万葉集その七百二 (山梨)

( 山梨 万葉人は花や実より黄葉を愛でた  奈良万葉植物園 )
b0162728_1044370.jpg

(  山梨の実は小ぶりで酸味あり   同上 )
b0162728_104233.jpg

(  山梨の花   同上 )
b0162728_104275.jpg

( 白い清楚な花は美女の代名詞   同上 )
b0162728_1034717.jpg

 万葉集その七百二 (山梨)

万葉集で詠われている「梨」は西日本以南に分布する落葉高木の「山梨」と
されています。
弥生時代、稲作とともに中国から渡来した我国最古の果物の一つで、
現在食されている「二十世紀」「長十郎」などの原種に近いものと
推定されていますが、実は小さく、酸味も強かったようです。

春、若葉開く頃、五弁の白い花が咲き、その美しさは古来、美女に形容されて
きました。
また梨は腸の働きを良くし、便秘解消、利尿作用、さらに腎臓病に効ありと
されており、693年、持統天皇は
「 桑、からむし(苧麻:ちょま)、梨、栗、青菜などの草木を植え、五穀の助けとせよ」

との詔を下し全国に栽培をすすめたとの記録(日本書紀)されている有用の植物です。

万葉集では4首、面白いことに梨の実や花ではなく葉の黄葉を
詠ったものばかりです。

 「 十月(かむなづき) しぐれの常か 我が背子が
     やどの黄葉(もみちば) 散りぬべく見ゆ 」 
                            巻19-4259 大伴家持

  ( 十月の時雨はこの時期の習いなのでしょうか。
    あなたさまの庭の梨の葉は色づき、またとなき美しさ。
    今にも散りそうに見えるくらいですが
    いつまでも、この景色を見ていたいものです。)

この歌の後書きに「時に当たりて梨の黄葉を見てこの歌を作る」とあり、
紀飯麻呂(きの いまろ)という官人宅での宴席で梨の黄葉の盛りを褒め、
主人を讃えた一首です。

「しぐれ」は紅葉を促し、かつ散ることを早めるものとされていました。
作者は盛りの梨の黄葉が雨に濡れて、今にも散りそうな様子に風趣を
感じたようです。
主人を褒めるのに「散る」という表現はそぐわないような気がしますが、
気楽な宴席だったからでしょうか。

 「 霜露の 寒き夕(ゆうへ)の秋風に
      もみちにけらし 妻梨の木は 」  
                   巻10-2189 作者未詳

( 露が置き、秋風もひとしお寒く感じられるこの夕べです。
    この寒さで妻なしという梨の木もどうやら色づいたようですね。)

    「妻梨」は「妻なし」で恋人もいない一人身。

夕べは男女の出会いの格別な時間帯。
そんな中でのわびしさは一入。
かわいそうな妻梨さんよと自嘲のからかいがこもる一首です。

    「 甲斐が嶺に 雲こそかかれ 梨の花 」  蕪村

昔、甲斐の国は山梨、八代、巨摩、都留4つの郡がありましたが、
明治4年11月、廃藩置県で「山梨県」になりました。

その地名由来はバラ科ナシ属の「ヤマナシ」という木が多く、
奈良時代、既に「山梨郡」がみられたことによるとされています。(通説)

その他、「なし」は「成す」の連用形「成し(~のある所の意味)」で
「山成し」を由来とする説や、反対に土地が平らで山が無かったことから、
「山無し」の意味とする説もありますが、この両説はピンときません。

   「 法隆寺の まへの梨畑 梨の実を
            ぬすみし若き  旅人なりき 」  若山牧水

我国は世界的な梨の生産国。
江戸時代には150以上の品種がつくられ、今や1000品種あるとか。
果皮の色から黄褐色の赤梨、淡黄緑色の青梨に大別され、赤梨系が主流。
その代表銘柄は幸水、豊水、新高、長十郎。 
青梨の代表格二十世紀。 
産地のベスト3は千葉、茨城、栃木県とされています。(2016年)

熟した果実を生食するほか、ジャムや果実酒の原料にも。

日本梨特有のシャリシャリとした歯触りは秋の味覚の醍醐味ですが、
欧米ではあまり好まれず砂のようだという意味で「サンド・ペア」と
よばれているそうな。

  「 梨むくや 甘き雫の 刃を垂るる 」  正岡子規




     万葉集702 (山梨)  完

     次回の更新は9月21日(金)の予定です。
[PR]

by uqrx74fd | 2018-09-13 10:12 | 植物

<< 万葉集その七百三 (虫の声)    万葉集その七百一(秋さらば) >>