万葉集その七百十九 (嫁菜:よめな)

( 嫁菜は美味な野菜 奈良万葉植物園 )
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( 嫁菜の花 青  浄瑠璃寺 京都 )
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(嫁菜の花 白 東大小石川植物園 )
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( 枯れ蓮の周囲に咲く嫁菜の花 )
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  万葉集その七百十九(嫁菜:よめな)

ヨメナはキク科の多年草で本州中部以西の山野や田の周囲など、
やや湿った場所に多く見られ、秋に青紫,白色の可愛い小花を群生させます。

古くは「ウハギ」「オハギ」とよばれ、前川文夫氏によると
「オハギ」は「麻剥ぎ(おはぎ)」で枯れた茎が霜で皮がささくれているさまが
「麻(オ)の皮を剥ぐ」のに似ているからとされていますが今1つピンときません。
                          (植物の名前の話:八坂書房)

また、現代名のヨメナは「嫁菜」でその由来は
「食用とする若芽の中で最も美味で形が美しい」
「若葉が柔らかくて、花が可愛い」
など諸説あり、いずれも新妻の楚々とした美しさに譬えたものです。

万葉集には2首、すべて「ウハギ」と詠われています。

「 春日野に 煙立つ見ゆ 娘子(をとめ)らし
           春野のうはぎ  摘みて煮らしも 」        
                           巻10-1879 作者未詳

( 春日野の方に煙が立っているのが見える。
 あれはきっと娘さんたちが嫁菜(ヨメナ)を摘んで煮ているのだろうよ )

春日野は現在の奈良公園飛火野一帯。
緑の野原、焚き火の赤い炎、細く長く立つ白い煙。
色とりどりの衣裳をまとい、楽しそうにおしゃべりをしながら、
若菜を摘んだり煮たりしている大勢の美しい乙女たち。

作者は遠くに見える白い煙から仙境のような絵画的な場面を
思い描いたのでしょうか。

この歌は後々好まれ、春日野と言えば若菜摘みの代名詞になります。

「 春日野の 草は緑になりにけり
                 若葉摘まむと 誰かしめけむ 」  
                  壬生忠見(みぶのただみ) 新古今和歌集

( 緑になった春日野に標(しめ)がしてあるのは、
 一体誰が若菜を摘もうとしたのであろうか。)

            標:占有の目印

万葉集の2首目は異色の歌です。

「 妻もあらば 摘みて食(た)げまし 沙弥(さみ)の山
      野の上のうはぎ 過ぎにけらすや 」 
                   巻2-221 柿本人麻呂

( せめて妻でもここにいたら、一緒に摘んで食べることもできたろうに
     狭岑(さみね)の山の 野辺一帯の嫁菜はもう盛りが過ぎてしまっている
     のだろうか。)

歌の詞書と長歌に

「 讃岐に旅した時、那珂の港(丸亀市)から東へ船出して間もなく
  突風に襲われた。
  やむなく沙岑(さみ)の島に寄港したとき、岩床に行商人らしき人が
  臥して死んでいた。」とあり

当時このような場合、亡き人の鎮魂をするべく歌を詠い、
合わせて自身の行路の安全を祈るのが習いでした。

人麻呂は行商人が餓死したとみなしたらしく、
嫁菜でも食べていたら飢えをしのげただろうに、と悼んでいます。

          狭岑の山: 香川県沙弥島 埋立てによって今は坂出と陸続き

 「 紫を俤(おもかげ)にして嫁菜かな 」 松根 東洋城

嫁菜は春菊のような香りがあり古くから人気がありました。
美味な上、解熱,解毒など薬草としても効あり、根を含む全草を採取して
水洗いをし、日干しして保存していたようです。

カリウム、ナトリウム、マグネシユウム、リン、鉄などを多く含み
栄養食としても満点。
その上、美味ともなれば現在にいたる重宝されているのも無理からぬことです。

   「 炊き上げて うすき緑や 嫁菜飯」  杉田久女


          万葉集719(嫁菜:よめな)完


         次回の更新は1月18日(金)の予定です。

by uqrx74fd | 2019-01-10 21:06 | 植物

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