万葉集その七百十 (雁の秋)

( 雁飛来  伊豆沼 宮城県 )
b0162728_15452226.jpg

( 雁いろいろ  野鳥図鑑 )
b0162728_1545841.jpg

( 月に雁  歌川広重 )
b0162728_15445324.jpg

( 月下の雁  菱田春草 )
b0162728_15443793.jpg

万葉集(雁の秋)

「 雁の声 すべて月下を 過ぎ終わる 」  高野素十

毎年9月中旬から10月上旬にかけて国の天然記念物マガンの群れが
国内最大最北の寄留地、宮島沼(美唄市西美唄町)に飛来します。
シベリアから南下して宮城県伊豆沼などへ向かう途中の羽休めで、その数
ピークで約36000羽。
かって全国いたるところで見られた雁は今や北陸と東北地方の一部で
越冬するのみです。

古の人は、雁は常世の国から飛来する神の使者と考えており、
「遠つ人、かり」と枕詞を冠し、また「天つ雁」ともいっていました。

人々は上空を鳴き過ぎる雁の声を熱心に聞き入って「雁音(かりがね)」とよび、
のちに「がね」を接尾語風にみなして雁そのものをいうようになります。

農家の人たちは雁を迎えると、作物の収穫時を知り、文人画家は
秋空に整然とV字型や1列の隊列を組んで渡る雁行や雁の声に
旅情や哀感をそそられ、歌を詠み絵に描いたのです。

万葉集では65余首、鳥類ではホトトギス155首に次ぐ多さです。

「 この夜らは さ夜更けぬらし 雁が音の
    聞こゆる空ゆ  月立ち渡る 」 
                         巻10-2224 作者未詳

( 今夜はもう夜が更けたらしい。
 雁の声が聞こえてくる空を、月が渡ってゆく )

宴会での歌らしく、月と雁の取り合わせが早くもこの時代に出てきます。

マガンは飛びながら「カハハン、カハハン」、「カリカリ」
「クワッカカッ、クワッカカッ」と遠くに響き渡る声で鳴きます。

「雁」という字はカリ、カリガネ ガン、と読み、江戸時代からは
語勢を強める「ガン」が多くなったようです。

「 天雲の 外(よそ)に雁が音 聞きしより
          はだれ霜降り 寒しこの夜は 」 
                      巻10-2132 作者未詳

( 天雲の遥か彼方に雁の鳴き声を聞いたその日から
  薄霜が置いて寒いことだ、このごろの夜は。)

晩秋、冬到来の兆し。
雁が寒さを運んできたなぁと、しみじみ感慨にふける作者。

   「はだれ霜降り 」 : うっすらと降り置いた霜 
                原文は「薄垂(はだれ) 霜雫(しも降り)」

「 鶴(たず)がねの 今朝鳴くなへに 雁がねは
        いづくさしてか 雲隠るらむ 」  
                  巻10-2138 作者未詳

( 鶴がこの朝鳴きたてている。
 折しも雁の声が遠ざかってゆくが、一体どこをめざして
 雲隠れしてとんでいるのであろうか )

鶴の声に対して雁声が薄れてゆく寂しさを詠ったもの。
当時奈良や難波で鶴や雁が多く見られたようです。


「 葦辺(あしへ)にある  荻(おぎ)の葉さやぎ  秋風の
        吹き来るなへに 雁鳴き渡る 」 
                      巻10-2134 作者未詳

( 葦辺に生えている荻の葉がさやさやとそよぎ
 秋の風が心地よく吹いてくる折しも雁が大空を鳴き渡ってゆくよ。)


 葦、荻、秋風、雁が音。
いかにも秋の情緒を感じさせる1首です。

   「 雁低く 薄の上を 渡りけり 」 正岡子

薄(ススキ)、月、などを好んで絵に描いたのは、歌川広重と菱田春草
特に広重の「月に雁」は特別仕様の切手になっており、
今や希少品になりました。

       「月よぎる けむりのごとき 雁の列 」 大野林火


                万葉集710 雁の秋 完


         
         次回の更新は11月17日(土)の予定。
          (通常より1日遅れます)
[PR]

by uqrx74fd | 2018-11-07 15:50 | 動物

<< 万葉集その七百十一 (明日香の石橋)    万葉集その七百九 (爽籟:そうらい) >>