万葉集その六百九十六 (立秋の七夕)

( 仙台七夕は8月に開催される )
b0162728_112333.jpg

( 古式豊かな模様  同上 )
b0162728_1114877.jpg

(  斬新な模様も  同上 )
b0162728_1113120.jpg

( 月の船  上田勝也  奈良万葉文化館蔵 我が国では牽牛が織姫のもとへ)
b0162728_1111425.jpg

( 月の船 藤代清二 中国伝説では織姫が牽牛のもとへ )
b0162728_1105658.jpg

   万葉集その六百九十六 (立秋の七夕)

我国の7月7日、七夕節会の記録は持統天皇の691年が最古とされています。
現在の8月上旬、立秋の頃、天皇列席のもと公卿以下が参列して宴を賜り、
朝服を下される宮廷儀礼でした。

さらに734年、聖武天皇の時代になると、7月7日に相撲を奉納し、
その夕方、文人に七夕の歌を詠ませる行事が定着し、相撲と七夕の節会を
同じ日に行ない、五穀豊穣、国土繁栄を祈ったのです。

一方、民間では古くから夏秋の行き会いの時期に水辺に掛け作りにした棚の上で
遠来のまれびと神の訪れを待って機(ハタ)を織るタナバタツメの習俗がありました。
「タナバタツメ」とはタナ(横板)を付けたハタ(機)で布を織る女(ツメ)の意です。

偶然にも中国には女子が機織り等の手芸で巧みになる事を祈る
乞巧奠(きこうでん)という古来の行事がありました。
さらに7月7日の夜、織姫星が天の川を渡って牽牛星に逢うという
空想豊かな恋物語を遣唐使(山上憶良?)が帰国後、伝えたところ、
このロマンティクな伝説は、たちまち人々の心をとらえ、かつ魅了しました。

そして我国古来の「タナバタツメ」に中国伝来の七夕という字を当て
「タナバタ」とよんだのです。

万葉集で「天の川」を詠ったものは130首余もありますが、
中國の物語と違うところは2つ。

我国では通い婚の風習があったため、牽牛が織姫のもとに通う。
( 中国では織姫が牽牛のもとに通う )

いま一つは、空想の物語を現実の自分の身に置き換えて詠う、
そう、柿本人麻呂、山上憶良らが天上の物語を一気に庶民のものとしたのです。

「 天地(あめつち)と 別れし時ゆ 己(おの)が妻
          しかぞ離(か)れてあり  秋待つ我は  」 
                        巻10-2005 柿本人麻呂歌集

( 天と地と別れたはるか遠い時代からずっと
 わが妻とこのように別れ別れに暮らしていながら
 ひたすら秋が来るのを待っているのだ。この私は。)

 当時は男性が女性のもとに通うのが習い。
 しかも、月が出ている間に訪れ、夜が明けぬ間に帰る。
 そう頻繁に通えるものではありません

「 渡り守  舟早(はや)渡せ 一年(ひととせ)に
         ふたたび通ふ 君にあらなくに 」
                  巻10-2077  作者未詳

( 渡し守よ 舟を早く岸に着けて下さいな。
 1年のうちに2度も通ってこられる方ではないのですから。)

今か今かと待ち続ける織姫は現実の私。
祈るような気持ちで詠っています。

「 天の川 相向き立ちて 我(あ)が恋ひし
        君来ますなり  紐解き設(ま)けな 」 
                           巻8-1518 山上憶良

( 天の川、この川に向かい立ってお待ちしていました。
いよいよ、愛しいあの方がお出でになるらしい。
さぁ、衣の紐を解いてお待ちしましょう。 )

万葉集で年代がはっきりしている最初の七夕歌とされています。
この「紐解き設(ま)けな」で、天上の物語が一気に現実のものになりました。
7月7日は男が女を訪ね、相睦む日になったのです。

 「 恋ふる日は 日(け)長きものを 今夜(こよひ)だに
            ともしむべしや  逢ふべきものを 」
                巻10-2079  作者未詳

( 恋焦がれた日が随分長かったんだもの、せめて今宵だけは
 飽き足りない思いをさせないで。
 今夜は誰にも遠慮なく逢うことが出来る日なのだから 。)

        ともしむべし や: 「物足りなく思わせる」の意 「や」は反語

「 ただ今夜(こよひ)  逢ひたる子らに 言(こと)どひも
          いまだ せずして さ夜ぞ明けにける 」
                       巻10-2060  作者未詳 

( 年にたった一夜の今宵。
 やっと逢うことができた愛しい子と、まだ満足な言葉も
 交わさないうちに夜が明けてしまった。)

久しぶりにお互い心ゆくまで抱き合い話をする間もなかった。
無常にも夜明けが近づいてくる。
そして別れの時間です。                 

 「天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船
          星の林に  漕ぎ隠る見ゆ 」  
                    巻 7-1068  柿本人麻呂歌集

舟に乗って帰ってゆく愛しい人。
空を見上げると、煌々と輝く三日月。
あたかもあの人を乗せて行く舟のよう。
雲の波、きらめく星の林。

あぁ、次第に遠ざかって行く。
さようなら、また会う日まで。

 「 七夕や 逢えばくちびる のみとなる」  水原秋桜子

七夕行事は夏の7月7日に行う地方も多いですが、本来は初秋のもの。
季語も秋に分類されております。
立秋、この時期になると夜空が澄みはじめ星もさやかに見えるのです。
 
  「 星合(ほしあひ)の 夕べすずしき 天の川
              紅葉の橋を  わたる秋風 」 
                       藤原公経  新古今和歌集

( 七夕の夕べは涼しく、 天の川に架けられた もみじの橋を
    秋風が涼やかに吹きわたるよ )

古代、機織りの上達を願って行われた七夕行事は、次第に拡大解釈されて
様々な願い事を星に祈る行事に変わり、江戸時代、庶民の間に
手習いが広まると、色とりどりの短冊に願い事を書いて笹竹に飾るようになり
現在に至っています。

  「 七夕や 秋を定(さだむ)る 夜の初(はじめ)」 芭蕉

 今年の立秋は8月7日。
 間もなく朝夕涼しい風が吹きはじめることでしょう。


         万葉集696(立秋の七夕)  完


         

       次回の更新は8月10日(金)の予定です。
 
[PR]

by uqrx74fd | 2018-08-02 11:09 | 生活

<< 万葉集その六百九十七 (雲の峰)    万葉集その六百九十五 (雷神) >>