弁の基部に黄色い模様、葉は剣形。
華麗な花が多いアヤメ科の中にあって飾り気なく、すらりと立つ姿に気品があり、
心惹かれる花の一つです。

ところが万葉集ではたった1首。
菖蒲(しょうぶ)12首、杜若7首も詠われているのにどうしたことか?

当時、何の花かよく知られていなかった、あるいはカキツバタと
混同されていたのかもしれません。

「 をみなへし 佐紀沢(さきさは)に生ふる 花かつみ
                 かっても知らぬ  恋もするかも 」 
                         巻4-675 中臣郎女

( おみなえしが咲くという佐紀沢に生い茂る花かつみではないが
 かって味わったこともない切ない恋をしてしまったことです。)

作者は伝未詳。
大伴家持に恋した歌5首の中の1。

「花かつみ」の季節にはじまった家持への思慕。
それは今まで経験したことがない激しい恋。
でもその気持ちは相手には伝わっていない。
私だけの心に秘めていつまでも慕い続けましょうと詠う純情な乙女です。

をみなえし:佐紀沢の枕詞 : 
       おみなえしが「咲く」と佐紀(さき)の同音に掛けた。

佐紀沢:  奈良平城京北辺にある水上池周辺の湿地帯
      大伴家が住む佐保に近く、貴公子家持の姿を見て憧れていた?

花かつみ : 花ショウブの原種、ノハナショウブ。 
         他に真菰(マコモ)、アシ、カタバミ説もあるが恋の歌には
         ノハナショウブが相応しい。

  「かつみ」と「かって」の同音を掛けている。

「 みちのくの あさかの沼の 花かつみ
        かつ見る人に 恋ひやわたらん 」 
                         よみ人しらず  古今和歌集

( 陸奥の安積の沼の 花かつみではないが
 一方で既に夫婦同然の関係なのに、他方では人の噂を慮(おもんばか)って
 自分の気持ちが他人に知られないよう心の奥底に秘めている日々。
 あぁ、これからもずっとこのような状態が続くのか。
 切ない切ない私の恋よ。)

     あさか(安積): 福島県安積郡日和田町

     「みちのくの あさかの沼の 花かつみ」: ここまでが「かつ」を導く序。

     「かつ」: 一方で。  「かつ消えかつ結びて」などと使われる

     「わたる」:継続、ここでは 「恋し続ける」

身も心も既に一体の関係。
晴れて結婚したい、堂々と人目はばからずに一緒に歩きたい。
でも、それは叶わぬ夢。
嘆きながらも半ば諦めの気持ちの作者。

二人の関係は不倫の恋、何らかの事情による周囲の反対、
あるいは聖職による禁断の恋なのでしょうか。


以下は2018年5月24日付、読売新聞「暦めくり」からです。
                      ( 編集委員 斎藤雄介氏 )

『 万葉集に「花かつみ」という謎の花がでてくる。
  その正体をめぐって、江戸時代から議論になってきた。

  「おくのほそ道」で福島の安積山(あさかやま)あたりにたどりついた芭蕉は
  「どの草が花かつみか」と地方の人に聞いてまわった。

   歌の世界では、花かつみは安積山の沼に生えているとされていたからである。
   安積山のふもとにあったという大きな沼で、芭蕉のころには
   田んぼになっていたという。

   でも、だれも花かつみを知らない。
   「かつみ、かつみ」と尋ね歩いて、日が暮れてしまった。

   幻の花、花かつみ。
   芭蕉もわからなかったその正体は、マコモであるというのが今の定説と
   なっている。
   しかしマコモの花は地味で、幻の花というほどの美しさがない。

   ノハナショウブこそ花かつみだという説もある。
   わたしは、こちらを信じたいと思う。
   芭蕉のあこがれにふさわしい花である 』   (以下省略)

       「 堀切や 菖蒲花咲く 百姓家 」  正岡子規

花ショウブは江戸時代、大々的に品種改良がなされ、その数二千以上に
達したといわれています。
江戸,肥後、伊勢系などいくつかの系統があり、その華やかさを競い合いながら
多くの人々を楽しませてきました。

湿地でも乾燥地でも栽培出来、花も大きく色も紅紫、紫、白、淡紅など様々。
模様も変化に富み、今日の菖蒲園で一番多く見られる品種です。


     「 はなびらの 垂れて静かや 花菖蒲 」    高濱虚子




             万葉集687( 花かつみ )  完


             次回の更新は6月8日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2018-05-31 17:30 | 植物

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