万葉集その七百十四 (恋の面白歌3)

(恋の花 合歓:互いに合い歓ぶの字は意味深長)
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( 邪鬼 法隆寺五重塔)
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( 想 鹿島喜陌:きよみち 奈良万葉文化館蔵 )
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( 天平祭  平城京跡 奈良 )
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万葉集その七百十四 (恋のおもしろ歌3)

万葉集4500余首のうち約70%が恋の歌。
どの巻を紐解いても恋歌ばかりです。
植物、動物、自然の情景、旅の歌を詠っているように見えても
落ち着くところは、恋人に対する切ない想いを寄せた歌がほとんど。

初恋、火のように燃え上がる恋、心に秘めた恋、人妻への憧れ、
老いらくの恋、片想い、亡き人への愛惜、旅先での慕情等々。
その中で、ユーモアの中にもペーソスが感じられる歌を。

「 家にある 櫃(ひつ)に鏁(かぎ)さし 収めてし
     恋の奴が つかみかかりて 」 
                      巻16-3816 穂積親王

( 家にある櫃(ひつ)に錠前を下して、
      ちゃんとしまいこんでおいたはずなのに
      恋の奴め! 
      またしっこく掴みかかってきよって 。)

作者は天武天皇第五皇子。
宴席で機嫌が良くなると良く詠った十八番(おはこ)だそうです。

櫃(ひつ)は蓋つき木箱の物入れでそれ自体装飾された美術品。
鏁(かぎ)は錠前、金編に巣と書きます。

この皇子、よほど女にもてたのか、美貌の天平最高の才女、大伴坂上郎女(家持の叔母)と
結婚し、さらに異母兄高市皇子の妻、但馬皇女を寝取るなど、
華々しい恋の遍歴の持主です。
「恋の奴」という造語も素晴らしい。

但馬皇女との不倫は一大スキヤンダルとなり、持統女帝が穂積を山寺に
蟄居させる騒ぎとなりましたが、皇女の一途な恋はやまず、終生続いたようです。

この歌もおどけながら、亡き皇女にたいする想いを詠ったのかもしれません。

「 寺々の 女餓鬼(めがき)申さく 大神(おほみわ)の
        男餓鬼(をがき)賜(たば)りて その子生まはむ 」
                              巻16-3840 池田朝臣

( 寺々の女餓鬼どもが口々に申しておるぞ。
 大神の男餓鬼をお下げ渡し戴き、そいつの子をたくさん産みたいとな。)

池田某が大神という名の瘦せ男をからかった。
餓鬼は悪業の報いとして餓鬼道に落ちた亡者。
やせ細って喉が細く、飲食することができないので常に飢え渇きに
苦しむ人のことです。

寺々の瘦せ女が、「 瘦せ男のお前の子をいっぱい産みたい」と
神様に頼んでいるぞ。というのですが、大神と云う名は三輪山の神を祀る一族。
神職の男に仏教の男餓鬼をあてた二重の痛烈なからかいです。

「 相思はぬ 人を思ふは 大寺の
     餓鬼の後方(しりへ)に 額(ぬか)つくごとし 」 
                         巻4-608 笠郎女

( 私を想ってもくれない人を想うのは 大寺の餓鬼像を後ろから
 額ずいて拝むようなもの。
 あぁ、もうやめた! あほらしい。)

作者は大伴家持を熱烈に愛し、24首も歌を送りましたが、
かなり年上だった上、家持の好みに合わなかったのか全く相手にされない。

「 あなたを想うのは餓鬼像の尻を拝んでいるようなもの」
と開き直った作者。

奈良の大寺に飾られている餓鬼道に落ちた亡者の像は
仏像の足もとに踏みつけられている哀れな姿をしています。
そんな像を拝んでもご利益がない。
ましてや後ろ姿なんて。
自分自身の姿を餓鬼像に重ねたのかも知れません。

傷心のはて故郷に帰ったが、それでも諦めきれずまた歌を送る。
その恋のお蔭で、笠郎女は劇的な恋の秀歌を詠った万葉女性歌人として
歴史に名を残すことになりました。
自分の恋文を受けとった家持が、万葉集に載せて公開するなどとは
夢だにも思わなかったことでしょう。

「 眉根(まよね)掻き 鼻ひ紐解け 待つらむか
           いつかも見むと 思へる我れを 」
                          巻11-2408 作者未詳

( 眉を掻き くしゃみをし、下着の紐を解いているだろうか。
 何時この俺様にいつ逢えるだろかと首を長くして待っているあの子。 )
  
当時、眉根の根元が痒くなったり、「ハクション」とくしゃみをしたり、
着物の紐が自然に解けると男が訪れると信じられていました。

「 可愛いおぼこの娘は自ら着物の紐を解き、胸をはだけながら、
愛しい俺様を瞼にえがいている。」

と、ちよっと憎たらしいほどの自信満々の男。
今はやりのイケメンだったのでしょうか。
新鮮なエロティシズムを感じさせる1首です。

  「 よしなあの ひくいは少し 出来かかり 」 江戸川柳

『 男が露骨に迫ると、女が「よしなあ(止してよ) 」と拒む。
  だが、それは大声ではなく「ひくい」声で。
  彼女もだいぶオツな気分が出来かかっているのだ。
  艶笑小説などの“いやよ、いやよも好きのうち”である。 』

      ( 下山 弘著 川柳のエロティシズム 新潮選書) より


           万葉集714(恋のおもしろ歌3) 完

           次回の更新は7月14日(金)の予定です。
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by uqrx74fd | 2018-12-06 15:32 | 心象

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