2021年 10月 07日
万葉集その八百六十一(東歌:上野国)
万葉集その八百六十一(東歌:上野国)
「 紫蘇の実や 達磨干しある 上州路 」 石井大泉
上野は(かみつけ)群馬県全域を占める旧国名で、上州、上毛ともいわれます。
古代、毛野国が上毛野と那須、下毛野に分かれ、奈良時代上野、下野となり
その後、現在の群馬(上野)、栃木県(下野)に。
自然に恵まれた土地柄で万葉集では25首。
おおらかで明るい歌が残されています。
「 上つ毛野 まぐはし まとに 朝日さし
まきらはし もな ありつつ見れば 」
巻14-3407 作者未詳
まぐはし まとに: 目妙(まぐは)し窓に
まぐはし: 目にも美しく鮮やかな
ま きら はし : ま(目)がきらきらとして、まばゆいさま
( 上野の 目にも爽やかな窓に 朝日が差し込んで、まぶしいように
こうしてあなたに向かい合ったままでいると
なんとも、まばゆくてなりません。)
方言のため難解ですが、美女を目の前にして
「 朝日が窓に射してキラキラするように、まぶしくてならぬ」
と照れる初心(うぶ)な男なのです。
「 伊香保ろに 天雲い継ぎ かぬまづく
人とおたはふ いざ寝しめ刀羅(とら)」
巻14-3409 作者未詳
伊香保ろ:伊香保の山、ここでは榛名山
かぬまづく:あれこれと「かまびすしくて」
人と :「と」は「ぞ」の訛り 人ぞ
おたはふ: 「穏(を)たはふ」で
(噂が)静まるの意
「刀羅(とら):人名 寅年に生まれた女性の愛称か
( 伊香保の峰に 天雲が次から次へとかかるように
いつも うっとうしく目くじら立てている連中。
その連中の邪魔もなくなった。
さぁ一緒に寝てくれ、刀羅さんよ。)
ある山村に評判の美女がいた。
山で働く若者たちが寄ると触るとその話でもちきり。
誰かが少しでもちよっかいを出すと、すぐに目くじらを立てて怒る。
幸い今はうるさい連中もいない。
「お刀羅さんよ、俺と一緒に寝ようよ」と口説く男。
「 利根川の 川瀬も知らず 直(ただ)渡り
波にあふのす 逢へる君かも 」
巻14-3413 作者未詳
利根川:別名、坂東太郎
(波に)あふのす: あふ:出くわす
「のす」:「なす」(如す)の訛り
( 利根川の渡り瀬もわきまえずに真っ直ぐに渡って、
いきなり 大波に出くわすように、
あの人にばったりと出会ったよ。)
何も考えないで歩いていたら好きな男にばったり出会い、
うれしさのあまり抱きついてしまったようです。
如何にも東歌らしい純朴な一首。
「 伊香保嶺に 雷(かみ)な鳴りそね 我が上(へ)には
故はなけども 子らによりてぞ 」
巻14-3421 作者未詳
雷な鳴りそね:雷さんよ、鳴らないでくれ
我が上には: 我が身には
故はなけれど:怖くもなんともないが
子らによりて: よる(因る): 原因になる
可愛いあの子が怖がるからさ
( 伊香保嶺の雷さん、どうか鳴らないでくれよ。
おれは構わんが、あの子が怖がるからさ。)
「 世間の人たちよ、二人の仲をあれこれ喧しく言い立てないでくれ。
あの子が気にして離れていくと困るかな 」
と雷を世間の口に譬えたようです。
「 坂多き 伊香保の町や 榛芽(はんめ)吹く )佐野和子
上州群馬といえば赤城山に国定忠治、空っ風、達磨。
桐生の絹、下仁田の蒟蒻、葱、月夜野町の椎茸,林檎、館林のつつじ。
温泉は草津をはじめ磯部、霧積、伊香保川原湯、万座、鹿沢、
老神、水上と続々。
夏は谷川岳の登山、一ノ蔵沢のロッククライミング、
冬は万座でスキー。北軽井沢を控えた絶好の保養地です。
「 草津の湯 匂ふ湯畑 山眠る 」 赤池貴のゑ
万葉集861(東歌:上野国) 完
次回の更新は10月15日(金)の予定です。
by uqrx74fd | 2021-10-07 16:12 | 万葉の旅