2021年 09月 22日
万葉集その八百五十九(月の光)
万葉集その八百五十八(月の光)
「 渚なる白波見えて 良夜かな 」 高濱虚子
註: 「良夜」 秋の月がくまなく照らす夜。
いまではもっぱら名月の夜をいう
今日は中秋の名月(9月21日)。
ドビユッシ-の「月の光」、ベートーベンの「月光」聴きながら
澄み切った夜空を仰ぐ
心地よく響くピアノ。
光を音で表現するとは素晴らしい。
ふと、「万葉人は月の光をどう表現したのだろう」と
歌集を紐解く。
「 水底(みなそこ)の 玉さへ さやに 見つべくも
照る月夜(つくよ)かも 夜の更けゆけば 」
巻7-1082 作者未詳
( 水底の玉まではっきり見られるほどに、清らかに照る月夜
夜が次第に更けていくにつれて、ますます美しくなってきた )
これは凄い!
月の光が川底の石を宝石のようにキラキラと光らせている
と詠った。
「 お見事、お見事 」
「 我が背子が かざしの萩に 置く露を
さやかに見よと 月は照るらし 」
巻10―2225 作者未詳
( あなた様が挿頭(かざし)にしておられる萩に置く露、
この露の輝きを はっきり見なさいと、お月様が
こんなにも明るく照っていますね。)
さやかに見よと:「明るく清らかだからよく見よ」と
お月様が言っている
恋人と仲睦まじく月見。
いとおしそうに顔をまじまじ眺める。
月の光が愛しい人の顔を照らしている。
あれ!頭の上がキラキラ光って。
あぁ!萩の花の上に置く露だ。
なんという幻想的な場面なのでしょう。
「 月読の 光は清く 照らせれど
惑へる心 思ひあへなくに 」
巻4-671 作者未詳
( お月様の光は清らかにそそいでいますが、
私のあなたを想う気持ちは千々に乱れる心の闇。
先が見えなくなって、踏ん切りがつきかねているのです )
「 惑へる心 」 恋に分別をなくした私の心
「思ひあえなくに」 思いを定めかねている
「あふ」は 「~出来る」で反語を伴う
月の光に対して心の闇を配した、明と暗の対比、技巧の歌です。
「月読み」とは元々、古事記や日本書紀に登場する夜を支配する神、
月読命(つくよみのみこと)を指すものとされています。
古代の人は刻々と形を変え一定の期間を置いてまた復活する月に
生命の永遠性を感じ、神と崇めていました。
「読む」は「数える」を意味し、月の形で日数を数えることにより
時の推移と潮の満ち欠けを把握していたのです。
「 月読神(つくよみの かみ)にと 供(そな)ふ 小机に
茹で栗 団子 菊添ふ すすき 」 窪田空穂
万葉集859(月の光)完
次回の更新は10月1日(金)の予定です。
by uqrx74fd | 2021-09-22 08:12 | 自然